UNU-EHSの研究者が日本の津波被災地を訪問

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  • 2012年2月29日     仙台

    ヤコブ・リーナー教授(国連大学欧州副学長およびドイツの国連大学環境・人間安全保障研究所(UNU-EHS)所長)と、イェルン・ビルクマン博士(UNU-EHSアカデミックオフィサー)は、2011年夏に仙台の東北大学を訪問する予定でした。この訪問は、両校の共同修士課程プログラム発足案に関連して2011年2月に東北大学のディニル・プシュパラール教授がUNU-EHSを訪問したことを受け、東北大学のヒューマンセキュリティプログラムとUNU-EHS の脆弱性評価・危機管理・適応計画部門との関係を強化するための答礼訪問となるはずでした。

    しかし3月11日に発生したマグニチュード9の大地震とそれにともなう津波のため、UNU-EHSの研究者一行は2012年2月上旬まで訪日の延期を余儀なくされました。今回、彼らは、仙台の研究仲間たちと会合を行うとともに、災害発生から10カ月以上が経過した津波被災地をじかに見て回りました。

    災害時の人間安全保障についてのシンポジウム

    現地視察の前日、東北大学は「災害とヒューマンセキュリティ:国連大学との共同シンポジウム」を開催しました。リーナー副学長は、危機管理と人間安全保障に関する調査の実施における世界的連携の重要性について語りました。一方、ビルクマン教授は、適応的な都市管理にかかわるリスク、脆弱性、開発経路に焦点を置いた発表を行い、インドネシアとスリランカの津波被災地で実施されているプロジェクトを紹介しました。

    2011年3月11日から数週間のうちに、東北大学の研究者たちは、日本の津波被災地の現場調査を直ちに開始しました。シンポジウムでは、コロンビアのオスカル・A・ゴメス氏と日本人研究者の高篠仁奈氏が、地震・津波・原発事故という三重の災害の後で「食料雑貨店が果たした役割」に焦点を置き、中小規模の商店がどのように事態に対処したかという点について評価を行いました。高篠教授の研究結果によると、とくに仙台の家族経営商店は、その規模の小ささゆえ迅速に対応し店を再開することができました。中央市場が利用不能となったこととガソリン不足が、食料雑貨店の運営を妨げる問題となりました。

    「福島の原発事故によって多くの人々が屋内退避を余儀なくされたが、2週間後には食物汚染の問題が発生した」とゴメス教授は言います。安全な食品を購入できる場所についての情報源としてマスメディアが果たした役割に関して、同教授はツイッターのメッセージについて言及し、「ツイッターの情報は主として大型スーパーに関するものばかりで、それらの店舗の食品はすぐに品切れとなった。一方で、個人商店はこのコミュニケーションツールにあまり馴染みがなかったため、商品の品質に問題がないにもかかわらず在庫を抱えていた」と述べました。

    今後の研究上の関心

    日本では今後、先進工業国における自然災害のカスケード効果と、技術システムに対する社会的信頼についてさらなる研究が進められます。「我々はまた、被災地の復興において企業が果たす役割についても考察する必要がある」とビルクマン教授は言います。

    午後のパネルセッションでは、シンポジウムの参加者たちは、インドネシアとスリランカでの回復力再構築に関する経験(自然災害対処の宗教的側面や、自然災害発生時に民主主義が果たすことのできる役割など)について議論しました。

    「災害直後には、民主主義を云々している時間はない」とリーナー教授は言います。「しかし災害が起こる前の準備段階においては、民主主義は回復力に富んだ仕組み作りのために重要な役割を果たすことができる。」そうはいうものの、ハリケーン・カトリーナなどの最近の例では、「キューバのような国がアメリカのような民主主義国よりも災害に対する準備態勢が整っていたということが明らかになっている」と、ビルクマン教授は指摘しました。

    訪日2日目、リーナー教授とビルクマン教授は、仙台周辺の津波被災地の現地視察を行いました。その様子は上のオーディオスライドショーでご覧いただけます。

    UNU-EHS は、被災地における人間安全保障と脆弱性に焦点を置いたコースプログラムと研究プロジェクトを確立するために、東北大学との間により広範でより密接なつながりを築いていきたいと考えています。