2014年5月7日
Photo: UN Photo/Paulo Filgueiras
国連安全保障理事会 は国際政治における最上の討議の場である。決定、マンデートを付与した活動、実行活動を通して、安全保障理事会は国際平和と安全保障の現在と未来の状況に、直接的な影響を及ぼす。本稿は、この最も重要な組織を読者に理解していただくことを目的としたシリーズの第1回である。したがって今回は序論に過ぎない。
1945年6月26日、San Francisco War Memorial and Performing Arts Center(サンフランシスコ戦争記念舞台芸術センター)において、50カ国の代表者らが国際連合憲章に署名した。この文書に謙虚な思いを込めて署名を入れることによって、国際連合は創設されることになった。国際連合は、人類が持つ最も寛大な感情、すなわち慈善、希望、信頼が吹き込まれた国際組織である。この組織の中心には、恐らく史上最も強力な国際関係組織が置かれることになった。それが国連安全保障理事会である。
国連憲章の下、安全保障理事会は国際平和と安全保障の監督者としての任務を担う。15カ国の理事国は、それぞれ1票を有する。理事会は平和への脅威を定義し、調停、制裁、さらに武力行使を含むさまざまな手段を利用して、それらの脅威に対処する権限を持つ。
国際連合の起源は、フランクリン・D・ルーズベルトとウィンストン・チャーチルの哲学的熟考の中に見られる。戦後の秩序に関するルーズベルトのビジョンは明確だった。すなわち「正義が権力を自由に使えるようにする」という考えだ。彼やその他のリーダーたちにとって、この公式への答えは、「4人の警察官」構想の組織化によってしかあり得なかった。この構想は、戦後の時代に中華民国、アメリカ、イギリス、ソビエト社会主義共和国連邦が安全保障の提供者(つまり「警察官」)として行動することを認めるべきであり、国際社会のその他の国は安全保障の消費者とする考えだ。
この新しい組織の実際の青写真は、アメリカ国務省とイギリス連邦省によって描かれ、1944年の春、ワシントンDCのダンバートン・オークスで開催された「the Washington conversations on the creation of an international peace and security organization(国際平和と安全保障に関する組織創設に関するワシントン対談)」で議論された。ダンバートン・オークスでは、国際平和と安全保障を維持するために必要な権能と権限を有する安全保障理事会の創設を中心に議論が行われた。
(フランスが後日加わったため)後に5人となる「4人の警察官」が安全保障理事会を通じて一致した行動を取り、空軍を基盤とする国際軍が決定事項を実施することが想定された。こうした軍の指揮統制は、第二次世界大戦中にヨーロッパで行われていた連合参謀本部システムの延長として、軍事参謀委員会が管理することとされた。軍事参謀委員会は、安全保障理事会の常任理事国5カ国の軍代表者で構成される他、貢献度に基づいてその他の主要国の軍代表者も含まれることになった。
しかし、武力は最終手段としてのみ用いられることとされていた。安全保障理事会は選択肢を持ち、まずはその他の方策、特に制裁手段を利用することができた。国連憲章の第7章は、想定される理事会の対応の進行あるいは拡大を、非常に明確かつ論理的に示している。理事会の対応の進行における第1段階は第40条に記されており、事態の悪化を避けるために講じることができる「暫定措置」について言及している。しかし、コンプライアンスが得られなかった場合、第41条が理事会の決定を「実施するために適用」される。第41条には、コンプライアンスを導き出すために適用可能な制裁の詳細なリストが含まれる。制裁が不十分であることが明らかになった場合、第3の措置(対応の拡大における最終段階)が武力の行使である。武力行使の根拠は第42条に記されている。
ダンバートン・オークス、さらに後にサンフランシスコでも、最も論議を生んだ問題が、拒否権の問題であった。専門用語として拒否権は国連憲章の第27条(3)に示されている。
「その他のすべての事項に関する安全保障理事会の決定は、常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛成投票によって行われる……」
