2015年11月11日
国連持続可能な開発サミット(2015年9月25~27日)で、持続可能な開発目標(SDGs)を採択するために世界の指導者たちがニューヨークに集結する直前、国連大学学長で国連事務次長のデイビッド・マローン博士に、ミレニアム開発目標(MDGs)からSDGsへの移行について、またポスト2015年開発アジェンダに対する国連大学の貢献の可能性について見解を伺いました。
レイチェル・シンドラー(以下RS):MDGsを振り返る時によく耳にする批判の1つは、MDGsが理論的根拠に欠けていた、つまり、ターゲット間の明確な優先順位もなければ、それらを達成するための処方箋もなかったというものです。これは当を得た批判だと思いますか?
デイビッド・マローン(以下DM):政府は通常、理論をあまり気にかけません。おそらく気にかけるべきなのでしょうが、そうしないのが実情です。その意味では、特定の理論がなかったことは驚くにはあたりません。
実際のところ、MDGsもSDGsも順序付けはされていませんが、これは偶然ではありません。193カ国が互いに交渉しあうSDGsの策定プロセスでは、目標やターゲットについてコンセンサスを形成することが非常に困難です。重要性や緊急性に基づいて順序付けを行っていたら、交渉プロセスはいつまでも終わらず、実際には何も達成できなくなってしまうでしょう。
MDGsの優れていた点は、目標やターゲットの数が比較的少ないということでした。それらのターゲットのすべてではありませんが、多くの非常に重要なターゲットが達成されました。MDGsには目標が8つしかありませんでしたが、特定の目標やターゲットに的を絞って取り組んだ国もあり、しばしばかなりの成功を収めました。
SDGsでは、(結果から見ると、編集作業なしにただ追加されていったために)交渉は色々な方向に向かい、目標、とくにターゲットが多様化しています。そのおかげで交渉は何とか結論に達し、とくに賞賛に値するものではないとしても、理解可能なものとなったのです。
これらの目標に署名するのは、どの国にとっても非常に簡単なことでしょう。しかしどの国の政府においても、大事な問題は「自分たちに何ができるのか?どの分野に力を入れるべきか?」ということです。各国の政府が選択しなければならないのです。
私は、選択肢がたくさんあることが必ずしも悪いことだとは思いません。実際、政府が選択するために経なければならないプロセスは有益なものです。閣僚や、政府首脳の側近や、国会議員たちが交わす会話、すなわち、自国の社会や経済にとって最も関連性の高い分野はどれかということについての会話は、国として非常に重要なものとなるでしょう。
RS:MDGsの優れていた点の1つは、リストの短さです。SDGsは目標の数が多いうえに、ターゲットの数はもっと多く、各国は選別をしなければなりません。このプロセスは、国レベルでは都合の良いものかもしれませんが、世界レベルではどうでしょうか?リストが長くなったことや、明確な優先順位がないことは、機能停止につながるのではないでしょうか?
DM:私はそうは思いません。MDGsも機能停止につながる可能性はありましたが、そうはなりませんでした。開発途上国の社会は変わり続けています。開発途上国では(偶然にも2000年頃から)開発プロセスの広範な成功が顕著になり始めました。アジアは、いくつかの政策分野における進展とともに、非常に圧倒的な経済成長を遂げました。アフリカは、成長の恩恵の分配に著しいむらが見られるものの、評価されているよりもはるかに大きな成長を遂げています。ラテンアメリカでは、それほど大きな経済成長は見られませんが、社会政策の面で非常に興味深い発展を遂げています。
先進国の経済はおおむねかなり成熟しており、今後は成長率が低下することが予想されます。ですから、活力があるのは先進国ではなく開発途上国です。SDGsの交渉プロセスでは、開発途上国でこれほどの成果が上がったということがほとんど見過ごされていました。2008年から重大な問題に見舞われているのは先進国なのです。
RS:あなたはUNU-CPRのウェブサイトのある記事で、新たな開発アジェンダの交渉プロセスでは量の問題だけでなく質の問題も認識され始めたとおっしゃっていますね。これは、先進国の問題が大きくなりつつあるということを反映しているのでしょうか?
