UNU-ISP イベント─自然災害が人間に及ぼす影響を探る

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  • 2012年3月8日     東京

    エレイン・エナーソン教授、ジェンダーと災害ネットワーク創設メンバー。  写真: S.Schmidt/UNU

    東日本大震災とそれにともなう津波からまもなく1年が経とうとしていますが、いまだ数千人にものぼる被災者が自分たちの生活とコミュニティを立て直そうと必死の努力を続けています。2012年2月20日から22日にかけて、国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究プロジェクトに、第一線で活躍する国際的な専門家たちが集結し、3月11日の震災が人間に及ぼした影響について、2004年のスマトラ島沖地震と津波、2005年のハリケーン・カトリーナ、2008年の中国四川大地震、2010年のハイチ地震など、過去の大きな自然災害との比較の中で考察しました。

    ワークショップ

    国連大学本部と早稲田大学で行われた2日間の集中ワークショップでは、「人間の安全保障」アプローチが大災害の理解と対応にどのように役立つかということについて検討が行われました。これは1994年の国連開発計画の報告書で提示された概念で、個人にとって最も差し迫った脅威は国家間の戦争によるものではなく、飢饉、疾病、強制退去、内戦、および自然災害といった日常的な緊急事態に起因すると考えます。

    人間の安全保障は、「恐怖からの自由」と「欠乏からの自由」を内包するものであり、人々が尊厳をもって自らの人生を生きることができるような環境を作り出します。国連大学は、国連システムのシンクタンクとしての役割を果たす中で、この概念の発展に大きく貢献しています。今回の研究プロジェクトも、自然災害という深刻さを増す地球規模の問題に焦点を合わせることにより、引き続き貢献していきます。

    政府、軍隊、市民社会などさまざまな主体が災害対応において果たすべき役割、強制退去の問題、すでに存在する脆弱性がさらに深刻化する仕組み、さまざまな公衆衛生の問題といった、「自然」災害における人的要素に対処するうえで、人間の安全保障アプローチをどのように応用できるかということについて、日本および海外から学者や専門家を招いて、検討を行いました。ワークショップでは、人間の安全保障アプローチが、とくに社会的弱者(高齢者、女性、子供、障害や慢性疾患を抱える人々など)を適切に特定し、保護するための方法として大きな可能性を有しているという結論に達しました。

    公開フォーラム

    2月22日に国連大学本部で開催されたフォーラム「3.11を踏まえて:人間の安全保障の観点から」(英語)では、こうした 研究結果を一般の参加者と共有し、議論を行いました。専門家で構成されたパネリストが、2011年の東日本大震災と津波、ならびに2004年のスマトラ島沖地震と津波や2008年の四川大地震などの最近の「巨大災害」からどのような教訓が得られるかということについて考察しました。

    長有紀枝氏(難民を助ける会、日本)は、3月11日の震災後、日本は海外での災害救援で培ったその豊富な経験を生かすことができなかったこと、またNGOは救援活動に国際基準を適用しようと努めていたことを指摘しました。

    エレイン・エナーソン氏(ジェンダーと災害ネットワーク)は、ジェンダーのレンズを通して災害を見ることによって脆弱性も露呈するが、同時に「女性と男性はそれぞれ異なるかたちで災害に対し大きな力を発揮できる」ことも明らかになると強調しました。

    関薫子氏(国連人道問題調整事務所)は、災害対応における国際社会の主要な課題は、災害対応に関する地域格差を解消しつつ、現地の知識や対処メカニズムを利用できるよう人々をエンパワーすることであると述べました。

    陳英凝氏(CERT-香港中文大学-オックスフォード大学災害・医療人道対応センター)は、2008年の四川大地震で医療救護者として活動した自らの経験に触れ、災害時に見過ごされがちな社会的弱者である慢性疾患を抱える人々への注意を促しました。

    一般参加者を交えてのディスカッションでは、人々を災害の受動的被害者として考えるのではなく、防災、災害対策、復興において積極的な役割を果たすことができるよう彼らのエンパワーメントに努めるべきであるということが強調されました。

    これらのワークショップとフォーラムは、UNU-ISPの研究プロジェクト「人間の安全保障と自然災害」(英語) の一環であり、早稲田大学国際教養学部、RMITグローバル都市研究所との共催で、国際交流基金の後援のもと開催されました。本プロジェクトの成果は、編集後、学術文献として2013年に出版される予定です。