単純に言えば、拒否権の権限によって、常任理事国は反対票を投じ、理事会の決議を阻止することができる。
拒否権は、5常任理事国(P-5)の利得を守る効果的なセーフガードとして機能するように制定された。なぜなら、常任理事国は自国の利益あるいは同盟国や協力国の利益を守るために拒否権を行使できるからだ。つまり、常任理事国は、理事会が自分たちの「領域」に侵入してきたと感じた時にはいつでも拒否権を行使できる。拒否権は理事会の機能不全を誘発しかねない一方で、有益な機能も発する。この機能は協調機能として知られている。拒否権を制定することで、国連は実質的にすべての列強国の参加を保証していた。そして1945年、サンフランシスコにおいて、世界は「偉大な権力の特権を有する組織」か「組織なし」か、厳しい選択を迫られた。
拒否権によって常任理事国は、自国の利益を考慮した相互関係を管理できる。すべての常任理事国が賛成すれば、行動を起こすことができる。反対すれば、行動を阻止できる。従って、争点となる分野は避けられ、列強諸国が分裂するので、直接的な対立を効果的に回避できる。
理事会の反応に関する想定されたプロセスは、単に実行性の観点から廃止され、理事会は設立当時に想定されたものとは極めて異なる方法で活動し始めた。初期の理事会は、スペイン、ギリシャ、トリエステ自由地域、イラン、インドネシア、インド・パキスタンという「問題」に取り組んだ。その後、現在では固定化したパレスチナ問題、スエズ危機、コンゴ、キプロス問題、その後は南西アフリカの問題に取り組んでいった。こうした問題に対処するに当たり、理事会は軍事監視要員や、後の介入平和維持要員、さらに調査団の利用を採用した。さらに理事会は、トリエステ自由地域として知られる国際的な保護領の制定まで行い、国連軍をコンゴに展開した。
冷戦の終結以降、それまでは十分に活用されていなかった理事会が活発に活動するようになり、4大陸の各地において多様な情勢に対応した。1990年代、理事会は特に痛々しく複雑な一連の内紛に介入し始めた。
理事会は、エルサルバドル、ナミビア、モザンビークに効果的な支援を行い、さらに野心的なカンボジアでの暫定統治支援(比較的効果的だった)を行った。好結果に勇気づけられ、高い期待を抱いた理事国は、なおも野心的になった。間もなく理事国は、人道的援助物資の輸送を支援するために、ソマリアと旧ユーゴスラビアに多数の平和維持要員を展開した。派遣団が立脚した概念的根拠には欠陥があり、上記2つのいずれの活動も最終的には効果的ではなかった。ソマリアでの国連活動(第2次国連ソマリア活動、UNOSOMⅡ)の拙速な撤退に続く国連平和維持活動の突然の縮小(権限を与えられた派遣団の数の減少)は、国連ルワンダ支援団(UNAMIR)の崩壊を招いた一因である。安全保障理事会がルワンダでの大量虐殺を食い止められなかったことは、間違いなく理事会の最大の失敗である。
現在、理事会は全般的に次の3種の状況に対応する。(1)化学兵器、生物兵器、放射能兵器、核兵器の拡散(2)国際紛争(3)国内紛争。より最近では、理事会はさらに(4)横断的アジェンダ(5)準立法的アジェンダを展開している(表1をご覧ください)。
表1: 国連安全保障理事会の状況
状況 | 説明 | 事例 |
国際紛争 | 国際紛争とは、2理事国あるいはそれ以上の理事国間の暴力的な武力紛争の状況である。通常、このような紛争は、国境紛争、資源の利用権、歴史的不満、戦略的利害の対立、あるいは文化や民族性を根拠とした領土併合(近隣国の少数集団の保護も含む)といった問題をめぐって争われる。. | イラク・イラン間、
イラク・クウェート間、 米国・アゼルバイジャン間、 アオゾウ地帯(リビア・チャド間) エチオピア・エリトリア間 イスラエル・レバノン間 |
国内紛争 | この種の紛争には、非国家主体や中央政府など、さまざまな関係者が関与する。国内紛争は国の複雑な社会構造に根差したもので、一般的に、民族性、宗派、経済的不平等、政府の有効性といった問題を特徴としている。 | エルサルバドル、カンボジア、シエラレオネ、コンゴ共和国、南スーダン |
