ポスト2015年開発アジェンダ:新たな目標、新たな問題

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  • 2013年7月3日

    バート・フェルスパーゲン

    Post-2015 Development Agenda

    UN Photo/Mark Garten

    2013年5月30日、国連事務総長が招集したハイレベル・パネルは、ポスト2015年開発アジェンダのための提言を発表した。この報告書では、今後の世界の開発に関する一般的見解(「変革のための5つの転換(five ‘big, transformative shifts’)」として結実)と、現行のミレニアム開発目標(MDGs)の達成を徹底するための目標とターゲットのリストについて、概要を説明している。

    新しいリストは現行のリストより長くなっており、目標も8から12に、ターゲットも21から53に増えた。単純に数が増えたことから、明らかにいえることが2つある。1つは、取り組みに対する意欲が一段と広がり、そして高まったことの表れと解釈できることである。多くの政治指導者を含む著名人からなるパネルが報告していることから、それは好ましい要素である。種々の批判を受けてきたにもかかわらず、MDGsは政策と政策についての考察のために焦点を絞る有益な機能を果たしてきた。目標の範囲を広げることで、影響を受ける一連の関連する問題も増えるため、この焦点を絞るフォーカス機能が強化される可能性がある。

    もう1つは、MDGsが限られた指標に対してのみ独断的な選択を行い、より広範な開発目標に取り組むのに必要な開発の全領域を反映していない、と批判されてきたことである。ターゲットをみると、新しいリストの53の項目は、そうした批判を引き続き受けることになりそうだ。ほとんどのターゲットが開発に関連のあるものだが、関係する目標の領域を余すところなくリストアップしてはいない。新しい目標そのものは、確かに現行のMDGs より幅が広がっている(たとえば、「健康な生活の確保(Ensure healthy lives)」は、特定の疾病や乳幼児死亡率などの特定の問題に焦点を絞るよりも幅が広い)。しかし、こうした幅の広い目標は直接測定することが不可能なため、現行のMDGsが持つ強いフォーカス機能は弱まる。(53の)ターゲットの大部分がこの目的に向かないが、まず網羅的でもない。

    もっと問題となる点は、この新しい目標とターゲットの数ではなく内容に関係している。目標のリストそのものから語られる抱負に対して、唱えられる異はほとんどない。こうした領域はどれも妥当なものであり、称賛に値する。しかし、現行のリストの21のターゲットと新しいリストの53のターゲットを比較すると、さらなる批判につながりうる点にいくつか気づかされる。そうした点を明らかにするには、2つのリスト(現行のものと新しいもの)のターゲットを3つのカテゴリーに分類するとよい。その3つとは、新ターゲット(現行の特定のターゲットと関連性を持たない新しいターゲット)、消えたターゲット(新ターゲットのいずれにも結びつかない現行のターゲット)、存続するターゲット(新ターゲットに多少なりとも関連している現行のターゲット、もしくはその逆)である。

    [quote quote=”医薬品が利用できるようになるなど進展はあったが、問題は完全に解消してはいない” ]

    まず、消えたターゲットについて簡単に説明しよう。数えてみると5つある。3A8Bから8Eだ。3Aは教育における男女格差に関するものであり、8Bから8Eはどれも特定の国家グループ(後発開発途上国:LDC、小島嶼開発途上国:SIDS) や、特定の問題(国の債務や医薬品の入手・利用など)に関係するものである。今ここで十分な調査を提供することはできないが、これらの指標が示す特定の問題は、ほとんど解決されていないといえる。医薬品が利用できるようになるなどで進展はあったが、問題は完全には解消されていない。LDCに対しては依然として一定の注視が必要であるというのが私の評価であり、ことによってはもっと具体的にすべきである(たとえば、内陸国やサハラ以南アフリカ諸国など)。これらの5項目をターゲットのリストから除外する理由はほとんどないように思う。

    21ある現行のターゲットの残りの16を、私は存続するターゲットに分類した。新しいリストでは、表現が変わっており、抱負の度合いは高まっていることが多く、別の目標の下に置かれているものもある。こうした存続するターゲットを、私は(表現を変えることで)進展があったものの、継続して取り組む必要があることを示す、フォーカス機能の強いリストとして解釈した。

    私が最も強く批判したい点は、この新ターゲットのリストにある。こうした新ターゲットのうちの41は、多数のラベルの下に分類できるが、最も多くの項目が入るラベルは「制度」と「持続可能性」の2つである。制度に関して、同報告書は「それらは目的を達成するための手段であると同時に、それら自体も目的なのである」と述べている。報告書では具体的に解説されていないが、この記述が表しているのは、正当化(目標とターゲットのリストは一般的には「目的」のみを含むものであり、実際、その能力の大部分をフォーカス機能として与えている点)であり、弁解(私のような大多数の経済学者を含むほとんどの学者が、こうした制度をまず目的を達成するための手段とみなすだろうこと)であるように思える。

