移住は個別の目標であるべきか?

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  • 2015年12月2日

    パールバティ・ナイール

    The Global Goals

    この記事は、国連大学の「17日間で17の目標」シリーズの1つであり、国連の持続可能な開発サミットに対して補足する形でのリサーチおよび論評を特集しています。

    2030年を期限とする持続可能な開発目標が国連サミットで採択されている間にも、移住をめぐる人道的危機が世界中で繰り返されています。欧州やその周辺地域で、海や砂漠、国境や地図にない道で、貧困、紛争、政治的抑圧、環境的要因、およびその他の誘因によって住む場所を失った人々が移動し続けています。その一方で、国境の取り締まりが強化されることによって、合法的移住の基準を満たさない人々は危険で違法なルートへと追いやられ、多くの人が密入国や人身売買へと身を落としています。

    世界中の都市において、移民はゲットー化した地域で恵まれない生活を送っています。その多くは、侮辱的な条件のもとで、あるいは当然の権利を与えられることなく、非公式経済で就労しています。移住はすでに今世紀における最も喫緊の問題の1つとなっています。またこの問題は、SDGs目標16で掲げられた取り組みが急務だということを示しています。

    持続可能な開発を効果的に進めるためには、移住を平和とあらゆるレベルの包摂性を促進するための手段として、より適切に認識し管理する必要があります。そのために各国は、移民がそれまで住んでいた社会と移住先の社会の両方に対して与えるたくさんの文化的・越境的・経済的貢献を理解しなければなりません。そのためには、モノや資本やサービスの移動だけでなく、人の移動という観点から、開発についての考え方を再構築する必要があります。

    移民の正確な数を把握することは困難ですが、現在、10億人を超える人々が国内移住や国際移住にかかわっていると考えられています。世界人口の7分の1が移民だということを踏まえると、移住問題に取り組む個別のSDGsが策定されないのは驚くべきことです。

    移住と開発に関する2013年のハイレベル対話や、2014年の事務総長統合報告書「The Road to Dignity(尊厳への道)」の多くの部分に移住問題が含まれていたことからみても、今や移住は開発の重要側面とみなされており、効果的な制度によって支えられた平和でインクルーシブな社会を築くために緊急に注目するべき課題であるということは明らかです。

    移住は他の多くの目標にまたがる問題であり、他の目標を達成することによって移住関連の問題のほとんどとまでは言わないまでも、その多くを解決することができます。実際に、国連大学移住ネットワークで進められている研究は、SDGsの重点領域の多くを扱っています。これらの目標に関する国連大学の研究の目的は、反応的研究から予防的研究への重要な移行を促す環境を作り出すことです。

    国連大学は国連システムのシンクタンクとしての役割を担っているため、国連大学移住ネットワークは、地域、国、地方による移住関連の予防的取り組みに必要な情報や支援を提供しています。例えばUNU-GCM は、無国籍、大陸間移住、都市と移住に関連した問題や、女性移民の貢献と課題にかかわるジェンダー問題に取り組んでいます。国際移住機関と17の国連機関からなるフォーラム「Global Migration Group (GMG)」に国連大学移住ネットワークが関与することにより、国連大学は、研究に基づく提案を移住政策立案者と共有する場を得ています。

    2015年9月30日に、ハイレベル対話のサイドイベントで移住にかかわる重要な問題が取り上げられることとなっており、移住問題は再び国連総会の注目を集めます。ポジションペーパーを提出するために他のGMGメンバーと協力するなかで、国連大学やその他の機関にとっての当面の優先課題は、「すべての」命を救うためにさらに一致団結した取り組みが必要だということを強調することです。その対象は、移住の誘因や動機や原因にかかわらず、難民、移民、および/または亡命希望者に影響を及ぼす危険に陥った、さまざまな種類の移住です。

    もう一つの喫緊の問題は、違法な移住ルートから人々を守るために、より安全で合法的な移住経路を確立する必要性です。このような戦略は、闇の密入国手配を不要にします。しかしそのためには、安全で合法的な移動経路を確立できるよう、地域や国のコミットメントと連携が不可欠です。

    さらに、保護者のいない子どもや未成年者などの弱者を特定して彼らに支援を提供することも明らかに必要です。より長期的には、権利、代表、尊厳の問題にも、あらゆるレベルで取り組む必要があります。これに関してとくに重要なのは労働分野で、移民労働者のディーセントな仕事と権利はまだ確立されていません。

    平和で公正かつインクルーシブな社会を築くためには、政策、メディア、そして多くの人々の考え方を改める必要があります。移民(ここでは、理由にかかわらず移動するすべての人を指す)は、問題や、何となく規範に反するものとみなされるべきではありません。不当な扱いや、紛争、貧困、不平等に直面して移住に踏み切ることは、人間らしい行動です。

    人権が優先され、移民が正当に扱われるようにする責任は、地域、国、地方、および都市レベルの政策立案者が担うことになります。つまり、移民が尊厳のある人間的かつ安全な方法で通行できるよう、国境の概念について考え直す必要があるということです。

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