2025年5月25日 東京
2025年5月15日、国連大学は、The Eldersおよび言論NPOと共に、「広島・長崎原爆投下から80年:今こそ問われる世界的連帯 ― 分断された世界で多国間協力を再生するには」と題する記念イベントを共催いたしました。このシンポジウムには、300名を超える参加者が集まり、各国の大使、学術関係者、市民社会の代表者、元国家元首などが一堂に会しました。
開会の挨拶では、言論NPOの創設者兼代表である工藤泰志氏が登壇し、参加者を歓迎するとともに、地政学的な不安定化が進む世界において、率直な対話の場として本フォーラムの重要性を強調しました。工藤氏は、国連大学およびThe Eldersへの感謝の意を表し、世界が分裂の深まりと地政学的不安定に直面している中で、行動を起こすことの緊急性を強調しました。また同氏は、多国間主義を支持する日本ならではの責任を強調し、グローバルな言説を形成する上で市民社会が重要であることを取り上げ、参加者に対し、分断化が進む世界でいかにして集団的連帯を回復できるかを考えるよう呼びかけました。また、市民社会が国際的な議論において果たすべき役割の重要性を再確認し、分断が深まる世界において、いかにして連帯を再構築するかについて参加者に考えるよう呼びかけました。
続いて、岸田文雄前内閣総理大臣が基調演説を行い、The Eldersの参加を温かく歓迎するとともに、核軍縮と多国間主義に対する日本の変わらぬコミットメントを再確認しました。岸田元首相は、自身の故郷である広島をThe Eldersが戦後80年という節目に訪れた意義を振り返り、彼らの継続的なアドボカシーに深い感謝の意を表しました。「核廃絶は、私の政治家としての信念」であると述べ、核兵器のない世界の実現に向けた個人的・政治的決意を強調しました。
岸田元首相は、核兵器がもたらす脅威の増大と、ルールに基づく国際秩序の崩壊に警鐘を鳴らし、「人類の生存に関わる根源的な命題に全力で取り組まなくてはならない、今こそがその局面だ 」と訴えました。また、「日本は、多国間主義の旗をこれまで以上に高く掲げ続けなくてはならない」と述べ、世界的な対話を促進する日本の責任を改めて強調するとともに、「世界が力を合わせるべき局面で、自国の利益だけで行動することは、国際政治の根幹を壊し、過去と同じ過ちを繰りかえすことになりかねません」と警告しました。
シンポジウムの中心となるパネルディスカッションでは、国連大学学長兼国連事務次長のチリツィ・マルワラ教授がモデレーターを務めました。多様で卓越したグローバルリーダーたちが一堂に会し、山積する世界的課題を背景に多国間協力の再構築の緊急性について議論を交わしました。
パネリストとして登壇したのは、フアン・マヌエル・サントス元コロンビア共和国大統領(The Elders会長、ノーベル平和賞受賞者)、ショ-ナ・ケイ・リチャーズ 駐日ジャマイカ大使(国連軍縮諮問委員会(ABDM)議長)、潘 基文 元国連事務総長(The Elders副会長)、そして田中 伸男 イノベーション・フォー・クール・アース・フォーラム(ICEF)運営委員長および元国際エネルギー機関(IEA)事務局長です。
議論において、サントス元大統領は、最近のインドとパキスタンの衝突に焦点を当てました。サントス大統領は、2つの核保有国間の衝突がエスカレートすることは前例がないと懸念し、共通の解決策を促進するためにあらゆるレベルでの対話の重要性を強調しました。「The Eldersの創設者であるネルソン・マンデラ氏が主張した原則、すなわち建設的な対話の必要性は消滅してしまいました。対話はますます難しくなっています。そして対話なくして合意はあり得ません」と警告しました。
潘基文 元国連事務総長は、国連事務総長としての在任期間と、制度改革を進める上で直面した根強い課題を振り返りました。今日の地政学的情勢において効果的な存在であり続けるためには、国連が進化する必要があることを強調し、「現在でも国連の改革は大きな課題だ」と述べました。彼の発言は、多国間機関の強化における忍耐とビジョンの重要性を強調したものです。
リチャーズ大使は、小島嶼開発途上国の代表として核不拡散を推進した経験から得た見識を披露し、「リーダーシップは力と同一視されるべきではない」と参加者に注意を促しました。リチャーズ氏は、一国主義の台頭を懸念し、今日のグローバル課題が相互に関連していることを強調しました。「汚染に国境はありません。ウイルスは入国審査で止まることはありません。海も、風も、誤った情報さえも自由に流れているのです」と述べ、包摂的で公平なグローバル・ガバナンスの必要性を訴えました。
田中信夫氏は、特にエネルギー外交を通じて、安定した多国間秩序を推進する上で日本が果たす独自の役割について語りました。また、日本と韓国の協力関係をモデルとして挙げ、エネルギー協力の戦略的重要性を強調しました。また、エネルギー、気候変動、地政学が交錯する中、原子力技術の平和利用を提唱し、「平和利用にコミットし続けなければならない」と述べました。
パネル・ディスカッションの後、来場者との活発な質疑応答が行われ、参加者はイベントで取り上げられた差し迫った諸課題についてパネリストと直接対話する機会を得ました。国連職員から学術関係者、日本の高校生まで、多様な参加者から質問が寄せられました。未来形成における若者の役割、グローバルな安全保障の再定義、人工知能のガバナンス、国連安全保障理事会の緊急改革の必要性などが話題となりました。
潘基文 元国連事務総長は閉会の挨拶において、多国間主義の現状について冷静でありつつ希望を抱かせるような考察を行いました。潘氏は、数十年にわたり国際平和と国際協力に尽くしてきた経験から、世界的な規範の侵食や核の脅威の再燃を挙げ、「多国間主義はまさに危機に瀕している」と警告しました。「平和は運だけに頼るにはあまりに尊い」と訴え、指導者たちに勇気と先見性をもって行動するよう促しました。同氏は結びに、包摂的で、代表的で、今日の存亡の課題に対処できる、活性化された国際システムの必要性を訴えました。また、若い世代に指導者の責任を問うよう促すとともに、世界の平和と安全保障の未来は、今日の私たちの選択にかかっていることを再認識させてくれました。