平和支援:国連平和維持の新概念?

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  • 2013年7月2日

    ピーター・ナディン

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    UNMIL Photo/Staton Winter

    毎年5月29日の「国連平和維持要員の国際デー」は、国連「ブルー・ヘルメット」要員として従事し命を失った人々を追悼するとともに、現在国連「ブルー・ヘルメット」要員として活動してくださっている方々に感謝する日である。

    2013年のテーマである「国連平和維持:新しい課題に適応する(UN Peacekeeping:Adapting to New Challenges)」を受けて、国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)インターンであるピーター・ナディン氏は、複雑な環境で継続する不安定な状態には、ミッションが「平和維持」と「平和執行」の間にうまく適応できるような「平和支援」モデルを用いることでより適切に対応できると提案している。

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    原則と成功事例で裏打ちされた国連平和維持の現状において、なぜ平和維持要員は自分たちの任務遂行に格闘し続けているだろうか?

    理想の世界では、和平協定が治安をもたらす。協定に調印した当事者は、それぞれの義務を果たし、和平協定外で活動する武装グループは、法の原則に従う。しかし現実では、平和の妨害者は、いともたやすく不安定な状態をまん延させる。武装グループの計略は、暴力という手段で達成されることが多いからである。

    このような状態で、国連平和維持要員はどうすればよいのだろうか?手をこまねいて不安定な状態となるのを許すのだろうか?国連平和維持の最優先事項は、消極的平和の確立であるべきではないのだろうか?つまり、暴力的な対立がない状態、「治安」の確立ではないだろうか。

    原則では、平和維持要員は、自分たちの任務に対する脅威に、戦術的な実力行使により毅然とした姿勢を示す責任があるとしている。しかし、例えばコンゴ民主共和国を例に挙げると、MONUSCOとして知られる強固に遂行された平和維持ミッションの存在にもかかわらず、不安定な状態が現状となってしまっている。

    原則と現実との差異に対応するために、国連安全保障理事会は、近年、決議2098を採択した。決議2098は、南部アフリカ開発共同体(SADC)の「介入部隊」に、「民間人に対する暴力を防ぎ、差し迫った危険下において民間人を守ることを目的とした、武装グループを無力化させるための的を絞った進攻作戦」の実行を許可している。この新しい介入部隊は、「平和支援」として知られるモデルを部分的に反映している。

    ここでは、平和支援が、複雑な平和維持環境において継続している不安定な状態の課題に部分的に応えることができることを論じたい。

    平和支援:ゴールと原則

    平和支援の裏にある考え方は、特別に革新的なものではない。要するに、平和支援ミッションは、様々な範囲の民間および軍事タスクに取り組むように設計されている。これには、公的秩序の維持、取り締まり、治安部隊の指導、インフラ再建、国民和解が含まれる。平和支援モデルは、柔軟性を基盤として運営されている。当事者のコンプライアンスに応じて、平和維持と平和執行間で状況に応じてミッションを選ぶことができるようになっている。

    平和支援の最初のゴールは、消極的平和の確立である。これを確立するためには、武力行使は、合法的な主体により独占されていなければならない。理想の世界では、民主的に責任を有する有効な国家治安部隊が、武力行使を専有し、法の原則を掲げるべきである。しかし、現実には、国家治安部隊は責任を負わず役に立たないことが多い。

    このような状態においては、国連や多国籍軍は、治安維持のために代わりを務めてもよい。しかし、国連平和維持要員は、治安を提供する能力を有していないという反論もある。例えば、西欧(コンゴ民主共和国の場合)またはフランス(ダルフールの場合)の大きさの領土にまばらに散らばる20,000人の兵員に、信用できる治安部隊の役目は務まらない。

    しかしこの議論は、安全保障上の脅威に特有の本質を忘れている。よく訓練され統率のとれた有能な戦闘部隊が、強固な運用設計を作り上げ実行する場合、安全保障に実に実質的な違いをもたらすことができる。シエラレオネ共和国におけるパリサー作戦、コンゴ民主共和国における欧州連合部隊(EUFOR)、東ティモールにおける国際東ティモール軍(INTERFET)は、限られた時間内にもかかわらず複雑な環境における治安回復支援に成功した例である。

