東日本大震災後の脆弱性とエンパワーメント

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  • 2013年1月10日     東京

    Prof. Andrew DeWit Photo: Stephan Schmidt/UNU

    アンドリュー・デウィット教授(立教大学) Photo: Stephan Schmidt/UNU

    2012年11月30日の公開シンポジウムにおいて、国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)は、第一線で活躍する学者を集結し、2011年3月11日の日本の「三重苦の災害」後に生じた重要な課題と機会について検討しました。本シンポジウムは、UNU-ISPの研究プロジェクト「人間の安全保障と自然災害(Human Security and Natural Disasters)」に関連する一連のイベントのうち最新のものです。

    「3.11後の復興:脆弱性とエンパワーメント」と題した本シンポジウムでは、特定の集団が偏って被害を受けている、その図式について、また、これに対して私たちがより積極的に対応していくにはどのような方法があるかについて考察しました。また、日本の今後のエネルギー政策と民主主義の機能の仕方に対し、福島第一原子力発電所の危機がどのように影響するかについて考察しました。

    シンポジウムではまず武内和彦教授(国連大学副学長、UNU-ISP所長)が、研究を通じて、日本の復興に貢献していくというUNU-ISPのコミットメントを強調し、「私たちは、東北の苦難の中に、日本のより持続可能な未来のきっかけを見出すことができるかどうかについて慎重に考察すべきです」と提案しました。

    クリストファー・ホブソン博士(UNU-ISPリサーチ・アソシエイト)は、「人間の安全保障と自然災害」プロジェクトを紹介し、被災者をただ受動的被害者としてみなすという単純な認識を超えて行動する必要性を強調しました。

    ダニエル・アルドリッチ博士(パデュー大学)は、自然災害から復興する際の「社会資本(ソーシャル・キャピタル)」(社会に存在する人間関係の度合い)のきわめて重要な役割を考察しました。アルドリッチ博士は、「物的インフラだけでは、長期的な回復力(レジリエンス)を構築することはできない」ことを指摘し、私たちは社会的なインフラ(信頼、相互関係、長期的な関係の構築)にもっと投資するべきであると提案しました。

    中島明子教授(和洋女子大学)は、3月11日の震災後に設置された避難所や仮設住宅が、とくにプライバシーや安全性の面で、女性のニーズにいかに対処していなかったかについて説明しました。また、日本の国家防災計画の2011年12月の改正において、女性にとって必要なものが適切に反映される勧告が導入されたこと、今は、地方自治体が防災計画やマニュアルに女性の視点を取り入れることが急務であることを指摘しました。

    デビッド・スレイター博士(上智大学)は、人々がどのように震災に対処してきたかについて人類学的に説明しました。スレイター博士は、地元住民の間には、地元のニーズに関してほとんど知識のない東京(中央)から押し付けられた計画に不信感があったことを指摘しました。また、復興の目標に関して、仕事の必要性に高い優先順位を置く若い人たちと、意思決定プロセスにおいて影響力のあるコミュニティの年配の人たちの間で、世代間の激しい隔たりがあったことなどの説明もありました。

    重村淳博士(早稲田大学)は、2011年3月の危機後に福島原子力発電所で働く作業員たちのメンタルヘルスへの影響に関する研究を紹介しました。その研究から、作業員たちが多様な心的外傷後ストレス反応を示したことがわかりました。作業員たちは深刻な差別にも直面しており、これは、人々が東京電力(TEPCO)への怒りと放射能への恐怖を、目に見える敵に投影しているためであると重村博士は示唆しました。そして、社会は作業員たちが行っている困難な作業に対し、もっと感謝と支援を与えるべきであると主張しました。

    アンドリュー・デウィット教授(立教大学)は、分散型エネルギーに重点を置き、分散型エネルギーは、高齢化、経済の縮小、女性や若年労働者の就職の見通しが立たないことなど、深刻な課題に直面している日本の持続可能な成長に、またとない機会を示していると主張しました。また、福島第一原子力発電所の核危機は分散型で再生可能なエネルギーに向かって国内の動きが加速する可能性を秘めているが、次の選挙の結果次第では、この機会を逃すことになるかもしれないと示唆しました。

    曽根泰教教授(慶応大学)は、日本の今後のエネルギー政策に関する最近の国民の意見聴取のために日本政府が利用した「討論型世論調査」について説明しました。調査は、参加者が原子力発電について学べば学ぶほど、「原発ゼロ」の選択肢を支持する傾向にあることを示しました。曽根教授は、民主主義のプロセスを強化するために、対話を促進するうえでの有効なツールとして、討論型世論調査の可能性を指摘し、他の選択肢を尊重すること、および歩み寄りを進んで行う姿勢を強く促しました。