世界の安全保障における新たなフロンティア:最先端技術と宇宙空間

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  • 2025年5月28日     東京

      2025年5月19日、国連大学と国連軍縮研究所(UNIDIR)は、「世界の安全保障における新たなフロンティア:最先端技術と宇宙空間」と題したパネルディスカッションを開催いたしました(共催:外務省)。AIと宇宙技術の安全保障への影響について、さまざまなバックグラウンドを持った専門家が議論し、より安全な未来に向けた国際ガバナンスの必要性を提言しました。

    冒頭、チリツィ・マルワラ 国連大学学長・国連事務次長のビデオメッセージが上映されました。マルワラ学長は、技術革新がもたらす可能性と、それと同時に生じるリスクについて触れ、国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)が取り組む「相互に関連する災害リスク」に関する研究を引用しながら、宇宙ごみの問題が災害リスク管理においてますます重要になっていることを強調しました。「私たちが直面する多くの課題は相互に関連しています。技術の進歩が、平和と安全保障にもたらす機会とリスクの両面を理解することは不可欠です」

    続けて、UNIDIR理事会の議長を務めるショ-ナ・ケイ・リチャーズ 駐日ジャマイカ大使が開会の挨拶を行いました。リチャーズ大使は、技術革新のスピードの加速と新興技術が武力紛争に用いられる事例の増加について懸念を示しました。「宇宙は次なる戦いの領域になりつつある」と警鐘を鳴らした上で、AIの利用を規制し、宇宙空間での軍拡競争を防ぐための国際的な枠組みの強化を呼びかけました。

    その後のパネルディスカッションでは、NHK副解説委員長の飯田香織氏がモデレーターを務め、UNIDIR所長のロビン・ガイス博士、JAXA宇宙飛行士の山崎直子氏、そしてAstroscale社COOのクリス・ブラックビー氏がパネリストとして登壇しました。ディスカッションでは、新興技術がもたらす安全保障環境の変化、とりわけ宇宙分野に焦点を当てた議論が展開されました。

    ガイス博士は、地球周回軌道上での衝突事故や意図的な妨害行為のリスクが高まっていると指摘し、衛星への干渉が社会全体の機能に影響を及ぼす可能性があることを強調しました。また、政治的な合意形成による規制推進の重要性、そしてAIや自律システムによる「機械戦争」の時代の到来についても言及しました。

    山崎氏は、国際宇宙ステーションに滞在した自身の経験を語り、搭乗していたシャトルが宇宙ごみに衝突した出来事を振り返りました。彼女は宇宙外交と国際協力の重要性を訴え、「地上で良好な関係を築ければ、宇宙でも良好な関係を築くことができます。そして、その逆も可能なはずです」と述べました。

    ブラックビー氏は、現在の軌道上にある宇宙ごみが与える環境リスクについて焦点を当て、「宇宙環境は危機の瀬戸際」にあると表現し、軌道上での「循環型経済」の実現を訴えました。また、宇宙開発が政府主導から民間主導へと転換している点にも触れました。

    パネルディスカッション終了後には、参加者との質疑応答が行われ、紛争予防、自律的な宇宙ごみ除去、宇宙分野におけるジェンダーの包摂、太陽フレアによるリスクなど、多岐にわたるテーマについて活発な議論が展開されました。このイベントは、国連大学とUNIDIRが新たな安全保障上の課題に対して包摂的かつ先見的な国際協力を推進していくという共通の意思を改めて確認する機会となりました。