2014年1月23日
UN Photo/Mark Garten
ここ数年世界各地で大規模自然災害が多発しており、これに伴う損害も増加している。その結果、高まるリスクやエクスポージャーレベルに直面している各都市では、とりわけエネルギーとインフラシステムに関して必要とされる防御対策への関心が高まっている。
リスクや損害を回避し自然災害に対するレジリエンスを強化できるよう、国および地方政府による対策が求められている。地域レベルでは、地域密着型のリスク防止の仕組み、リスクファイナンスやリスク移転のためのシステムといった政策パッケージの構築に向けた行動が、各地方自治体に求められている。
リスク管理の仕組みの構築に向けたひとつの提案が、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)に対して締約国その他複数団体から提出されている。ミュンヘン気候保険イニシアチブによるこの提案は、開発途上国のための国際的なリスクプーリング機能、中程度のリスクを補完する保険支援機構、リスク低減実現のための防止施策という三層構造からなる国際的リスク管理モジュールである。
災害による損失を補うための各国政府や民間企業による資金支援や必要な物資およびサービスの提供に加えて、保険や再保険、大災害連動証券(catastrophe-linked securities)といったリスクファイナンシングやリスク移転のツールが重要であり、そうしたツールによって、尋常ではないリスクによってもたらされる経済的打撃を低減することができる。
本稿は、とくにエネルギーシステムの脆弱性に着目して、自然災害に関連したさまざまなリスクについて論じている。また、地域密着型のエネルギーシステム、リスク防止のためのファイナンシング・メカニズム、リスク移転システムの導入を通じた地域/地域社会密着型のインフラのリスク防止の可能性と、その構築に関連して存在する問題点について検討している。
アエカポル・チョンヴィライヴァン(Aekapol Chongvilaivan)氏が自身の 2012年の論文において指摘しているように、 2011年にタイで発生した洪水などの自然災害は、都市システムとそれに関連するインフラに甚大な被害をもたらした。
また、地震と津波によって2011年3月11日に福島で発生した原発事故は、それまでの日本のエネルギーシステムの問題点と非常事態に対する脆弱性を明らかにすることとなった。日本のエネルギーシステムは、電力会社10社が各地域の電力事業を支配する極めて中央集約型のシステムであり、資源エネルギー庁の データによると、日本の発電量の約90パーセントはそのようなシステムによってまかなわれている。 例えば、東京や横浜といった大都市は東京電力から電力供給を受けているが、同社の発電量全体の29.7パーセントが原発に依存していた。
2011 年の大震災によってエネルギー安全保障に対する人々の意識が高まり、国はエネルギー安全保障の見直しを求められるとともに、国家レベルの復旧プランだけでなく各都市レベルでも復旧プランが必要なことが明らかになった。同時に、リスクに迅速に対応可能なより柔軟で地域に密着したエネルギー供給およびリスク防止機能の開発を含めた、多様で分散化されたエネルギー供給および管理のためのシステムを備えた革新的で回復力にすぐれた(レジリエントな)エネルギーシステムの必要性が強調されるようになった。
締約国に対して温室効果ガス(GHG)排出の削減と、それに伴う各国ごとの削減目標および関連する気候変動政策の策定を義務づけた国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の京都議定書が(1997年に)採択されてから10年以上が経過した。同議定書の採択は、同様の取り組みを各都市に促すことになり、そのような取り組みの方が大きな成果をあげている場合が多い。
例えば、日本の「環境未来都市」構想 、中国の天津エコ都市プロジェクト、タイの低炭素都市パイロットプロジェクトまたマレーシアのイスカンダルにおける低炭素社会プロジェクトなど、各国において都市また地域を対象とした多くのプログラムやイニシアチブが設立されている。