DM:そうです。先進国の問題は、開発途上国の問題とはかなり異なります。しかし共通する問題もいくつかあり、その1つが雇用の質の問題です。若者たちがどのような仕事を与えられているのかという問題です。これは普遍的な課題です。しかしある意味これは、先進国では経済的・社会的発展の基礎的な問題となりつつあるのに対して、開発途上国ではまだ「贅沢な」課題です。
こうした質の概念が重視され始めたことは、大きな進展の兆しです。MDGsは本質的に定量的な目標でした。しかし今では、例えば教育の分野などで大きな変化が見られます。MDGsは初等教育の普及に重点を置いていましたが、今では、開発途上国における教育の質の向上が急務だということが広く認識されています。SDGsが職業教育ならびに古典的な学校教育や大学教育に焦点を合わせていることは、極めて前向きな変化です。
また、生涯学習について言及されていることも重要な変化です。私がまだ若く、職業人生を初めたばかりの頃には、一生の仕事に就くことを当たり前のこととして期待することができました。しかし、そのような時代は終わりました。なぜなら私たちの経済はめまぐるしく変化しているからです。そして、個人の願望も大きくなっています。
このことは、すべての目標やターゲットの策定過程でさまざまな考えが織り込まれたということを示しています。なぜなら、これらの目標やターゲットが追加的であり、各政府にとってそれらの中から優先すべきものを選択することはかなり大変な作業だからです。最も裕福な国の政府ですら、選択しなければなりません。ですから主な問題は(これは同時に機会でもありますが)国レベルでの選択の問題であり、インドのような非常に大きな国では、地域ごとのバリエーションも必要になるでしょう。
これは悪いことではありません!それどころか、非常に良いこととも言えます。なぜなら、169個ものことを同時にしようとすれば、すべて失敗に終わる可能性が高いからです。
RS:国連大学ウェブサイトの「17日間で17の目標」シリーズを見ると、国連大学の活動がSDGsの17個の目標と非常に緊密に連携していることがわかります。このような重点領域や関連性は意図されたものなのでしょうか?
DM:1960年代後半に国連総会の話し合いで国連大学の構想が示され、1975年に東京の国連大学が創立されたわけですが、当初は開発途上国とそれらの国のニーズや利益にとくに重点が置かれました。国連大学が計画策定において今もその方針におおむね忠実であり続けていることを、私は非常に誇りに思います。
私は焦点を絞ることが非常に重要だと考えています。900個のことを一度にやることはできないと思います。つまり、1つのことを非常にうまくやることは、多くのことを大雑把にやるよりもはるかに良いでしょう。ですから、私が国連大学の各研究所に望むのは、自分たちが何をやっているのか(また何をやっていないのか)を明確に把握することです。
SDGsの策定のために多大な労力が投じられたことは明らかです。この作業に関与した代表者たちは、自分たちや自国にとって最も重要な問題は何かということを考えなければなりませんでした。その結果、ターゲットが多様化したのです。
このことは国連大学とどのような関連があるでしょうか?当然のことながら、国連大学は169個の問題のすべてに取り組もうとするわけではありません。もしそんなことをすれば、私たちは、研究において最も避けるべき凡庸さというそしりを受けることになります。それは、過去に国連大学が行った選択の多くを正当化するとともに、将来の組織発展に向けたさまざまな考え方を提供してくれるものだと思います。
RS:新たな開発アジェンダは、国連大学の将来の研究にどのような影響を与えるでしょうか?
DM:SDGsが今後15年間にやるべきことをすべてまとめたものだという考えは間違いです。SDGsは、2015年に私たちが考えていることを示したものにすぎません。
今から2030年までの間に新たな問題が生じるでしょうし、国連大学はそれらの問題に対応する準備を整えていきます。そうした問題の中には、非常に緊急性が高く、直ちに対処しなければならないものもあるでしょう。私たちはそうした状況に対してオープンな姿勢を保ち、つねに変化を見逃さないようにしなければなりません。変化を予知することはできません。変化への対処は、完璧に準備できるものではなく、通常予想外な形で私たちの目の前にやってくるものなのです。