化学兵器、生物兵器、放射能兵器、核兵器の拡散 | 安全保障理事会は兵器拡散を国際平和と安全保障への脅威として見なす。なぜなら、こうした兵器が配備された場合、多数の人々の命を奪う殺傷力があるからだ。しかし理事会は、すべての兵器計画を国際平和と安全保障への脅威とは見ていない。 | イラン、
イラク、 北朝鮮 |
準立法的問題 | 2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件以来、安全保障理事会は準立法的問題において行動してきた。法的能力における理事会の有効性は、理事国による法的決議の実施に左右される。テロと大量破壊兵器に関する決議1373および1540は、理事会によって「立法化」されたように国内法を変更するように理事国に要求している。 | テロ行為、
非国家主体、大量破壊兵器、 |
横断的問題 | 安全保障理事会は横断的あるいはテーマに沿った活動を担ってきた。武力紛争における民間人の保護、平和と紛争における女性、子供と武力紛争、小火器に関する決議を採択している。 | 民間人の保護、
平和と紛争における女性、 子供と武力紛争、 小火器 |
過去70年にわたって、安全保障理事会は、こうした状況に対応するために利用してきた一連の手段(表2)を開発した。ますます複雑さを増す状況において、理事会は驚くほど革新的であることを自ら証明している。それと同時に、こうした手段の利用において著しい失策も犯しており、時には過去の過ちから学べないこともあった。理事会はルワンダ、ボスニア、ソマリアで、後に全く不適切だったことが明らかになる措置を講じた。こうした絶望的な失敗が理事会の威信を損ない、国連というブランドを傷つけた。
表2:国連安全保障理事会の手段
手段 | 説明 | 事例 |
伝統的平和維持活動 | この手段には軽武装の部隊配置が伴う。この部隊の任務は、紛争関係者が特定の合意、通常は停戦合意を順守しているかどうかを監視し、報告することである。伝統的平和維持部隊は、紛争関係者の間に配備される。こうすることで、関係者の軍を引き離す緩衝地帯が生まれ、国連活動が介在部隊として中間に置かれる。 | 国連兵力引き離し監視軍UN (UNDOF) |
特別政治ミッション(SPMs) | 特別政治ミッション(SPMs)は、限定的な目的を持つ非軍事的ミッションである。通常、SPMsは選挙改革や法規改革といった問題に関して、中央政府に限定的な支援を行う。 | 国連リビア支援団(UNSMIL) |
複合的平和維持活動 | これらの介入は軍と民間の任務を統合するもので、一般的に以下が含まれる。選挙の編成と支援と監視。輸送回廊地帯の保護を含む人道的援助活動。武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)。治安部門改革(SSR)。人権と法規の促進。 | 国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO) |
暫定政権 | 国家主権の侵害という点では最も広範な介入スタイルが、国連保護領あるいは国家代理モデルである。この介入において国連は、警備、司法制度の管理、インフラストラクチャーの再建を含む、中央政府の基本的な民政機能のすべてを引き受ける。 | 国連コソボ暫定行政ミッション (UNMIK),
国際連合東ティモール暫定行政機構(UNTAET) |
未解決の平和構築 | 複合的平和維持活動が小規模で長期的な平和構築事務所に変更することを、理事会はよく認めるようになった。このような事務所は、国連総会と平和構築委員会に委譲され、未解決の平和構築任務を確実に完遂し、長期的な平和と安定に向かう勢いを強化することを目指す。 | 国連シエラレオネ統合平和構築事務所 (UNIPSIL) |
包括的な経済制裁 | 包括的制裁は、国際的に国を完全に孤立させることができる。国際通商貿易は国同士の相互関係が特徴であるため、経済制裁の行使は国の経済を速やかにくじかせることができる。さらに外交的制裁、文化交流やスポーツの試合の禁止は、制裁を課された国の市民が積極的かつ公式に国際社会に参加することを効果的に妨げ、結果的に被制裁国で広く体感される孤立感情を一層強める。 | イラク (決議661) |
