世界海洋デーを記念しシンポジウムを開催しました 〜「日本から考えるSDG14:海の豊かさを守ろう」〜

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  • 2018年6月8日     東京

    Daniel Powell/国際連合大学: シンポジウムに登壇した(左から)根本センター長、さかなクン、イヴォーン研究員、沖上級副学長

    地球上の7割の面積を覆う海。海岸へ行ったことがなくても、調理済みの魚しか見たことがなくても、私たちの暮らしと海は密接につながっています。海と人々のつながりを見つめ直し、海洋資源や海の環境を守る取り組みを市民とともに進めようと、国連は6月8日を「世界海洋デー(World Oceans Day)」に定め、この日に合わせた海の清掃活動などが各地で行われています。

    国連大学では、世界海洋デーを記念して、シンポジウム「日本から考えるSDG14:海の豊かさを守ろう」(主催:国連大学、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)/共催:国連広報センター)を、国連大学本部(東京)で開催しました。

    ゲストスピーカーに東京海洋大学名誉博士・客員准教のさかなクンをお迎えし、会場のウ・タント国際会議場には、海洋関係の研究者から学生まで300名以上が集まりました。

    講演の様子:沖上級副学長

    はじめにシンポジウムでは、国連大学の沖大幹上級副学長が、2015年に国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)について説明し、「SDGsの17の目標のうち、SDG14は『海の豊かさを守ろう』です。2015年以前に国連が実施していた『ミレニアム開発目標(MDGs)』にはなかった海に関する目標が盛り込まれたことで、海の問題は世界が団結して解決に取り組むべき課題となりました」と解説しました。その上で、日本では今でも雨天時に下水がそのまま海へ流されているなど、海に関する国内の問題点について触れ、「日本は国内で排出されたゴミを輸出するなどゴミ処理の海外依存度が高くなっています。国内のリサイクル業者の不足が今後の海洋汚染にどのような影響を与えるのか、注意深くモニタリングする必要があります」と指摘しました。

    講演の様子:さかなクン

    続いて、東京海洋大学名誉博士・客員准教授のさかなクンが「一魚一会(いちギョいちえ)」と題した講演を行い、「お魚にとって海水温が1度上がるのは、人の体温が1度上がるようなものです」と述べ、気候変動の影響による海水温の上昇など、今世界の海で起きている変化について説明しました。また、沖縄の海の事例を取り上げ、「沖縄県では、海水温の上昇によって珊瑚が白化・死滅し、お魚もいなくなってしまいましたが、これを解決するために、現地では折れた珊瑚を集めて水槽で育て、地元の海に植える活動に14年前から取り組んでいます」と、海の環境再生に向けた活動を紹介しました。また、さかなクンの地元・千葉県館山市で行われている「定置網漁」という漁法について説明し、「この方法では網面積の2割ほどを引き上げるようにし、お魚の獲りすぎに配慮しています。網には、お魚の卵や海藻が付着し、海の生き物たちが住みやすい環境づくりにも生かされています」と述べ、日本の伝統的な漁法のメリットについて説明しました。一方で、増え続ける海洋ゴミについて問題を提起し、「横浜市の山下公園で一年に一度開かれる海のゴミ拾いに参加した際、自転車の空気入れ、レジ袋、漁獲用の網が海中から見つかりました。お魚はそれらのゴミに絡まったり、間違えて食べてしまいます。プラスチックゴミによる海洋汚染をみんなで防いでいきましょう」と参加者へ呼びかけました。

    講演の様子:イヴォーン研究員

    続いて講演した国連大学サステイナビリティ高等研究所のイヴォーン・ユー研究員は、日本の「里海」の概念について解説しました。シンガポール出身のイヴォーン研究員は、来日し日本の海について研究し始めた際、「海について学ぶには、まず陸のことを知る必要がある」とアドバイスされたエピソードを紹介し、「プラスチックによる海洋汚染をはじめ、海の問題の多くは、人々の陸での暮らしに原因があります」と述べました。その上で、「日本には、人と海との相互作用により、沿岸部の生物多様性が維持される『里海』という概念があります。農林水産省の統計によると、2017年、日本の漁獲生産量のうち沿岸漁業は44%(沿岸漁業21%、沿岸海面養殖業23%)を占め、漁師さんの約85%が沿岸漁業者です。つまり、沿岸部で持続可能な里海の漁法を実施することは、海洋資源の適切な管理につながるのです」と述べ、里海の重要性を訴えました。また、私たちにもできる里海を守る取り組みとして、持続可能性に配慮した方法で漁獲された魚介類の認証マークを紹介し、買い物の際にはこうしたマークが付いた認証商品を意識して選ぶなどを心がけてほしいと呼びかけました。

    次に行われたパネルディスカッションでは、「SDG14達成のために私たちができること」をテーマに参加者と意見交換を行いました。はじめに、モデレーターを務めた国連広報センターの根本かおる所長が、2018年の世界環境デー(6月5日)と世界海洋デー(6月8日)のテーマである「やめよう、プラスチック汚染(Beat Plastic Pollution)」について紹介し、「私も買い物にはエコバックを持参し、飲み物はタンブラー(水筒)に入れて持ち歩く習慣を始めました。みんなで小さな取り組みを積み重ねることが、大きな変化につながると思います」と、自身の取り組みを述べました。イヴォーン研究員は「日本では、清潔感を求めすぎた過剰梱包や、絶滅危惧種の魚介類を『今のうちに食べておこう』を考え、逆に消費に走る傾向性があります。プラスチックによる汚染を減らしたり、海洋資源を守るには、これらの考え方を見直していく必要があるでしょう」と述べました。また、一人ひとりが取り組める活動として、さかなクンは、「海を知るきっかけとして、海の問題を取り上げた記事を読んでみたり、実際に海へ行って清掃活動に参加しながら、どのようなゴミが落ちているかを見てほしいです」と伝えました。一方で、綺麗すぎる海が豊かな海というわけではないという点を指摘し、「綺麗になりすぎた瀬戸内海では栄養分が減ってお魚が痩せています」と、瀬戸内の海の現状を紹介しました。これについて、沖上級副学長は「豊かな海には陸からの流れてくる栄養分が必要不可欠ですが、ゴミは必要ないため、分けて考えなくてはいけません。たとえ海に行けなくても、陸でゴミを出さないようにし、持続可能な形で獲られた魚を食すことで、海の豊かさを守ることができます」と述べ、私たちの生活を変えることで豊かな海づくりに貢献できると強調しました。