日本の場合、こうした都市密着型の開発プロジェクトは、2010年6月に発表された「新成長戦略」において国家戦略プロジェクトのひとつとして導入された。新成長戦略(「元気な日本」復活のシナリオ)の各政策は、2010年の閣議決定により採択されたが、そのひとつが「地域資源の活用による地方都市の再生、成長の牽引役としての大都市の再生」である。2020年までに達成すべき目標とされているのは、地域資源の最大限の活用、地域力の向上、大都市圏の空港、港湾、道路等のインフラの戦略的重点投資である。
気候変動による自然災害の頻繁化と深刻化が懸念されていることを考慮すると、各国政府は、事前の対策を講じるとともに、予防的アプローチに基づいて民間および各地の非営利団体と連携し回復力の高い(レジリエントな)インフラと管理システムの構築を都市と地域で進めなければならない。また、災害リスクによる損害と自然災害発生後の関連コストについての評価も重要となる。このため、十分に効果的なリスク管理とその実施を可能にするためには、国際的なリスク管理の仕組みに沿った地域密着型の仕組みが必要なのである。
タイの洪水、インドネシアの地震、そして日本の地震と津波など、近年アジアで続いた自然災害とそれらが社会に及ぼした深刻な影響によって、都市密着型のリスク管理はとくに日本において重要なテーマとなっており、地域レベルでのレジリエンス向上のための地域開発戦略のひとつに加えられている。
日本では、「地域の再生可能エネルギー等を活用した自律分散型地域づくりモデル事業」が2011年に始動しており、2012年には10億円の追加資金を得てプロジェクトが実施されている。また、環境省の2013年度予算要求 に従って、2013年には(2013年中に約330億円の配分が予定されている)持続可能な地域づくりプログラムに基づき、予算は16億円に増額されている。同プロジェクトの実施には民間セクターが重要な役割を果たしてきたが、研究機関や地方政府といったその他の組織も参加している。
地域密着型の分散化されたエネルギーシステムを実現するためには、太陽光発電設備などの新たな設備の導入と運用に資金が必要になる。日本では、持続可能なエネルギーやエネルギー安全保障に対する一般の意識が高まった結果、そうした財務メカニズムの導入に対する関心が高まっている。さまざまな政府補助金もそうした資金源として利用可能ではあるが、それだけに頼るだけでは十分とは言えず、その他の資金源を探る必要が生じている。
民間セクターによる投資や市民からの寄付によってさまざまな地方ファンドが設立されており、その金融手段としては金融機関を通じた証書、約束手形、少額発行債権の発行などがあげられる。例えば、マイクロクレジットファンドは、零細企業に対する少額貸し付けなどの金融サービスを提供するマイクロファイナンス機関(MFI)に対する資金供給を目的としたファンドであるが、各MFIは、地方の現地提携銀行を通じて、あるいは連帯グループ貸付や個人融資などを通じて小口融資を提供している。
日本については、例えば、福島の原発事故を受けて、オンライン・リテール投資ファンド管理会社(東京のミュージックセキュリティーズ株式会社)が、原発事故により深刻な被害を受けている東北地方の小規模事業者向けの資金調達を目的とした新たなマイクロクレジットファンドを立ち上げている。しかし、このような金融手段や手法はさまざまであり、都市ごとの資金調達構造に左右されている。
地域での低炭素エネルギー投資にとっての課題となるのが、再生可能エネルギー技術につきものの不確実性とリスクの高さである。グリーンエネルギーや地域社会密着型プロジェクトに関する経験や実績が不足していること、またそのようなプロジェクトの社会や環境への影響と期待される経済効果についての理解が不足していることで、不確実性は大きなものになっている。したがって、そのような取り組みに補助金を提供する地方政府や資金を提供する投資家に対しては、何らかの意志決定に先だって、地域エネルギープロジェクト実施後の経済、社会、環境面での影響を含めたプロジェクトの費用対効果に関する評価に、適切な分析ツールを活用することが求められる。
地域密着型エネルギーシステムの導入に加えて、自然災害の経済的影響を緩和するリスク防止やリスク移転のためのシステムについても、地域レベルで構築する必要がある。このため、災害リスクを低減するためのシステムの構築やリスクファイナンシングといった資金調達メカニズムの構築に関する課題に対して関心が高まっている。リスクファイナンシングとは、災害発生前および発生後の迅速な資金調達を可能にする手段であるとともに、自然災害に対する対策を検討することでもあり、保険や気候変動適応対策といったさまざまな手法があげられる。
