今こそ福島第一原発を管理せよ

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  • 2013年7月29日

    クリストファー・ホブソン

    福島第一原子力発電所(福島第一原発)の事故が発生してから2年半近くが経過しましたが、同原発の不安定な状態が繰り返しニュースになっています。この数カ月間に、「この出来事は福島第一原発の脆弱な状態を浮き彫りにした」などというような表現が、何度もニュースに登場しました。

    問題は「この出来事」といわれているものが、1つではないということです。これまで、ネズミの接触による停電、貯蔵タンクからの放射性汚染水漏れ、1基の原子炉からの蒸気の排出があり、ごく最近では、汚染水が海洋に流出していることを東京電力(東電)が認めました。

    東電が状況を完全に制御しようと苦闘している間にも、福島第一原発は次々に問題を生み出しているように思えます。最近生じている数多くの問題が、東電の玉虫色の安全記録と2011年の原発事故への大きな不備のある対応と合わさって、損傷を受けた原発の管理を東電が続けられるのか、その能力に重大な懸念が生じるのも当然のことです。

    日本の原子力規制委員会(NRA)は先頃、新規制基準を採用し、停止中の原子炉の安全性を審査して再稼働の判断を下すための道を開きました。すでに4社の電力会社が12基の安全審査を申請しており、他の原発の申請もほどなく行われると思われます。

    安倍晋三首相率いる自民党が参議院選挙で圧勝したことにより、再稼働の加速を求める声が大きくなると考えられます。NRAは信頼を確立するために十分に厳しい姿勢を貫かざるをえませんが、原発再稼働への政治的圧力が高まっていることも認識しています。安全審査を実施するスタッフが80人しかおらず、職員も合計500人ほどという、人員の少ないNRAにとって、こうした状況はNRAをいっそう苦しい状況に追いやっています。

    NRAの資源が限られていることを考えれば、1人当たりの対応範囲を広げるのが賢明なことかどうか問わなければなりません。本当に危険なのは、福島第一原発の監視と再稼働申請の審査という両方の業務を不十分な水準で済ませることから生じうる結果です。

    福島第一原発は技術的には「冷温停止」を実現したかもしれませんが、安定したというには程遠い状態です。東電は損傷した原子炉に残る溶けた燃料の状態を正確に把握することができませんし、4号機からの燃料棒の搬出もまだ始まっていません。

    東電とNRAは、汚染水の拡散という現在進行中の問題に解決策を見いだそうと今なお苦労しています。田中俊一NRA委員長が、汚染水の流出に関する記者会見で、「もっといいアイデアをお持ちなら、教えていただきたい」と発言するほど厳しい状況では、福島第一原発に最大限の注力が必要であることは明白です。NRAと日本政府がもっと多くの資源を投入し、福島第一原発の対応への主導権を強化するのは賢明なことでしょう。

    最近相次いで発生しているこうした問題は、日本政府が考慮したくないだろうけれども、考慮しなければならない重大な疑問を投げかけています。それは、

    ・どの時点で政府が介入し、福島第一原発を直接管理すべきなのか?

    ・あとどれだけの事故や問題を許容するのか?

    ・東電の「ご迷惑をおかけしました」という謝罪と「すべて制御されています」という保証をいつまで受け入れるべきなのか?

    というものです。

    日本政府がすでに東電をほぼ管理下に置いていることを考えると、次の段階に進んで、福島第一原発をNRAの直接管理下に置くのを止める理由はほとんどありません。

    国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書、 黒川レポート が下した重大な結論は、いくつもの警告がないがしろにされたということです。「3月11日より前に予防措置を講じる機会は何度もあった。今回の事故が発生したのは、東京電力がそれらの措置を講じず、原子力安全・保安院(NISA)と原子力安全委員会(NSC)もそれに同調したためである」と述べています。

    NRAが歴代の規制当局との差別化に真剣であれば、同じ過ちは繰り返さないはずです。この最近の一連の出来事は、福島第一原発が依然として脆弱であり不安定であることを私たちに警告していると考えるべきです。

    東日本大震災以後、日本列島の地震活動が活発化していることを考慮すると、すでに損傷を受けている同発電所を別の災害が襲う現実的な危険性が残っています。日本には最良のシナリオを当てにするぜいたくは許されません。最悪のシナリオに備えなければならないのです。つまり、福島第一原発にさらに悪い事が起こる可能性に備えるということです。実際、最近の出来事は、また問題が起こる可能性が非常に高いことを示しています。

    福島原発事故独立検証 委員会の船橋洋一理事長は、「問題を引き起こしたのは法律でもマニュアルでもなく、企業と政治の意志に沿った“予測される”リスクを策定して、同原発が直面し、引き起こす現実的なリスクを提示しなかった人間である」と述べました

    大切なのはこの教訓から学ぶことです。NRAと日本政府は、東電と必要最低限の管理・規制スタッフに依存するのではなく、福島第一原発の直接管理を真剣に考慮すべきときです。それは確かに容易な決断ではありませんが、優先すべきは政治的配慮ではなく安全性なのです。原発の再稼働に突き進むのではなく、福島の警告を聞き入れ、まずはその安定化に集中するべきです。

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    この記事は、The Japan Times2013726日金曜日)に発表されたものを

    許可を頂いて再掲しています。