2019年9月25日 ボン
電気電子機器廃棄物(e-waste)は世界で最も急速に増えている固形廃棄物と言われており、2000年以降、毎年2000万〜5000万トンずつ増え続けています。国連大学が主催している「E-Waste問題解決(StEP)イニシアチブ」は、国連環境計画と共同で新たな報告書を出版し、将来のe-wasteについていくつかのシナリオを想定し、解決策を提示しています。
報告書の中で基本となるシナリオでは、e-wasteの量は2050年までに2倍以上に膨れ上がり、年間およそ1億1100万トンに達するだろうと予測されています。
しかし、e-wasteの量の問題を語るだけではなく、実際に産業界、政策立案者および消費者がこの状況をどのように対処するのかを考えていくことが重要です。電子機器の持続可能な生産および消費システムを構築するだけでは問題は解決されず、ビジネスのあり方を見直す必要があります。予期することが難しい技術進化に対応しながらも、増え続ける要求を満たすために、電子機器部門には抜本的な改革が必要とされているのです。
新しい技術によって、電子機器のエネルギー効率および携帯性を改善した材料や合金の開発が進められていますが、こうした材料のリサイクルは容易ではありません。利用可能な技術があるにも関わらず、e-wasteから材料をリサイクルすることには、多くの場合、経済的なインセンティブが伴わないのが実情です。E-wasteに関する政策や規制がいくつか整備されたものの、期待されていたような改善には至っておらず、さらには、e-wasteの収集率を大幅に増加させようとする試みがあるにも関わらず、収集率は依然として世界平均で20%程度にとどまっています。したがって、発生するe-wasteのほとんどは適切に処理されていないというのが現状です。
電子機器分野の企業は、取り組みの強化を図り、より循環型な経済を構築するための責任を担うことが必要とされています。E-wasteの将来は、対応次第で以下の3つのシナリオが想定されます。
これまで通りの「線形成長」シナリオ(電子機器分野の技術革新、生産および消費の着実な増加)は、短期的にはより手頃な価格の製品の提供を可能にするかもしれませんが、環境フットプリント(製品や企業活動が環境に与えている負荷を評価するための指標)、毒性、および短命で1度の使用にしか耐えない使い捨ての電子機器の蓄積といった長期的な代償を生むでしょう。収集とリサイクル技術の著しい改善を伴わない生産側だけの発展では、生産および消費サイクルのギャップが埋まりません。
「後手後手の対応」シナリオ(産業界がより厳しい規制義務の遵守を強いられる場合)では、e-wasteの状況が地域レベルでは改善される可能性があるものの、より環境に関する規制の緩い国々にe-wasteが持ち込まれることや、非公式な取り組みが増えること、また、法令遵守のための費用を消費者に転嫁するといった事態が増えることが考えられます。
最善の選択肢は、より持続可能な生産および消費を目指して、「先を見越した道筋」を産業界が示していくことでしょう。メーカーは、電子製品の寿命延長と再利用を優先し、革新的なビジネスモデルを提示することで主体的に取り組むことができます。電子機器使用の増加は免れないとはいえ、より循環型のビジネス手法への転換は、e-wasteがもたらすマイナスの影響を減らし、e-wasteの発生を抑制することができると考えられます。
大企業のメーカーでさえも10年、20年または30年後の成長およびその過程を確実に見通すことができないため、技術の進化を予見するのは容易ではありません。しかし、電子機器の使用、すなわちe-wasteの発生が今後数十年にわたって増えていくことはほぼ確実です。これは、経済が急成長している国にとくに当てはまることであり、今後経済の繁栄に伴って無数の電子機器で溢れるでしょう。そうした動きは、すべてのe-waste分野の関係者(生産者、利用者、e-waste収集業者、リサイクル業者および政策立案者)にとって好機であると同時に、さらなる挑戦となることを意味しています。将来がどのような方向に進もうとも、電子機器の持続可能な生産および消費システムを確立することは、すべての関係者の多大な努力を必要とするでしょう。
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本報告書は、国連大学副学長欧州事務所(UNU-ViE)の持続可能なサイクル(SCYCLE)プログラム、E-Waste問題解決(StEP)イニシアチブ、および国連環境計画の国際環境技術センターによる共同出版物です。詳細はFuture E-waste Scenarios をご覧ください。
E-Waste問題解決(StEP)イニシアチブは、デジタル化の進む世界において、電子機器のあらゆる側面への対処戦略を策定するために設立された、e-wasteの専門家のネットワークであり、多様な関係者で構成されるプラットフォームです。この独立したイニシアチブでは、電子機器の全ライフサイクルを通して、グローバルなe-wasteの課題に対する傑出した解決策を生み出すことを目的とした、総合的かつ科学に根ざしたアプローチを適用しています。
持続可能なサイクル(SCYCLE)プログラムは、ドイツのボンを拠点とする国連大学副学長欧州事務所(UNU-ViE)が主催するもので、持続可能な社会の促進を使命とし、持続可能な生産、消費および電気電子機器(EEE)ならびにユビキタス製品の廃棄様式の開発に関する活動に注力しています。SCYCLEプログラムは、グローバルなe-wasteの議論を牽引し、ライフサイクル思考に基づく持続可能なe-wasteの管理戦略を推進しています。
国連環境計画(UNEP)国際環境技術センター(IETC)は、国連環境計画の支部として日本の大阪を拠点とし、廃棄物管理に重点を置いた、環境的に健全な技術に関する情報の収集と普及に取り組んでいます。