UNU-IASセミナーでラムサール条約締結の40年を振り返る

News
  • 2012年4月20日     横浜市

    2012年4月9日、ラムサール条約前事務局長で英国共同自然保護委員会の現委員長であるピーター・ブリッジウォーター氏が、横浜の国連大学高等研究所(UNU-IAS)で、「どこもかしこも水だらけ、しかし飲める水は一滴もない(Water, Water everywhere nor any a drop to drink)─ラムサール条約締結の40年」と題した講演を行いました。

    このセミナーの狙いは、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」(通称「ラムサール条約」)を、水に関する現在の議論に関連付けることでした。ブリッジウォーター氏は、水問題を「最重要の環境問題」と考えています。気候変動と生物多様性の損失は、地球全体に対する差し迫った脅威としてよく提起される問題ですが、ブリッジウォーター氏は、「生物多様性の損失と気候変動問題の組み合わせは、人類の水安全保障、そして実質的には地球の水安全保障における緊急事態を引き起こすものである」と指摘しました。

    ブリッジウォーター氏はまず始めに、ラムサール条約の独特かつ先見性のある特徴について説明しました。主要国の主導による行動が発端となることの多い国連条約とは異なり、ラムサール条約は最初はNGO間の共同行動の後押しによって創設されました。1971年にイランの都市ラムサールで署名され、1975年に国際法として発効した同条約の原文では、湿地保護区の設立だけでなく、それら保護区の「賢明な利用」(当初は「持続可能な利用」と同義とされていた概念)にも重点が置かれていました。この概念を条約に盛り込んだことは創始者達の洞察力のたまものですが、ブリッジウォーター氏は今日の状況を鑑みて、「賢明な利用」と「持続可能な利用」とを区別し、前者を「生態系を基盤としたアプローチの適用による生態学的特徴の維持」と定義しました。また同氏は、人間と湿地との関係の重要性を強調し、「多くの湿地は人間の介入なくしては存続できない」と言明しました。しかしいまだに、ラムサール条約が鳥類保護を主目的としたものであると考えている人々もいます。

    ラムサール条約の使命は、「世界中で持続可能な開発を達成するための貢献として」湿地の保全と賢明な利用を推進し、すべての締約国に対し、国際的に重要な湿地(ラムサール条約登録湿地)を少なくとも1カ所検討し推薦するよう求めています。ブリッジウォーター氏によると、条約登録湿地の推薦においては、渡り鳥の保護に代わり文化的意義などの他の要因が重視されるようになってきています。当初は鳥類と湿地に関する条約として誕生したラムサール条約ですが、その対象範囲は広がり続けており、今では水の配分や湿地の文化的価値といった分野にまで及んでいます。ラムサール条約の拡大を「越権行為」と考える人たちは、この「鳥類のための湿地」から「人々のための水」への路線変更を歓迎していません。

    さらにブリッジウォーター氏は、このラムサール条約の越境に関する議論を、グローバル・ガバナンスの問題と関連付けました。同氏はこの国際的ランドスケープを、世界的ランドスケープになぞらえて、「国際的ランドスケープは断片化が進んだうえに、余分なものがいっぱいあり、結果として回復力が低下している」と指摘しました。多くの組織が水問題について議論し、管理機関や協定の重複が生じているほどだが、一方で現場では十分な活動が行われていません。過剰な国際統治は問題ですが、同氏は人間安全保障においてラムサール条約が果たす中心的役割について繰り返し述べ、湿地と生態系サービスとの相関関係について聴衆に対して訴えかけ、「生態系サービスに関する継続的対策を確かなものにすることは、水と安全保障の要である」と指摘しました。

    ブリッジウォーター氏は最後に、ラムサール条約の当初の目的であり、かつ実際によく実行されてきたこと、すなわち「渡り鳥の保護に関する懸念をより広範な環境保全の課題へと統合すること」に注力するべきであると提言しました。

    このセミナーについての詳細とセミナーのビデオポッドキャストは、UNU-IASのウェブサイトからご覧いただけます。

    また、ピーター・ブリッジウォーター氏はUNU-IASの客員教授として、同研究所の修士課程「環境ガバナンス生物多様性研究科」の集中選択講座「湿地管理とガバナンス」の指導にもあたっています。