2011年10月27日
Photo: Stefan Irvine
E-waste(電気電子機器の廃棄物)とは、ゴミとして捨てられた、もしくは将来的に捨てられる可能性のあるすべての電気製品、電子機器を表す言葉だ。例えばテレビ、コンピューター、携帯電話、冷蔵庫などの白物家電、家庭用音響機器、電子玩具、トースター、電気湯沸しポットといったものだ。つまり、家庭用もしくは業務用の電気製品や電気部品で、電気や電池を消費するもののほとんどすべてがこれに当てはまる。
E-wasteは世界中で急激に増大している。理由は電気電子機器のマーケットが好景気を続けているからに他ならない。世界中でいわゆるデジタル・ディバイド(情報格差)が縮まってきているのだ。例えば経済協力開発機構(OECD)の調べでは、2000年から2005年の5年間の中国の情報通信技術(ICT)の 成長率は22%であった。
さらに中国のICT市場は2006年、アメリカ、日本、ドイツ、イギリス、フランスに次いで世界第6位になった。1998年の時点で、中国でのパソコン所有者は総人口の1%以下だったこと( 国連データの人口統計の試算による)を考えると、これは驚くべき事実である。
とはいえコンピューターは一連のE-wasteのうちのほんの一部でしかない。例えば2008年の 国連大学の調査によると、欧州連合(EU)では2005年、大型家電製品がE-waste総量の44%を占めた。この事実は、電気電子機器廃棄物(WEEE)指令(EUによる収集、再生利用、電気製品のリサイクルと再利用に関する指令)の2008年度の報告書の裏付けとなった。
とりわけICTとオフィス機器の分野で急激に起こった製品開発の技術革新と製品の買い替えは、アナログからデジタル技術への移行(例えば薄型テレビなど)と相まって、ますますヒートアップしている。生産規模の拡大によって製造原価が抑えられたことで大量の電気製品の価格が安くなり、多くの製品に対する世界的な需要が高まり、結果的にE-wasteの増大につながっている。
電気製品廃棄物には危険ではあるが高価で希少な原料が含まれている。複合電子機器からは多い場合、 元素周期表の中から最多で60種類の物質が見つかる。
例えば家庭用のコンピューターを例にあげてみよう。一般的なブラウン管(CRT)のモニターには高価な物質が多く使われている一方で、有害物質も多く含まれている。これらの有害物質のひとつであるカドミウムはコンピューターの充電用バッテリー、接触口、旧式のCRTモニターのスイッチに使われている。 グリーンピース・インターナショナルの報告によると、カドミウムは環境に蓄積してゆく可能性があり、特に人体(中でも腎臓や骨)に与える影響は大きい。またフラットパネルディスプレー内の照明装置に使われている水銀は、神経系、腎臓や脳に悪影響を及ぼすこともあり、またそれが母乳を通して乳児に影響することもあり得る。
鉛は金属の全生産工程の中で重要な役割を担っている。それゆえに鉛を利用しない電気電子製品の開発をしたところで、鉛を完全に排除することにはならない。無鉛の接触材料でさえ、鉛と一緒に生産されている。こういった事実からも、E-wasteの状況分析をし、包括的な視野をもった問題解決策が必要だということが明らかになってくる。
しかし残念なことに、こういった専門的な方策がとられることはまれである。なぜなら世界中のE-wasteの多くは、国境をはるかに超えて発展途上国に集まるという事実があるからだ。 ドイツ環境庁に委任された最近の調査によると、再利用可能品としてドイツから船で不法に輸出された廃棄物は15万5000トンに上るという。
こういった廃棄物から貴重な物質を抽出し部品をリサイクルする場合、結局は専門的で昔から少しも進歩していない技術で行われることが多い。つまり金を抽出するために酸浴を利用したり、絶縁材をはがして銅を取りだすためにワイヤーを燃やしたりといったことだ。これによりダイオキシンなどの汚染物質が発生し、適切な予防策をとっていない作業員の健康を害し、地元の環境に悪影響を及ぼすことになる。
