増加する都市洪水リスクに適応するための5つのポイント

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  • 2023年7月25日

    © Arianna Flores Corral / UNU-EHS

    急激な都市化や気候、社会および土地利用の変化を原因として、地球全体の多くの都市部では、人々、インフラ、暮らし、生態系が洪水リスクの増加に直面しています。コミュニティーの福祉を守るためには適応のための大規模な取り組みが必要です。ベトナム中部は、特に洪水が発生しやすい地域の一つですが、国連大学の研究プロジェクト「FloodAdaptVN」ではベトナム中部のフエという都市部で現在および将来の洪水リスクの理解を深め、適応策の特定を目指しています。以下では、同プロジェクトの研究者たちがプロジェクトの教訓を基に、洪水が起きやすい都市部で、適応の計画立案、実施、評価を検討する際に重要な5つのポイントを提起します。

    1.洪水の影響はシステム全体に及び、適応でも要考慮

    洪水は経済や都市という観点でコミュニティーや生態系に影響を及ぼします。ベトナム中部では、2020年10月の大規模な洪水によって甚大な破壊と人命喪失が発生しました。こうした災害の直接的影響は相互につながり合っていることが多く、連鎖的に生じる深刻な間接的影響も引き起こします。例えば、病院や医療センターが損害を受け、医療スタッフも被災し、輸送が途絶したことで、医療サービスの提供が中断されました。このことで、基本的ニーズを満たすことができなくなり、人々の福祉が脅かされました。有害な影響を軽減して長期的な影響を防ぐには、包括的な適応アプローチが必要です。

    2.適応ではハザード管理のみならず、暴露、脆弱性、根本的なリスク要因も踏まえよう

    適応のための取り組みでは、洪水を管理し、制御することが優先されがちです。ベトナムにおける既存の洪水リスク評価は、主に現在と将来のハザードレベルに焦点を当て、同国の洪水リスク管理戦略では、大規模ダムと用水路・排水路システムを活用したハザード管理に焦点が当てられています。洪水リスクを悪化させる人間の活動は、重要であるにもかかわらず、多くの場合、評価も対処もされません。暴露、脆弱性、リスク要因、そしてそれらの背景にある社会政治的な状況、構造、価値、規範を踏まえた適応策を設計し、そうした内在するリスク因子を理解してそれらに対処することが、都市部における洪水リスクを効果的に軽減する上で極めて重要です。そのためには、ハザード、暴露、脆弱性、および根本原因の関係性と将来的変化を徹底的に検討しなければなりません。

    3.高まる洪水リスクへの適応では、自然を基盤とした解決策が重要な役割を果たし得る

    都市部の保護を目的とした洪水リスクへの適応策は、主に人工的な解決策に依存します。そうした解決策は洪水の危険を効果的に軽減はしますが、高コストで、保護機能に限界があるとともに、設計上、可動的ではありません。河川の氾濫原のような自然を基盤とした解決策は、都市部のための洪水防止機能に加え、レクリエーションスペースや生物多様性の保全といったコベネフィットを提供し、既存のアプローチを補完することができます。人工の内陸湿地帯は天然の貯水池として機能すると同時に、降った雨水を保持することもできます。また、内陸湿地帯は二酸化炭素を吸収してくれるカーボンシンクとして機能し、廃水処理を一例とする広範な生態系サービスを提供します。生態系を重要なグリーンインフラとして認識することは、洪水防止のために極めて重要です。生態系サービスをマッピングして定量化することで、洪水を防ぐ生態系の能力と、洪水リスク管理という観点での洪水リスク関する生態系の限界を理解する助けとなります。

    4.適応策の実施前に、考え得る影響や結果を包括的に評価することが重要

    ある場所で機能することが、別の場所では適切でなかったり、リスクを増大させたりすることもあります。適応オプションの評価では、それぞれの状況に応じた基準を採用しなければなりません。さらに、評価では金銭的コスト、洪水リスク軽減、生物多様性への影響、社会的な公平性、ジェンダー平等、社会的受容性などの多様な基準の組み合わせを検討する必要があります。最適な適応策を特定するためには、最も脆弱な立場の人々や社会から取り残された人々の声を聞きつつ、現地のステークホルダーと協力して包括的な基準リストを共同で作成することが欠かせません。

    5.洪水に対する都市のレジリエンス(強靭性)構築には、適応を妨げる要素、後押しする要素に取り組むべし

    都市の洪水リスクに適応するために有意義な取り組みが行われてきましたが、多くの障壁によって適応におけるギャップ(不足部分)がいまだ残っています。適応の規模を拡大していくには、適応を可能にしたり妨げたりする社会的、経済的、技術的および生態的な要因を特定することが不可欠です。フエ市では、家族や友人の間で知識や経験を共有することが、各世帯における適応を可能にする重要な要素として認識されています。しかし、リスクに関する認識や意識の低さといった障壁が前進を妨げています。これに対処するには、例えば啓発キャンペーンや訓練などを通じて障壁に立ち向かうのみならず、日常的な経験共有の場に財政支援を投じるなど、適応を後押しする要素を支える戦略や対策を取り入れていく必要があります。

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