標的制裁(渡航の禁止と資産凍結) | 標的制裁 は、正確さを高めるために考案された制裁で、特定の個人、企業、非政府組織の経済や自由に影響を及ぼすように的を絞っている。この種の圧力が、標的となったリーダーに特定的に適用されると、決定を下す者たちに個人的に影響を及ぼす。標的制裁の論理は、政治的エリートが高級品、海外旅行、個人資産、財源へのアクセスを剥奪された場合、各自の個人的な利益に従うようになるというものだ。その結果、彼らは常軌を逸した政策を放棄し、安全保障理事会の要求を順守するようになる。 | |
物品特定制裁 | 物品特定制裁は、特定の禁止物品の販売の阻止を目的として考案されている。この種の制裁は本質的に、部分的経済制裁の1形態であり、略奪者や政府の独立した収入の流れを絶つか、少なくとも縮減することを目指す場合が多い。略奪者や政府の収入は紛争の資金源であり、石油やダイヤモンドや木材を含む。 | シエラレオネ (ダイアモンド),
リベリア (木材、ダイアモンド、石油) |
忠告 (および要請) | 忠告とは、安全保障理事会の訴え、要請を指す。理事会では、忠告は説得の1形態として利用され、穏やかな助言あるいは強制可能な要請のいずれかに当たる。忠告は言葉でのみ行われ、行動自体に重みはないが、その重要性を伝えるために威嚇を伴うことがある(すなわち、第41条に記された手段である特定的あるいは非特定的威嚇)。 | |
武器禁輸 | 武器禁輸は、安全保障理事会が利用する制裁手段の中で最も賛意を集める手段である。この禁輸制裁は武器の入手を阻止、あるいは制限する。新たな兵器類や弾薬の入手を制限するという原理が、紛争自体を抑制する。 | |
調停 | この手段は、紛争を終結させるための外交や調停といった手段の利用を包括的に含む。安全保障理事会は、国連憲章の第6章に基づいて、仲裁活動を開始したり、より多くの場合には支援したりする。第33条は、平和を促進することが可能な手段を概要している。すなわち、交渉、審査、仲介、調停、司法的解決、地域的機関あるいは地域的制度への報告である。 | |
国際刑事裁判(国際戦犯法廷および国際刑事裁判所への照会を含む) | 近年、安全保障理事会は国際司法の遂行に積極的に携わっている。例えば、特別国際刑事裁判所(ユーゴスラビアとルワンダ)の設立、特別混成裁判所(シエラレオネとレバノン)、国際刑事裁判所(ICC)への紹介(ダルフールとリビア)などだ。 | 旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷, |
予防的措置 (予防措置の展開を含む) | 予防的措置の目的はシンプルだ。武装紛争の発生あるいは既存の武装紛争の悪化を予防することである。しかし安全保障理事会は反動的であるため、事前に行動することはめったにない。予防措置が実施された唯一の事例が国連予防展開軍であり、バルカン諸国の紛争がマケドニアに広がることを防ぐマンデートによって展開された。 | 国連予防展開軍(UNPREDEP) |
多国籍軍 (MNF) およびand 単一国軍の権限付与 | このモデルでは、理事会は国際政治の合法的権威として、理事会が制定した特定的なマンデートの実施を行う権限を地域的関係者あるいは国の集合体に与える。多国籍軍(MNFs)はしばしば暫定措置として利用されてきた。理事国は複雑な情勢への関与を制限し、限定的で曖昧なマンデートによるリスク回避型活動を展開する傾向があるからだ。 | アルバ作戦(イタリア)、
東ティモール国際軍(INTERFET、オーストラリア主導)、 欧州連合舞台(EUFOR) アルテミス作戦、 セルヴァル作戦(フランス) |
有志連合 | 理事会は本質的に、合法的な許可発行者として武力行使の許可を発行する。理事会は武力行使の目的や指針に対して、広範的あるいは限定的な条件を設定することがある。 | 朝鮮戦争
湾岸戦争 |
シリア危機が3年目に突入する現在、安全保障理事会は、世界を悩ましている国際平和と安全保障へのさまざまな脅威を鎮圧できないことを再び非難されている。この状況を受け、多くの批評家は理事会を無力だと決めつけている。こうした批判の中核には、理事会が「国際危機を阻止するために迅速かつ効果的に行動できなかった」という見解がある。理事会は確かに、極度に活動的で、反動的で、選択度が高く、不完全である。しかし、危機が起こった時の頼りになる討議の場であることには変わりなく、恐らく今後もそうであり続けるだろう。