専門家とのQ&A:海の酸性化の原因、影響、そして解決策

News
  • 2023年7月11日

    Photo by Hiroko Yoshii on Unsplash

    気候を調節し、酸素を生み出し、食料と収入をもたらし、さらには生物多様性を支えてくれる重要な海。輸送、娯楽、そして経済にとっても不可欠な存在ですが、人間活動の結果である海面上昇、海洋温暖化、海洋酸性化といった問題による脅威にさらされています。このうちの海洋酸性化は、海のpHが低下して海水の酸性度が高まるプロセスを指し、人間の活動で発生した二酸化炭素が海水に吸収されて起こります。海洋酸性化とその影響についてより詳しく学ぶために、国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)の専門家であるジャック・オコナー博士に話を聞きました。

    ・・・

    海洋酸性化とは正確には何を意味するのでしょうか?また、なぜそれほどの脅威なのでしょうか?

    海洋酸性化は複雑な化学プロセスが関係するため、見過ごされがちな問題です。海洋は大気中の二酸化炭素に対する天然の緩衝装置として働き、二酸化炭素を海水に吸収してくれます。約200年前に産業革命が始まって以来、人類の二酸化炭素排出量は加速度的に増え、海水に吸収される二酸化炭素の量は約25%増加しました。水に吸収された二酸化炭素が化学的な連鎖反応を起こして最終的に重炭酸イオンと水素イオンを放出するため、海水の酸性度が高まるのです。

    酸性度が高まるにつれて、海水中の炭酸塩の量が減少します。海洋生物は一定の海洋条件に適応しているため、狭い範囲の中でのみ繁栄し、その特定条件から押し出されると生存が困難となります。今、この特定条件が変わりつつあるのです。一部の海洋生物は炭酸塩を使って殻を作るため、炭酸塩なしでは存在できません。例えば、サンゴは炭酸塩を使ってその骨格を作ります。水中で利用できる炭酸塩が減れば、海洋生物がそれぞれの重要な構造を形成する能力が低下します。既存の構造も、酸性度の高い海水によって浸食され、カニやウミガメのような生物の甲羅に穴が開く可能性もあります。最悪の場合、生物たちは殻をまったく形成できなくなるでしょう。

    海洋酸性化は海洋とその生態系、人間自身の生活の未来にどのような影響を与えるのでしょうか?

    心配なのは、海洋酸性化の長期的影響が不明であることです。自然は適応能力を備えていますが、現在の変化のスピードはその調整能力を超えています。酸性化は世界中の海洋領域で不均一に起きるため、生物種が移動し、生態系は脆弱な状態にさらされます。例えば、生態系に不可欠な生物種がそこを去ったら、その生態系は正常に機能できなくなる可能性があります。同様に、既に確立している生態系に新たな種が入ってくればと、マイナスの影響が生じることがあります。したがって、海洋酸性化の連鎖的な影響によって生態系の多様性が脅かされるかもしれません。

    海洋酸性化に対して脆弱な生物には、海の食物連鎖の土台とも言われるプランクトン種があります。プランクトン種が絶滅したときに影響を受けるのは、海洋生物種だけに留まりません。この食物連鎖の乱れにより私たちの食料源の1つが深刻な影響を受け、人々は収入と生計手段を失うとともに食料不安を経験する可能性があります。

    変化する海洋条件や資源に最もよく備え、対応するにはどうすればよいでしょうか?

    気候変動の影響を軽減するためには炭素排出量を削減しなければなりません。既に進行している酸性化についての適応策も求められます。今すぐ排出を止めたとしても、海洋が回復して化学的状態のバランスを取り戻すためには、長い時間要しますを。局地的には、対策を練れば日々の変動に対処することが可能です。例えば、米国オレゴン州のカキ養殖場では、稚貝が殻を形成できなくなった際、水流を調整し、緩衝液を加えて対処しました。より大局的には、海草やケルプの藻場といった植生海域が、酸性度の低い海域を形成し、海洋生物の避難所となってくれるでしょう。

    どうすれば海洋酸性化を止められるでしょうか?

    自然がバランスを回復できるよう、酸性化プロセスを減速させたいなら、海洋が中和できるレベルまで炭素排出量を削減することが基本的な解決策となります。手をこまねいていれば、食物連鎖と生態系が消失し、海洋の生物多様性が劇的に低下するでしょう。

    酸性化は単独で発生するものではありません。海洋では酸性化に加え、温暖化や海面上昇も進行しています。資源の乱獲や海洋汚染も起きています。こういった主要なストレス要因のすべてが相互に作用するのです。例えば、サンゴが死ぬのは酸性化だけが原因ではなく、海洋温暖化と汚染の結果でもあります。酸性化を食い止め、私たちの海洋を救うには、これらすべての問題に同時に取り組まなければなりません。

    ・・・

    本記事の原文(英語)はこちらからご覧いただけます。