「世界のその他の地域」のための包摂的なイノベーション

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  • 2015年11月25日

    シュアン・サドレ・ガージ

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    Photo: World Bank, Creative Commons BY-NC-ND 2.0

    この記事は、国連大学の「17日間で17の目標」シリーズの1つであり、国連の持続可能な開発サミットに対して補足する形でのリサーチおよび論評を特集しています。

    目標10: 国内と国家間の不平等を是正する

    世界人口の大部分(開発途上国の低所得コミュニティに暮らす人々)が、世界経済から締め出されています。彼らは、商品や、市場や、自らの福祉と発展を促す機会に十分にアクセスすることができません。この数十年間に達成された世界的な技術の進歩にもかかわらず、そうした進歩から大きな恩恵、または正当な恩恵を被っていない人がたくさんいます。

    グローバル・サウスの低所得層に属する人々の多くは、いまだに基本的なニーズを満たせずにいます。開発途上国全体で1日に4,000人の子どもが清潔な飲み水を利用できないことが原因で命を落としており、開発途上国の80%の地域で電力が利用できず、24億人が適切な衛生設備を利用できず、灯油の利用による煙の吸入や火事で年間160万人が死亡しています。アジアやアフリカの多くの地域では、水くみや薪集め(主に家族の中の女性や子どもが担当する仕事)も、大変な作業となっています。

    私たちは毎日、さまざまな分野でイノベーションや技術革新が次々と生まれているというニュースを耳にします。しかし、(その未充足のニーズを考えると)イノベーションの主な受益者となるはずの非常に多くの人々が、その革新者のイノベーション計画からいまだにほぼ除外されています。

    「必要は発明の母」という格言があります。それでは、高所得でない人々の市場、すなわち「世界のその他の地域」(人口面では「その他の地域」の方がはるかに大多数を占めるのですが)の人間のニーズにおいて、その「母」にいったい何が起こっているのでしょうか。対象となる受益者の所得水準がイノベーションの主な推進力なのでしょうか?そのような強力な推進力がない場合、イノベーションを促し、さまざまな未充足のニーズを満たす役割を果たすことのできる他の要因は何でしょうか?どうすれば、十分な恩恵を被っていないコミュニティのために、より包摂的で革新的な市場を作ることができるのでしょうか?

    南半球の開発問題への取り組みにおいて市場を基盤とするアプローチが果たす役割が次第に重視されるようになってきました。十分な恩恵を被っていないコミュニティに資することを目指すイニシアチブが進化するのに伴って、NGO、中小企業、地元の大企業、および多国籍企業などの民間主体の関与が増加しつつあります。

    民間主体は特定の技術・管理スキル、大きな資源プール、広範なネットワークを持っているため、裕福でない市場にイノベーションを導入するためにそのスキルや資源を活用することができます。しかし、そのようなイニシアチブの成功率はまだ低く、貧困者に利益をもたらすことを目的とした初期段階にあるイノベーションイニシアチブの多くは、事業の拡大や対象受益者への広範な普及の面で苦戦しています。市場を基盤としたアプローチの多くは、その潜在力にもかかわらず、広範なコミュニティと参加企業に相互価値をもたらしつつ包摂的なイノベーションを実現するまでには至っていません。

    包摂的なイノベーションは、単独では成功しません。これまで長い間、十分な恩恵を被っていない人々のためのイノベーションに関しては、主に適切な技術とマイクロファイナンスの提供を通じた供給面ばかりが重視されてきました。これは、イノベーションの「ハード」面とも言えるものです。しかし包摂的なイノベーションには、より繊細でとらえどころのない側面があります。それは、受益者間の導入を促進して社会的影響を高めつつ受容を促す制度や政策やメカニズムにかかわる部分です。

    低所得市場には明らかな典型的課題があり、この課題が十分な恩恵を被っていないコミュニティにおけるイノベーションの進行を妨げています。こうした課題には、インフラの問題、低い購買力、制度の弱さや欠如が含まれます。

    低所得コミュニティは、経済的機会が限られているため、これまで市場経済の成長から恩恵を被る機会がほとんどありませんでした。またたとえそのような機会があったとしても、貧しい人々は往々にして健康や教育や財務的信用が不足しているため、そうした機会を活かすことができません。市場を基盤とするアプローチによって相互利益をもたらすためには、十分な恩恵を被っていないコミュニティの特徴についてより深く理解する必要があります。そのうえで、そうした理解をさまざまな利害関係者のための健全な政策や戦略に変えていく方法を決定しなければなりません。

    包摂性を高めるためには、従来の「チェックリスト型」の開発アプローチ(ベテラン教師の不足をそのままにして、より多くの学校を建設することで教育を強化しようとする、または、受益者の意識改革を行わずに、より多くのトイレを設置することで農村部の衛生状態を改善しようとするといったアプローチ)を超える革新的な包摂メカニズムを構築することが急務です。このような包摂メカニズムを構築するためには、技術面、制度面、財政面、事業面のイノベーションを統合することが間違いなく必要です。そうでなければ、この目標は失敗に終わるでしょう。

    求められるもう1つの要素は、力を合わせて相乗効果を生み出し、包摂的なイノベーションを実現するための機能的な「生態系」を作り出すよう、すべての利害関係者に動機を与えるインセンティブメカニズムです。そのような相互関係を通じてのみ、各主体はギャップや足りない能力を特定するとともに、他の主体が持つ利用可能な資源や能力について検討することができるのです。

    真の政策イノベーションは、各主体がそれぞれの強みを組み合わせて欠点を補い合うことによって、包摂性を高めて不平等を是正するための相乗効果を実現できるようにする包括的な方策を必要とするのです。

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    Creative Commons License

    Shuan Sadre Ghaziによる『Inclusive Innovation for “the Rest of the World”』は、Creative Commons Attribution 3.0 United States Licenseの条件を採用しています。