2015年12月2日
Photo: UNAMID, Creative Commons BY-NC-ND 2.0
この記事は、国連大学の「17日間で17の目標」シリーズの1つであり、国連の持続可能な開発サミットに対して補足する形でのリサーチおよび論評を特集しています。
目標16: 持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する
持続可能な開発目標(SDGs)の目標16(上記)は、平和、包摂性、司法、および強力な制度に対する国際社会のコミットメントを表しています。目標16の10個のターゲットには、あらゆる形態の暴力を大幅に削減し、子どもに対する虐待や暴力をなくし、法の支配と平等な司法アクセスを推進し、違法な資金の流れや汚職を削減し、責任ある透明な制度を構築するという、意欲的ではあるもののあいまいな約束が含まれています。SDGs目標16は、開発と、平和および安全保障との結びつきを強固なものにすることを目指しています。この結びつきは、ミレニアム開発目標(MDGs)において「missing bottom(欠けた土台)」とみなされていたものです。
ポスト2015年開発アジェンダの採択を目指す国連サミットの成果文書草案は、「平和なくして持続可能な開発は実現しえず、持続可能な開発なくして平和は実現しえない」と主張し、紛争の影響は開発を後退させると指摘しています。また2011年世界開発報告(WDR)によれば、「内戦の平均コストは、中規模開発途上国の30年分以上のGDP成長に相当」し、2011年には「1981年から2005年までの間に大きな暴力を経験した国の貧困率は、暴力を経験しなかった国よりも、平均で21%高くなって」います。より最近では、現在「脆弱」とみなされている国の約3分の2が、今年の年末までに貧困を半減させるというMDGsの目標を達成できないだろうというOECDの報告がありました。
開発と安全保障との結びつきについては異論の余地がありませんが、ポスト2015年開発アジェンダに安全な社会に関する目標を含めるかどうかは、主に以下の2つの理由により、大々的な論争の的となりました。
1つめの理由は、西側諸国のアジェンダに従い、開発援助に対してガバナンスや法の支配のパフォーマンスに関するより多くの条件がドナーから課されるようになって、開発が「安全保障問題化」されるのではないかという一部の開発途上国の懸念です。一部の中所得国(MIC)は、国の主権が侵害される可能性や、国連安全保障理事会と国連開発システムの権限の間に混乱が生じる可能性を懸念して、この2つを正式に結びつけることに反対しています。当然のことながらブラジルは、おそらく自国の犯罪や殺人事件の多さを鑑みて、暴力は純粋な国内問題だと主張し、平和と安全保障に関する目標を含めることに抵抗しました。
2つめの理由は、主な行動分野として平和と安全保障を含めることによって、政府開発援助(ODA)の資金が自分たちの国から脆弱で紛争の影響を受けている低所得国(LIC)へと流れてしまうのではないかという、一部のMICの懸念です。
脆弱なLICに向けられるODAの割合をむしろ増やすべきだというのは、もっともな主張だと言えるでしょう。その理由の1つは、貧困の地理的分布が変化していることにあります。1990年には、世界の貧困層の5分の1が脆弱な国で暮らす人々でした。しかし最新の見積もりによると、現在、貧困層の約半数が紛争や暴力の影響を受けている国で暮らしています。この割合は今後さらに増加する見込みです。
脆弱で紛争の影響を受けているLICは、すでに深刻な資金不足に陥っています。援助資金の金額が海外直接投資や国内の資金動員や送金に比べて小さくなるにつれて、開発におけるODAの重要性が徐々に低下しつつあるのは事実ですが、脆弱なLICは依然としてODAに大きく依存しており、なかには政府支出の最大40%を援助に頼っている国もあります。しかし、成功しているMICにドナーがより多くの援助資金を配分するようになるにつれて、脆弱なLICが取り残されるという危険性が高まりつつあります。
目標16の難しさの1つは、ターゲットの進捗状況を測定する方法にあります。ターゲットの多くは数量化も期限設定もされていないため、指標の策定と監視がより困難となります。さらに、目標16に含まれているターゲットの多く(汚職と違法な資金や武器の流れを削減すること、盗まれた資産を回復すること、組織犯罪と戦うことなどを求めるターゲット)は、もともと隠れた不法行為について言及しています。既存のデータソース(押収や逮捕など)は、そうした行為の範囲や影響の正確な実態を示すというよりは、公的権力の優先事項を反映したものです。
SDGsの世界的な指標枠組みの構築という任務を負っている「SDGsの指標に関する機関間専門家グループ」は、これらの問題について検討しなければなりません。これは、強固な定量的尺度を含むだけでなく、より多くのより良い定性的評価の必要性を無視せず、そのような情報を収集する政府の能力を改善し、非公式のデータを含め、証拠に基づいた代理的指標を活用することが必要です。そして何よりも、時間枠が比較的短いということを考えると、指標は現実的なものでなければならず、「願望の無意味な増加」は避けなければなりません。
測定に加えて、実施も目標16の最大の課題です。この目標の進展は、世界の貧困層が脆弱な国にますます集中しつつあることを踏まえるとなおのこと重要です。過去20年間に貧困削減の分野で達成された進展が主に安定したMICで生じているという事実は、脆弱で紛争の影響を受けているLICにおける開発の達成がはるかに困難で複雑な試みになるということ、また開発と安全保障を統合する全く新しいアプローチやツールの組み合わせが必要になるということを示唆しています。
脆弱国向けのODAのうち、現在、合法的な政治に割り当てられているのはわずか4%、司法への割り当ては3%、安全保障への割り当ては1.4%となっており、目標16の実施は、国際社会がこの重要な資金不足を埋める方法を見出せるかどうかにもかかっています。目標16は、平和と持続可能な開発との結びつきについて明記し、脆弱で紛争の影響を受けている国に暮らす人々のニーズに着目しているかもしれませんが、実施と測定の問題に十分な注意を払わなければ、単なる机上の空論に終わってしまうでしょう。
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Louise BosettiとHannah Cooperとアレクサンドラ・イバノビッチ による『言葉を行動に変える:平和で包摂的な社会』は、Creative Commons Attribution 3.0 United States Licenseの条件を採用しています。