水関連目標、コストは大きいがリターンはさらに大きい

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  • 2013年12月17日     Hamilton Ontario Canada

    ポスト2015年開発アジェンダにおける期待される世界の水関連目標を達成するためには、今後20年間にわたり推定で年間8,400億米ドルから1兆8,000億米ドルの投資が必要となる。しかし、この投資によりもたらされる経済的・環境的・社会的便益は年間3兆米ドルを超える可能性があるとのことである。

    Catalyzing Water for Sustainable Development and Growth(持続可能な開発と成長のための触媒としての水)」と題した新たな報告書は、ストックホルム環境研究所(SEI)の協力により、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)と国連持続可能な開発事務所(UNOSD)が共同で作成したものである。

    Catalyzing Water for Sustainable Development and Growth Cover

    11月に発表されたこの報告書は、利用可能な大量のデータ、ならびに安全な飲み水と公衆衛生への普遍的アクセス、食料生産や再生可能エネルギー生産のための灌漑の拡大を含む主要な世界の水関連課題の費用に関する過去の見積りを収集しまとめたものである。今回の研究では、2015年に国連ミレニアム開発目標(MDGs)が期限切れを迎えた後で国際的な開発アジェンダの指針となる新たな「持続可能な開発目標(SDGs)」に水を組み込むための選択肢について、初めての包括的で証拠に基づいた分析が行われた。

    持続可能な開発と経済成長のための水の供給を(先進国と開発途上国を合わせた)世界全体で実施するためには、今後20年間にわたり、年間8,400億米ドルから1兆8,000億米ドルの費用を要すると推定されている。これは現在の年間支出から見ると大幅な増額ではあるが、これにより直接的な経済的利益、生活基盤の構築、保健医療システム上の節約、自然の生態系サービスの保全など、3兆米ドル以上の便益が生み出される。

    例えば保健医療部門だけでも、公衆衛生と飲み水へのアクセス改善のための投資1ドルにつき4.30米ドルの利益が生じると、世界保健機関の調査は推定している。また廃水処理、灌漑、環境サービスへの投資も、かなりの経済的便益を生む。

    しかし水関連費用の計算には「誰もがあえて触れようとしない汚職という厄介な問題」がいつもついてまわると、同報告書の共著者の1人であるUNU-INWEHのザファール・アディール所長は言う。トランスペアレンシー・インターナショナルの調査では、現在の水関連インフラへの投資のうちなんと約30パーセントが汚職により失われているという結論に達した。現在の水準に基づく推定によると、汚職による損失が費用を劇的に増加させることになるだろうと、今回の報告書は指摘する。

    「水は部門横断的で圧力にさらされている資源であるため、汚職の対象となりやすい。その管理は分散的で、インフラは大規模な財政投資を必要とする。このような要素に加えて、民間・非公式組織が関与することも汚職を助長している」

    「前進するためには、システムの浄化が不可欠です」と、アディール博士は言う。「もし何らかの方法で汚職を即座に撤廃できたならば、水関連目標の達成に必要な年間投資はGDPの1.2~2.2%(現在は0.73%)となり、保健医療費やその他の社会的費用の削減というかたちで数兆ドルの利益がもたらされます。これはより良いガバナンスへの投資を求める説得力のある論拠となります」

    水は社会開発、環境保全、経済成長の鍵であるとアディール博士は言う。「MDGsのもとでかなりの進歩が遂げられており、これは継続するべきです。しかし2015年以降の開発目標は、国の開発・成長計画と国際的な開発アジェンダにおいて水が果たす肝要かつ分野横断的な役割を認識したものでなければなりません」

    「水や公衆衛生関連の投資額を現在の水準の2~3倍近くに増やさなければ、世界の成長と持続可能な開発において真の進歩を遂げることは極めて困難となります」と、UNU-INWEH研究員のコリーン・ シュースター=ウォレスは言う。「他に選択肢はないのです。私たちは水への広範な投資を今すぐに始めなければなりません」

    また報告書は革新的な資金調達メカニズム(課税、補助金、利用者負担、民間投資といった従来の資金調達メカニズムに加えて)についても触れ、ポスト2015開発アジェンダの実施においてますます重要性が高まると示唆している―—これらのメカニズムは、水問題の主導権が政府から一般市民に移ったことを反映しており、マイクロクレジット制度、オンラインの「クラウドソーシング」、および効率性向上による節約分の再投資といったものや各部門の副産物を通じて生み出されるその他の収益(バイオソリッドなど)を含む。

    「地球の転換点が近づき、後戻りできない変化が生じているなかで、革新的な視点とパラダイムシフトが求められています。この報告書はそうしたプロセスを可能にするためのものです」と、国連経済社会局(UN-DESA)持続可能な開発部のニキール・セツ部長は言う。

    この報告書によると、今後数十年の間に世界が直面するいくつかの水関連課題には、水の消費増加、食料需要の増加と食習慣の変化、エネルギーの需要とアクセスの拡大、気候変動の影響、そして新たな地政学的力学が想定される。

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    この記事のロングバージョンをご覧になりたい方は、UNU-INWEHのウェブサイトのWater Goals Have Big Costs & Bigger Returns (英語)をご覧ください。