2013年8月14日
UN Photo/Blagoje Grujic
2013年7月28日日曜日、国連平和維持部隊の監視の下、西アフリカの国、マリで大統領選挙が平和裡に実施された。今回の投票に至るまでの約16カ月間、北部での反乱、軍によるクーデター、イスラム過激派による蜂起などの政治的・社会的混乱が続き、フランスが軍事介入を行った。
本記事では、国連マリ多元統合安定化ミッションが2013年7月1日に平和維持活動を開始するまでの経緯と、ミッションの全体的な見通しを検証するための背景情報として、最近の情勢について概説する。
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2013年4月、国連安全保障理事会(安保理)は安保理決議2100号を採択し、国連マリ多元統合安定化ミッション(フランス語の頭文字からMINUSMAといわれる)の設立を認めた。
要員規模を1万2,600人とするMINUSMAは、スーダンのダルフールでの国連・AU合同ミッション(UNAMID)(2万71人)と、コンゴ民主共和国での国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)(1万8,884人)に続く、3番目に大規模な国連平和維持部隊である。MINUSMAは7月1日に正式にミッションを開始しており、これを機に同ミッションの経緯と全体的な見通しについて検証しておきたい。
マリは、
といった集団・組織の活動の集中する交差点のような状況にある。
マリは西アフリカの内陸国で、7カ国(ニジェール、アルジェリア、ブルキナファソ、モーリタニア、セネガル、ギニア、コートジボワール)に囲まれている。国土は多様性に富んでおり、キダル州の山岳地帯は「火星」のようで、北部はサハラの象徴的な砂砂漠の一部であり、首都バマコのある南部はニジェール川とセネガル川の肥沃なデルタ地帯に位置する。
19世紀後半にフランスの植民地となったマリは、1960年に独立を獲得した。以後マリは、モディボ・ケイタとムーサ・トラオレ(ともに一党独裁)、アルファ・ウマル・コナレとアマドゥ・トゥマニ・トゥーレ(複数政党制)という4人の大統領により統治された。過去20年間、マリは西アフリカで最も安定した国家の1つとみなされていた。
しかし、安定しているといわれたこの国の北部で矛盾が噴出する。
マリ(およびニジェール)北部に暮らす遊牧民のトゥアレグ族は、自分たちがマリの政治的・経済的生活の辺縁にいることを、長い間認識していた。リビア内戦の間、多くのトゥアレグ族の兵士がムアンマル・カダフィを支持して、リビア国民評議会(NTC)と戦った。カダフィの死後、こうした兵士の多くがマリに帰還して、再び活発化したアザワド解放民族運動(MNLA)の主力となった。MNLAはさまざまなイスラム武装勢力と同盟関係を結んでマリ軍を攻撃し、その過程でトンブクトゥ、ガオ、キダルの町を占拠した。
マリ軍にかかるプレッシャーが頂点に達し、2012年3月にマリ軍事クーデターが起こった。一方の反政府勢力は分裂しており、その概要を以下に示す。
複雑な武装グループ |
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アザワド解放民族運動(MNLA)――トゥアレグ族の中心的な武装グループ。2012年4月5日、マリ北部のアザワド地域の独立を宣言した。多数のイスラムグループが対立する立場を取るようになり、ほどなく勢力を失った。北部に暮らすトゥアレグ族はイスラム教スーフィー派。 | アンサール・ディーン――トゥアレグ族の兵士からなるイスラム過激組織であり、反乱当初はMNLAに協力した。しかし、すぐに共闘の相手を変え、MUJAOと協力してかつての同盟相手であるMNLAと敵対した。 |
イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織(AQIM)――北アフリカのアルカイダ系組織で、もともとの拠点はアルジェリアにあり、この地域で拉致、身代金目的の誘拐、人身売買を行っている。イスラム教ワッハーブ派。 | イスラム・アザワド運動――アンサール・ディーンの分派で、自らを穏健派と位置づけている。対話に前向きな姿勢を持つ集団とのことであ。 |
血の署名者――AQIMの分派。アルジェリアのガスプラントでイナメナス人質事件を起こした。 | 西アフリカ統一聖戦運動(MUJAO)―― AQIMの分派。アンサール・ディーンと「タッグ・チーム」を組み、独立を宣言したアザワド地域からMNLAを駆逐した。 |
2013年の早い時期に、イスラム勢力が再び戦闘を開始した後、フランスが介入した。フランス軍は軍事介入(安保理決議2085号に基づくセルヴァル作戦)を推し進め――空軍、特殊部隊、軽武装の先鋒部隊を連携させて――北部主要都市からの反政府勢力の駆逐に成功した。この初期段階の後、フランス軍は兵力の大部分(約4,000人)を撤退させ、駐留を続ける1,000人の部隊のみで、MINUSMAと並行して強固な部隊を展開している。しかし、これには問題があると考えられる。
