雲南のチャノキ林

トピックス
  • 2011年10月27日

    梁 洛輝

    雲南のチャノキ林

    Photo: Xiang Yueping

    茶は世界で最も人気のある飲み物のひとつだ。茶をいれる行為は洗練された儀礼や儀式でもあり、特にアジアでは多くの文化の欠かせない一部となった。

    チャノキの栽培は主に、年間最低雨量が45~50インチ(1,140~1,270ミリメートル)の熱帯および亜熱帯地域で行われている。そこは生物多様性が豊かな熱帯および亜熱帯性森林の生態系が息づく地域でもある。

    しかし、世界中のほとんどの茶農園は集約的な単一栽培によるもので、生物多様性に欠ける(写真1をご覧ください)。こういった農園の開発は、外部からの労働力の注入や化学肥料に頼るところが大きい。さらに単一栽培の農園は、害虫を自然に抑えてくれる生物学的な多様性に欠けるため、害虫の攻撃に弱い。

    食糧農業機関の統計によれば、2008年の中国、インド、スリランカ、ケニア、インドネシア(茶の栽培における世界トップ5の国々)の茶生産総面積は、200万ヘクタール以上に達した。

    茶の消費者数が増え続けるにつれ、課題となるのは、人の健康によく、しかも生態系の生物多様性に害を及ぼさない茶を生産することだ。

    混作

    優れた方法として、チャノキと他の樹木種を一緒に植えるという混作農法がある。様々な果実の木や、建材用あるいは多目的用途の木などを植えることで、茶の生産以外にも恩恵をもたらす方法だ。

    茶農園によく植えられる建材用の木に、ネムノキ(写真2)、カシア、ハンノキおよびクスノキがあり、クスノキは茶の品質をよくすると考えられている。これらの樹木は地域に建材や薪を供給できる。

    さらに混作には茶農園の生態系を改善する働きがある。水を保存し土壌浸食を減らす働きや、土壌の有機質を増やす働き、雑草や害虫を抑える働きがあり、特に干ばつや乾期の間は日陰を作ってくれる。

    チャノキの生物多様性を守る

    しかし、茶の生産を生態系の保全と調和させるもっとよい方法が存在する。それが古茶園とも呼ばれる、チャノキ林だ。

    チャノキ林の一例は、中国の雲南省南部にある芒景村で見ることができる(写真3)。芒景は プーラン族の住む村だ。彼らは中国の熱帯および亜熱帯地域の標高およそ1,500~2,300メートルの多湿な森林や、国境を越えた隣国ミャンマーにも住んでいる。

    プーラン族は雲南省で初めて茶を栽培した民族のひとつと考えられている。芒景村は東漢王朝時代(25~220年)に制定され、現在586世帯、2,406人の人々が生活している。2004年の1人当たりの収入は515元(65USドル)にすぎないが、その80%以上が加工工場へ茶葉を売ることで得られている。

    芒景の伝統的な茶園は、何世代も前の村人の先祖によって作られた。現に、芒景にある最も古いチャノキは樹齢1,300年と考えられている。この木や他の大きくなったチャノキから茶葉を収穫するために、プーラン族の人たちは非常に高い所まで登らなければならない(写真5をご覧ください)。

    伝統的な茶園の上に広がる林冠は、よく手入れされているために、遠くから見ると茶園と自然林の見分けがつかない。これこそ、茶の生産が森林保全や生物多様性とうまく調和している一例だ。

    中国科学院による最近の研究では、自然林でさえ発見が難しい希少な植物種や絶滅が危ぶまれる植物種が、チャノキ林で15種発見された。サンプリング調査によれば、チャノキ林で244種が発見されたが、この数字は近隣の自然林で発見された種の数に匹敵するという。

    林冠は雑草の成長を抑え、葉や枝を落として“グリーンな肥料”を作り出す。また、高額な段々畑の造成に頼る集約的な茶農園とは対照的に、林冠を形成する木々が急斜面の土壌浸食を防いでくれる。林冠は茶園の害虫を抑制するクモ、鳥、スズメバチ(写真6をご覧ください)といった天敵を育む。

    地元に住むプーラン族によれば、スズメバチは彼らを攻撃しないし、お互いに仲よくやっているという。人間と他の種がこのまま調和し続けるために、村ではスズメバチの幼虫を捕獲することが禁止されている。

    ただの飲み物以上の存在

    プーラン族の人々にとって、何世代も受け継がれてきたチャノキ林は伝統文化の一部である。お茶はここでは、ただの飲み物以上の存在だ。チャノキ林に住む各家族の敷地内で最も古いチャノキは、家族の生活をつかさどる支柱としてまつられている(写真7をご覧ください)。

    プーラン族は茶園を持たない人々を怠け者だと考えている。チャノキの栽培は奨励され、お茶を飲むことは日常生活の一部である。客人はお茶でもてなされるし、お茶はハーブや薬としても利用されている。

    乾期が終わりに近づく4月中旬、プーラン族は叭岩冷をたたえ、Tea Ancestor Festival(茶祖祭)を祝う。村の長老たちが新たな1年の豊作と幸せを祈った後、村人たちは米の供え物をし、チャノキ林にある祭壇の周りで踊る。

    地域の保全に報酬を与える

    汚染の原因となる肥料や殺虫剤を使わずに生産されるプーラン族のお茶は、栄養素の再循環や害虫の抑制といった森林の生態系サービスに依存している。驚くべきことではないが、チャノキ林からとれる地元の“プーアル茶”は質が高く、中国市場で高く評価されている。

    結果として、チャノキ林は以前にも増して重要な収入源となった上に、昨今ではエコツーリズムの名所でもある。こういった傾向に対応するため、芒景村はチャノキ林の保護に関する規定を定め、伝統文化の強化とチャノキ林の保全推進のための取り組みを開始した。

    ところが、チャノキ林で収穫された茶葉に比較的高い値がつくにもかかわらず、茶の加工とマーケティングの過程で地元の人々が得る利益は非常に少ない。中には独自に加工とマーケティングを始めた家族もいるが、求められる加工の規模が彼らの手には負えなかったり、マーケティングのスキルがかなり未熟であったりする。

    地元の人々はMangjing Tea Producer Cooperative(芒景茶生産者協同組合)(写真8をご覧ください)を通じて協力し合っており、2005年以来、雲南省社会科学院の協力とフォード財団の資金援助を受けている。

    協同組合は茶の収穫や加工を監督することで、高品質を維持し、林から収穫された茶と段々畑(写真9)の茶が混合しないように努めている。さらに組合員たちに対し、茶の生産や林の保護、チャノキと他の樹木種の混作による茶の改良(写真10)に関する技術指導を行っている。

    地域の人々は、プーラン族の言葉で伝統的な茶という意味を持つ、独自のブランド“亜百腊(Abaila)”を立ち上げたが、中国全土での知名度はまだ低い(写真11)。協同組合は組合員から保証価格で茶葉を買い取り、毎年度末には配当金も支払う。

    好調な進歩を遂げているにもかかわらず、この取り組みはまだ発展初期の段階だ。協同組合幹部の南康氏(写真12)に筆者が聞いた話では、地域住民にはマーケティングのスキルが足りないために、マーケティングがいまだに大きなハードルだそうだ。

    芒景村のすばらしいチャノキ林にもっと関心が集まれば、炭素排出量の少ない生産ランドスケープにおける生物多様性に優しい農法を促進できるだけでなく、Mangjing Tea Producer Cooperative(芒景茶生産者協同組合)が高品質のお茶を市場に提供しプーラン族の人々の貧困をなくす一助になるかもしれない。

    翻訳:髙﨑文子