世界中で発生している異常気象事象に起因する経済損失により、リスク管理やリスク移転スキームの開発に対する需要が高まっている。途上国だけでなく先進国も含めた多くの国々において、災害に対する適応能力の強化につながるような保険スキームが導入されている。
災害後の迅速な経済復旧を支援するためのひとつの戦略としては、保険における天候インデックスがあげられる。このインデックスを採用することで、実際の損害状況に応じて支払内容を判断するという通常の方法ではなく、(例えばハリケーンの風速や地震による地動加速度の大きさといった)インデックスをパラメータとすることによって、自然災害後の復旧支援に対する迅速な資金提供が可能になる。こうしたパラメータの採用により、災害発生後の可能な限り迅速な資金提供が可能になることで、資金調達の流動性が高まり、被保険者にとって復旧がより迅速化することになる。
そのようなリスク移転メカニズムの導入にあたっては、リスク移転スキームの開発、普及、設計の段階で課題が生じる可能性が高い。とくに災害前管理のためのインフラ整備が十分でない、天候に関する十分なデータを得ることができない、あるいは質という意味で信頼性の高いデータが存在しないというような場所で災害が発生する場合に、不確実性が高まることになる。その他の問題点としては、(例えば、その他の既知のリスクについて対策後あるいは織り込み後また排除後になお残存する損失に対するエクスポージャーといった)残存リスク、予期せぬ事象であり発生が非常に希で定量化が困難であることによる不確実性、気象データの不正確さ/入手困難、あるいは十分な設計が行われていないリスク緩和メカニズムや管理システムといったことがあげられる。
このような問題はすべて、とりわけ途上国について懸念されることである。途上国の場合残存リスクが高いことで保険料が高額になり、途上国の零細な事業者や市民にはそのような保険料を支払うことができない。このため、残存する基礎的リスクを最小化できるよう、期待損失やリスクプレミアムを補う政府支援や(過去データの整備や能力開発など)正確なデータに基づいた信頼性の高いリスク管理メカニズムの整備が必要とされる。
さらに、途上国の都市部は人口密度が高くインフラも十分に整備されていないことから、台風や洪水また干ばつといった自然災害の影響がとりわけ甚大になることが懸念され、災害リスク保険の開発に伴う課題は極めて深刻である。これらの課題は多くの場合、データの質やデータの入手可能性、気象観測施設、気象観測システムの自動化による(国レベルだけではなく)地域/地方レベルでのデータの記録や整備、施設や設備の老朽化といった、観測システムの脆弱さに起因している。
したがって、リスク防止緩和能力の向上のためには、第一に、リスクをより正確に予測し見積もるための信頼性の高いデータと施設の整備が必要である。また、気象観測網の拡充と近代化そして強化も必要になる。 さらに、リスクファイナンシングシステム構築のための基本的な気象データの整備にとっては、リスク保険やリスク移転メカニズムの分野やアプローチの如何に関わらず、データ処理能力の向上が必要不可欠である。
また、低炭素インフラ、投資のためのリスク評価、またリスク移転システムなど、地域レベルでの自然災害リスクの防止を目的とした政策パッケージが必要である。そして、将来の災害への備えには、リスクファイナンシングシステムの導入が求められる。さらに、地域社会密着型のエネルギー管理と供給システムおよびファイナンシング・メカニズムなどの地域密着型のインフラシステムの整備だけでなく、自然災害に備えたリスク保険などのリスク移転メカニズムの導入も必要である。
地域レベルにおけるこのようなシステムの構築に加えて、リスク評価や見積りのためのデータにかかわる基礎インフラ、また途上国と先進国を含めた各都市および国家間における地域協力や情報面での協力の強化もまた必要である。
最後に、日本の場合と同様に、このような地域密着型のイニシアチブを成功させるためには、公的機関と民間会社間の協力を促す環境作りが不可欠である。