そもそも、セルヴァル作戦は表舞台から退き、兵力7,000人のECOWAS軍に替わるはずであった。しかし、アフリカ主導マリ国際支援ミッション(AFISMA)と称されるECOWAS軍は、ほどなく設立された国連のミッション、MINUSMAに引き継がれた。
当初、反政府勢力が戦闘を行ったのは地形の複雑な地域ではなかった(おもに砂漠・乾燥地帯であった)が、多くの兵士がアルジェリアとの国境に近い山岳地帯に逃げ込む可能性が高いと思われる。そこからMINUSMAとフランス軍に対し、非対称戦闘を仕掛けてこようとする恐れがある。
2つの中心的課題
マリ政府には、(1)長らく周縁に追いやられていたトゥアレグ族を包摂する政治形態の創設と、(2)軍隊という2つの中心的課題がある。
まず、トゥアレグ族との和平問題は、マリ政府の将来のために不可欠なものである。2013年6月18日、政府とMNLAが停戦合意に署名したことにより、7月28日の大統領選挙への道が開かれた。さらに、いくつかの追加的な仕組み――移行のためのロードマップ、および国民対話和平委員会――によって、いっそうの和平努力を進めようとしている。停戦合意にこうした仕組みが加わって、当事者間により平和的な関係が生まれることが期待される。
また現状では、マリ軍には北部の奥まった地域にまで国家権力を及ぼすこともできなければ、そうする態勢も整っていない。政府は自力での北部の治安回復を望むのであれば、それよりも前に軍が必要とする資源を充足させるべきであろう。EUは200人の指導者からなるEU訓練チーム(EUTM)を派遣して、マリ軍の能力構築のためのさまざまな活動を実施している。このプロジェクトの最終目的は、4個大隊、すなわちおよそ3,000人の部隊を新設することである。
ミッションの展望は?
MINUSMAの活動は苦戦している。ニューヨーク大学国際協力センターのリチャード・ゴーワンは、最近のコラムで、MINUSMAは「潜在的に不備のある平和活動である」と述べた。同氏がこの活動について悲観的なのももっともである。活動に従事する組織は一枚岩ではなく、枠組みとして各当事者を縛る真の和平合意が存在しない敵対地域に配備されるのである。
ミッションの見通しを左右する重要な要素はたくさんある。
役割分担に関して、MINUSMAとセルヴァル作戦は並行して任務を行う予定である。こうした並行して行われるタイプのミッションには問題のあることが過去に明らかとなっている。役割分担は明確でなければならず、ミッション同士の意思疎通を継続して行わねばならない。文書では役割分担は明確である――セルヴァル作戦は平和執行活動に従事し、予定ではMINUSMAは「とくにマリ北部の重要な居住区を安定化させ、それに関連して脅威を抑止し、積極的な措置を講じてそうした地域への武装勢力の帰還を阻止する」ことである――が、実際にはそうした境界線はすぐに曖昧になり、問題が生じる。
国連事務総長特別代表(SRSG)のアルバート・ジェラルド・ケンダース[A1] (Albert Gerard Koenders)(オランダの元政治家・元大臣)は、(ローラン・バグボ大統領が選挙結果の受け入れを拒否した後)フランス軍と国連軍による同大統領の強制的な解任に関わる2011年の危機の間、コートジボワールのSRSGでもあった。同氏が得たコートジボワールでのフランス軍との経験は、マリできわめて有益であると考えられ、同氏が任命されたものこのためである。
ヘリコプターなどの(攻撃にもの他の目的にも適した)軍用機は、このミッションの機動性に不可欠になろう。MINUSMAは、マリ北部一帯に広がる広大な砂漠地帯を横断することが必要になると考えられる。移動が可能でなければ、部隊は有用なものとはならないだろう。
部隊編成に関しては、この段階の部隊(詳しい分析については、アダム・スミスの記事参照)は、おもにECOWAS軍とチャド軍で構成される見通しである。こうした部隊は、「帽子を変える」(ベレー帽をAFISMAのグリーンからMINUSMAのブルーに変える)ことになるのだろう。中国とスウェーデンも要員と軍需品を提供する意思を表明している(それぞれの部隊は600人と170人)。
結局のところ、現代の多くの紛争は相互に結びついているものであるため、望ましいのは地域的アプローチである。つまり、そうした紛争は、国境で制限された個別の紛争ではなく、地域紛争の複合体なのである。
安保理は、さまざまな紛争の地域的側面を完全に否定するのではなく、対応をたびたび区分している。マリも同様である。マリから駆逐されて近隣諸国に逃れたテロ組織はどうなるのか? 国境を越えてしまったからといって、存在がなくなるということではない。問題がたんに別の場所に移り、別の時に対処することになるのである。
成功するための方策は?
ミッションを開始したMINUSMAをめぐっては、かなりの悲観論がある。状況は厳しく、道のりも険しい。実際このミッションでは、委任された任務の文字通り「希望リスト」を作成している。
しかし一方で、MINUSMAが直面しているのは、コンゴ民主共和国やダルフールで国連ミッションが引き続き苦闘している状況よりも扱いやすいものである。成功するための方策はあるのかもしれない。アフリカ連合、ECOWAS、EU、国連の支援の下、それを見つけられるかどうかは、マリ政府、トゥアレグ族、市民社会、地元住民次第である。