    提案しているように、平和支援モデルは、国連平和維持に適用可能であることが示されている。2000年5月、ロメ和平合意の妨害者である革命統一戦線(RUF)が、500人の国連平和維持要員(国際連合シエラレオネ・ミッション(UNAMSIL))を捕捉し、シエラレオネの首都であるフリータウンに押し寄せ始めた。

    この事件に対して、英国政府は、パリサー作戦を立ち上げた。同作戦は、水平線を超えた海軍のタスクフォースに支援された小規模の部隊で構成された。この強固な部隊は、UNAMSILとともに活動し、すぐさまRUFと対峙し、リーダー(フォディ・サンコー)を捕獲し、RUFのフリータウンへの侵攻を撃退した。英国(およびUNAMSIL(ククリ作戦))により適切に適用された強固な実力行使は、介入直後のシエラレオネにおいて許容できる治安環境(現地の人々にとって真に安全な環境)を作り上げる上で確かに重要な要素であった。

    均衡

    強固な平和支援作戦に直面した時、武装グループには、3つの選択肢がある。

    • 選択肢1:平和を追求し、協定の交渉をし、武装解除、解体、社会復帰する。
    • 選択肢2:平和を追求し、協定の交渉をするが、協定を破り、対立を続ける。
    • 選択肢3:対立を続ける(現状維持)

    自らの利益のために不安定な状態を追求している武装グループは、別の方法で説得されない限り、平和妨害活動を続ける可能性が高い。平和支援作戦の任務は、暴力に対する負担を伴わせることで、選択肢2、3を追求することが無益であると武装グループを説得することである。そのためには、国連軍(または個別の多国籍軍)は、強固な態度を取るべきである。力ずくで(または、できれば、吸収して)武装勢力が選択肢1の平和を追求するようにさせる意図である。

    強固な態度を適用するには、平和支援ミッションを行うよう命じられる複雑な環境(その地域特有の、複雑な物的および人的環境)を理解する必要がある。また、それに合った戦略および一連の戦術も必要となる。

    優れた平和維持活動(優れた対ゲリラ活動と同様に)は、軍事的手段を政治戦略に役立てる「武装した社会事業」と類似している。これは、地元の人々と信頼を築くことにより妨害者の戦略(「部隊と戦うのではなく戦略と戦う」)を脆弱化させるということである。最終的なゴールは、必ずしも武装グループの完全なる打倒では なく、強制的に戦闘員を武装解除することである。

    妨害者が、犠牲なしでは戦争を追求できないことを一旦理解すると、武装解除による平和は、現実的となってくる。明らかに、国連軍は、妨害者に対応し、阻止するために適切な装備を揃えていなければならない。これには、武力支援者による支援(近接航空支援、後方支援、諜報活動、偵察能力など)とミッション間の調整機構(共同作戦本部など)の確立を通して、任務と手段との間におけるずれの橋渡しが必要となる。

    それでは、許容できる治安環境が一旦作り出されたらどうなるか?国連ミッションがのこすものは、よく訓練されて待遇がよく、責任があり実働する地元の治安部隊を作ることでなければならない。このような治安部隊の構築は、国連ミッションの重要な優先事項である。

    安全保障は、国家の基礎である。安全保障なしでは、国家機関は破綻しがちである。したがって、国連ミッションは、消極的平和(「戦争の不在」)のゴールを先に達成する前に、積極的平和(「持続可能な平和」)のゴールを追求する傾向をやめるべきである。

    結論

    上記に提案したモデルは、国連平和活動改善のテーマにおける一連の規範的な黙想に過ぎない。提案そのものは、現状において、多くの平和維持環境に存在している治安の不在を適切に埋めることができていないと言う認識から生まれている。

    必要なものは、もっと治安提供に重点を置いたモデル、つまり紛争後の国家が再建するのに必要な基盤設立に焦点を絞ったモデルである。