    (特定の)制度をリストにあげると、その制度そのものが目的を達成するための手段となって、ないがしろにしにくくなる。そして、それこそまさにリストが問題となる点である。新しいターゲットのリストにある制度的問題には、社会的保護政策、暴力(特に女性や少女、子どもに対するものや、紛争や犯罪に関連するもの)の抑制、児童婚、女性の権利と女性の経済的地位、金融制度と投資、起業の促進、法的制度、言論の自由と市民参画、透明なガバナンスと汚職、司法と法執行機関、開発政策、税制などがある。リストは長くなり、ターゲットは通常、ここで述べたような一般的な表現よりずっと具体的なものになる。

    このリストを組み込み、それを目的と目的を達成するための手段として提示することで、同報告書は開発にとってどの制度が重要なのかについて意見の一致があることを強く示唆している。しかし、この考えに対して警鐘を鳴らすべき点がいくつかあるのは確かである。

    まず、開発が力強いペースで進んでいる、もしくは進んでいたが、上述のリストの大部分がいまだに実現していないことを示すはっきりした例がある。たとえば、今では世界の最富裕国に仲間入りした多くのアジア諸国の開発は、(新設企業という意味の)起業にはほとんど関係していない。人権の観点からはずっと異論が多く、そのことは今なお否定できない。なぜなら、非常に急速に成長している国が、(まだ)基本的な民主主義的価値を実現していないことを示す明白な例があるのだ。また、開発の非常に進んだ国が、上述のリストのいくつかの項目を明らかに欠いたままである例もある。

    [quote quote=”制度は開発のための手段なのか、それとも開発は“よりよい”制度を実現するための手段なのか?” ]

    次に、制度と開発の因果関係の方向性について明確な問題がある。制度は開発のための手段なのか、それとも開発は“よりよい”制度を実現するための手段なのか? 過去10年にわたって経済専門家グループはこの問題の研究に専念してきたが、計量経済学の手の込んだ手法を駆使したにもかかわらず、実証資料は乏しいままである。その理由は、利用可能なデータが制度の表すものについて十分な範囲をカバーしていないことと、理論が方法論の複雑さにほとんど対応できていないことにある。

    この観点からすると、ターゲットのリストに目的と目的を実現するための手段を混在させることは、建設的な考え方とは思えない。MDGsは明確な選択をしたが、ことによると別の選択の方がよかったのかもしれない。とはいえ、MDGsが取り組んでいる項目の「本質的価値」については、少なくとも論争はほとんどなかったといえる。 目的としては、新しいリストの制度に関する項目について、論争はほとんど生じないが、手段としては、政治的にも学問的にも多くの論争が起こると考えられる。現行のMDGsが、たとえば目的を実現するための手段について明確化しないことで、論争を回避したのとまったく同じ方法で、そうした論争を避ける方が賢明であろう。

    最後に持続可能性というラベルについて述べる。持続可能性ははるかに信頼性の高い「目的」であるが、「手段」とみなすこともできよう。しかし、この場合、問題は別のところにある。私にとって持続可能性とは「フォーカス」できない項目に思えるのである。1988年の気候変動に関する政府間パネルの発足以来、持続可能性は少なくとも国際的な政策アジェンダ ではあったが、各国政府の支持にはかなりのばらつきがあった。取り組みは依然として大きく不足しており、新しいターゲットのリストの持続可能性に関する項目に向けられた意識が、待ち望まれた変化を起こすかどうかは非常に疑わしい。

    ひょっとするとこれは「目的を実現するための手段」をもっと具体化すべき事例なのかもしれない。私が考えているのは科学と知識とイノベーションである。いうまでもなく知識は開発――特に持続可能な開発――と密接な関係にある。しかし、現行のMDGsも新しいターゲットも、知識について驚くほど口を閉ざしている。知識について触れているのは、科学的結果とデータへのアクセスに対する一般的な要請(新リストの12F)と現行のリストの技術に対する一般的な要請(8F)だけである。持続可能な開発のために必要な知識を開発するための、そのあらゆる領域への官民による大規模な投資は、持続可能性という議題を蘇らせるもっとよい方法といえよう。知識は目的を実現するための手段であるが、国連大学の視点からすると、知識そのものも目的であるのだ。

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    この記事はUNU-MERIT Blogに発表されたものです。