2024年6月5日
プラスチック汚染をなくすための条約交渉が現在、大詰めを迎えています。以下では、国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)が条約交渉について解説します。
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街中から河川に至るまで、プラスチックごみは私たちの環境の至る所に散乱しています。プラスチック汚染の目に見える影響は顕著であり、人間や動物の健康に及ぼす目に見えにくい影響も同様に深刻ですが、プラスチックごみは増加の一途をたどる見込みです。2022年以降、プラスチック汚染をなくすための画期的な条約案の交渉が進められています。国連環境総会で採択された決議により開始されたプロセスが大詰めを迎え、本年11月の署名という目標に向け、進められています。4月下旬、これまでで最大級の会合において、関係国とステークホルダーがカナダのオタワに集まり、本年後半に決定される条約文の作成に当たりました。
以下は、プラスチックごみ削減のための交渉に関する5つのポイントです。
食料・飲料用の使い捨ての包装や携帯電話のケースなど、私たちはプラスチックをあらゆるものに使っています。意外に思われる方も多いでしょうが、その多くはリサイクルされずに廃棄物となって大地、河川、海洋といった環境中に蓄積されています。国連環境計画(UNEP)によると、2050年までに年間10億トンのプラスチックが生産されるようになる見通しです。
プラスチックの原料は化石燃料であり、現在、プラスチック生産は世界の温室効果ガス排出量の5%を占めています。しかし、更なる悪化が見込まれ、プラスチック生産に伴う排出量が占める割合は2050年までに20%に跳ね上がると予測されています。したがって、パリ協定の目標を達成するにはプラスチック生産量の削減が重要です。
プラスチック条約では、原材料の採取から生産、設計、使用、廃棄に至る「ライフサイクル・アプローチ」を通じて、プラスチック汚染をなくすことを目指しています。締約国は廃棄物管理に効果的な措置をとることを約束しますが、条約の目標はプラスチックの生産、取引、使用を全体的に制限することです。例えば、条約案では、使い捨てプラスチック使用量やマイクロプラスチックの削減へのコミットメントが盛り込まれています。同時に、循環型経済アプローチに沿ったプラスチックの管理と設計に向け、ベストプラクティス推進のための仕組みが提案される予定です。
関係国は、将来発生するプラスチック汚染をなくすだけでなく、すでに環境中に存在するプラスチック汚染への対処についても議論しています。こうした既存のプラスチック汚染のほとんどが、水界生態系に見られます。UNEPによると、毎年1,900万トンから2,300万トンのプラスチックごみが湖、河川、海洋に流出しています。マイクロプラスチックは食物連鎖に入り込むため、流出したプラスチックは種と人間の生命に重大なリスクをもたらします。現時点の草案における主要な規定では、最も影響を受ける地域、人間の健康や種や生息地への脅威、そして緩和・除去対策の採用方法を特定するための協力メカニズムを構築することを締約国に義務付けています。
条約が成功裡に締結されれば、環境をめぐる多国間協力が大幅に促進され、過去の条約と肩を並べられるでしょう。例えば、1987年に署名されたモントリオール議定書は、オゾン層破壊物質の段階的廃止につながりました。パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて1.5Cに抑えるという重大目標が掲げられました。しかし、これらの前例同様、「認めない」「段階的廃止」といった重要な文言や、資金調達、公正な移行などをめぐる意見の相違が根強く残っています。現在の課題は、関係国が合意に達し、過去の条約と同程度のものを実現することです。
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