地熱の知識をメガワットに転換

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  • 2012年5月15日

    パシフィカ・オゴラ

    地熱の知識をメガワットに転換

    Photo: Luis Patron/UNU

    今回は、国連大学地熱エネルギー利用技術研修プログラムのPh.Dフェローである、ケニアの環境科学者パシフィカ・オゴラ氏による論文の前半をお届けする。オゴラ氏はアイスランドでの経験を交えながら、地熱エネルギーが自分の国のような途上国にとっていかに重要かを説く。

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    アイスランドは、世界で最も地熱活動が活発な国で、再生エネルギー利用における世界のリーダーである。地熱エネルギーによって家の暖房、工業の電力が賄われ、あふれ出る温水で風呂や温泉は年中あたたかく保たれている。

    アイスランドにある国連大学地熱エネルギー利用技術研修プログラム(UNU-GTP)と国連大学メディアセンターが製作したビデオ「Geothermal Iceland(地熱のアイスランド)」には、国連大学地熱活動の活発な途上国で地熱開発調査を行う専門家グループを立ち上げ、潜在的エネルギーを生かすための活動を支援している様子が描かれている。このビデオ(画面上部)にはケニア出身の友人かつ同僚であるアンナ・ワイリム・ムワンギ氏が登場している。

    アイスランドは地熱利用研修プログラムには最適な場所だ。国の一次エネルギーのうち70%が再生可能エネルギーで(地熱発電が54%、水力発電が18%)、これは世界で最も高い再生エネルギー利用率である(大きく水をあけられた2位はノルウェーの38%)。アイスランドの輸入化石燃料を利用しているのは漁業と輸送部門のみである。

    現在アイスランドには以下7カ所の地熱発電所がある。

    A. ビヤルトナルフラグ(アイスランド北部)

    発電容量3 MWe

    B. スヴァルスエインギ(レイキャネス半島)

    発電容量76 MWe

    C. クラプラ(アイスランド北部)

    発電容量60 MWe

    D. ネシャベトリル(ヘインギットル山周辺)

    発電容量120 MWe

    E. ヘットリスヘイディ(ヘインギットル山周辺)

    発電容量303 MWe

    F. レイキャネス(レイキャネス半島)

    発電容量100 MWe

    G. フーサビーク(アイスランド北部)

    発電容量1.7 Mwe

     

    地熱について学ぶためアイスランドへ

    2011年のアンナ・ワイリム・ムワンギ氏と同様に、私も2004年夏にアイスランドへ行きUNU-GTPが提供する6カ月の専門研修を受けた。このプログラムに参加し、地熱利用について学んだだけでなく、地熱エネルギーがもたらす様々な恩恵を体験することができた。アイスランドの地熱エネルギーは何世紀にもわたって活用されており、20世紀には大々的な商業利用も始まった。

    アイスランドとケニアは、地理的にも気候的にも隔たりがあるが、地熱利用の潜在的利益はどちらにも通じるもので、ケニアがアイスランドから学べることはたくさんある。アイスランドの発電量のうち26%は地熱エネルギーによるものだ。さらに、この環境に優しい資源は、1年を通して130以上ある温水プール(そのほとんどは屋外)や、亜北極帯の暗く寒い日々でも様々な野菜を採れる温室などに使われている。アイスランドの世帯の90%が地熱で暖を取り、その残りの一部は車道や歩道の融雪装置に利用されている(よって除雪機や労働力が少なくて済む)。このビデオを見れば、アイスランドでは家庭での給湯やレストランの調理など独創的な形で地熱エネルギーが利用されていることが分かる。

    このような利用法は、途上国の多くの地域で転用可能であり、生活を大々的に改善し、ミレニアム開発目標の達成が期待できるだろう。特に私の祖国ケニア北部の大地溝帯がそのような地域であり、そこでは人口の1%しか電気が使えない。

    アイスランドのUNU-GTPで研修生として過ごした6カ月の間、実習や短期の実地調査を通して地熱エネルギー使用を直接目にし、地熱エネルギー探査と活用の主な特徴について学ぶ機会を得た。

    30年以上の実績と研修

    国連大学地熱エネルギー利用技術研修プログラムは1987年にアイスランド政府と国連大学によって設立された。規模は徐々に拡大し、地質学調査、ボーリング地質学、物理炭鉱、ボーリング地球物理学、地熱貯留層工学、高温熱媒学、環境学、地熱活用、掘削技術などの分野で専門研修を行っている。

    UNU-GTPの創設者はビデオにも登場しているイングバル・B・フリドレイフソン所長である。UNU-GTPは6名の常勤職員による小規模なオフィスだがアイスランド・ジオサーベイ社(ISOR)、Orkustofnun(アイスランド商工省のエネルギー局。エネルギー問題に関する助言と研究を行っている)、アイスランド大学から協力を得ている。

    1979年から2011年の間に50の途上国出身の科学者やエンジニア482人が、毎年開講の6カ月コースを終了している。その出身地の内訳は41%がアジア、30%がアフリカ、16%が中南米、13%が中東欧諸国で、女性は89人(18%)である。また、90人以上の専門家が短期研修(2週間から4カ月)を受講した。

    修了生の人数が最も多いのは中国(78人)で、続いて自国ケニア(62人)。 その他受講者が多いのはエルサルバドル(32人)、フィリピン(31人)、インドネシア(29人)、エチオピア(27人)である。

    UNU-GTPによると、全受講生の80%が研修後5年以上も地熱分野での仕事を続けている。その大多数が地熱を専門分野としおり、幸運にも私もその1人だ。

    知識をより高次元へ

    UNU-GTPでの研修を終え、私は国に帰り、ケニア電力公社KenGenの職に復帰した(この記事の後半では、ケニアの地熱資源開発の現状とUNU-GTPの修了生がそこで知識をメガワットに換えるために果たしている役割について説明したい)。

    専門知識を深めたいと思った私は、(UNU-GTPとアイスランド大学で) 環境と気候変動、ケニア北部の大地溝帯の地熱活用に関連する分野で博士号を取得すべく、2009年、再びアイスランドへ向かった。

    2009年の1月末、真冬のアイスランドに到着した時、私は待ち受けていた寒さと暗さに対する心の準備が出来ていなかった。そして、その時初めてレイキャビクの地熱地域の暖房のありがたみを知った。

    上の写真は2009年にレイキャネスの泉から立ち上る地熱の蒸気の前に立つ私だ。故郷の友人たちは、どうやって雲の中で写真が撮れたのかと不思議がった。この蒸気は彼らが言う「雲(クラウド)」ではないが、私はまさに「至福(クラウドナイン)」(英語で至福を意味する言葉)の気分だった。アイスランドに対する私の気持もそうである。