その上これらの技術は資源再生という点で非常に効率が悪い。リサイクルといえば金や銅などの価値の高い物質に限定されて行われるのが一般的で、その上リサイクル率はあまり良くないことが多い。一方でその他の物質は捨てられるか、必然的に失われてしまう。つまりE-wasteについて議論をする場合、環境、人間の安全保障、経済面、社会面に加えて、資源効率もまた大切な一面なのだ。
地球上のE-wasteのうち、把握されているものはほんの一部であるため、一体どれだけのE-wasteが存在するのか正確に知ることは難しい。その上、政府主導で行われるE-wasteの種類数に関する分析結果と回収計画は、世界各国の間でばらつきがある。
しかしながら、常識的に見積もれば、世界のE-wasteの総量は年間4000万トン程度であると試算される。もしそのゴミをダンプカーに積んで並べていくと、地球を半周してしまうほどの量なのだ。WEEE指令(ヨーロッパのE-wasteに関する指令)の最近の再調査によれば、2005年にはヨーロッパだけで830万から910万トンのE-wasteが出ており、全体的に増える傾向にあると指摘されている。
オーストラリアでは、一家庭で使用されている家電製品の数は平均22種類であり、今後2年以内に900万台のコンピューター、500万台のプリンター、そして200万台のスキャナーが買い替えられるであろうとオーストラリア統計局は 試算している。またアメリカでは2005年に190万~220万トンのE-wasteが出され、そのうちリサイクル回収されたのは12.5%だけだったとアメリカの環境保護庁(EPA)は 報告している。
国連大学がWEEE指令を再調査した結果、2005年のEUにおけるE-wasteの総重量の25%が計上されていないことがわかった。つまり毎年600万トン以上ものE-wasteがどこに消えたのかを説明する科学的データが全くないという驚くべき事実が明らかになったのだ。
アメリカ環境保護局(EPA)の試算では、世界では年間5~10%の割合でE-wasteが増加しており、驚いたことに実際に再生されているのは 総重量4000万トンのうちの5%しかないということだ。では、残りの3800万トンはどこへ行ったのだろう?
なぜこれほど多くのE-wasteが確認されないままなのか?その確固たる答えを知る者はいないのが現状だ。しかし中には十分な説明がつくものも多少はある。例えば、中国やインドなどの 発展途上国に密輸されたり、自国の非認可の処理センターで扱われたりしている。あるいはオーナーが手放せずに倉庫で放置しているE-wasteもある。
総合的に見て、このグローバル化した世界においてE-wasteが地球規模の問題であることは、その生産や廃棄物の処理における本質から考えてみても明らかなことだ。
また、地球上のE-wasteの正確な総量を知ることが難しいとされる一方で、その中の多くが結局は非常に未発達な手法によって処理されているということもわかっている。こういったことから資源効率の問題が取り上げられるが、まずは人間の健康や環境への悪影響が差し迫った懸案事項だ。
E-waste問題は、長く、時に込み入った事柄の連鎖によって起こる。つまり誰かが新製品を思いつき、その製品が生産され、購入され、最終的に消費者に捨てられる。この連鎖の中で様々な出資者と関与し、関係する化学の知恵を利用することで、初めてE-waste問題を解決する(StEP)ことができるだろう。
StEPでは様々な国連機関がイニシアチブをとり、産業界、政府、国際機関、NGO、科学技術界から著名人が集まり、E-wasteを再び利用していくための方法を生み出し、促進するために共に活動している。5つの調査特別委員会で、分析と企画立案と試験計画によって、実現可能で環境に優しいE-waste問題の解決方法が開発されているところだ。
この記事にあるフォトエッセイの撮影・説明文は ステファン・アーヴィン氏の版権所有。記事はルーディガー・キュール氏によるもので、サイドバーに記されている通り、著作権はクリエイティブ・コモンズに基づく。
翻訳:伊従優子