気候変動による損失・被害はすでに生じている:国連大学レポート

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  • 2013年11月21日     Bonn

    国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)は先週、地球規模ですでに生じている気候変動による損失・被害に焦点を絞った研究レポート「Pushed to the Limit(限界に達して)」を発表しました。

    この新しいレポートは、ポーランドのワルシャワで気候変動に関する国連枠組条約(UNFCC)の第19回締約国会議(COP19)が(11月11〜22日まで)開催されるのを受けて発表され、さまざまな適応策が採られてきたにもかかわらず、脆弱なコミュニティが生計と食料安全保障を脅かす損失や被害にさらされていることを示しています。

    「私たちの調査結果は、現行レベルの適応策や緩和策では、さまざまな気候ストレスからの負の影響を回避するには十分ではない、ということを明確に示しています。今すぐに政策的対応が必要とされています」と、UNU-EHSの「損失と被害イニシアチブ」の科学ディレクターを務めるココ・ワーナー博士は解説するとともに、次のように指摘しています。「食料安全保障や生活を損なうことになる気候変動の影響を、たった今も人々は感じています。そうした負の影響は、私たちが行動を起こさなければますます深刻化していくだけです。現状維持はもはや選択肢とはなり得ません」

    同レポートで紹介されている9つの科学的ケーススタディーー3,260世帯との面談および200を超えるフォーカスグループ討議をもとにしたーーは、ブルキナファソ、エチオピア、モザンビークまたネパールで発生した洪水や干ばつの影響について調査するとともに、先にバングラデシュ、ブータン、ガンビア、ケニアおよびミクロネシアにおいて実施された調査を踏まえています。主に小規模農家の世帯を中心とした地域ケーススタディーによれば、降雨パターンの変化、洪水や干ばつが起こる頻度の増加といった気候変動の影響によって生活の安定や食料安全保障が直接的、そして決定的に脅かされています。

    気候変動による被害を緩和するためにさまざまな対応策や適応措置が採られてきたにもかかわらず、エチオピアの対象地域において調査した世帯の96パーセントが、またネパールでは78パーセントが、ブルキナファソでは72パーセントが、そしてモザンビークでは69パーセントが、今なお気候変動で生じた被害によって家計に深刻な悪影響を受けています。対象地域全体で見て調査世帯の4世帯のうち3世帯が、食事の回数や量を減らさざるを得なくなったと答えており、これは明らかに対応が十分でないことの表れです。

    「2007年にエチオピアで発生した大規模な洪水によって、回答者の94パーセントが、作物の深刻な被害あるいは全滅を報告しています。農作物の大規模な被害はまた、食料価格の高騰につながり、それによってトウモロコシなどの主食が手の届かないものになっているのです」と、アフリカにおけるケーススタディのパートナーで、「アフリカ気候政策センター(ACPC)」でコーディネーターを務めるファティマ・デントン博士は述べるとともに、次のように指摘します。「調査では、すでに苦しい生活状態にある世帯が、気候変動の影響により、いっそう深刻な貧困に追いやられるという事実にいくどとなく遭遇しました 」

    気候変動の影響による損失や被害は金銭的価値で表されることが多いですが、実際には、文化やアイデンティティの喪失といった非経済的損失や被害が最も広範囲に深刻な影響を及ぼす可能性があります。例えば、ブルキナファソでは放牧民達は、水や干し草の不足によって家畜の数を間引いている。このことは、物理的資産の損失というだけでなく、文化的アイデンティティや生活の深刻な損失を意味しています。

    本UNU-EHSレポートに示されている損失と被害の証拠は、気候変動に関連する損失と被害に対処するための制度的取り決めの設定が最重要課題である気候変動会議が、ワルシャワで開催されるというきわめて重要な時期に発表されました。

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    UNU-EHSの脆弱な国における損失・被害イニシアチブ研究の詳細については、Related Files(関連ファイル)タブからドキュメントをダウンロード、もしくはUNU-EHSのウェブサイトをご覧ください。