国連デー2020年に寄せる学長メッセージ:国連の意義と日本の役割

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  • 2020年10月26日     東京

    10月24日の国連デーに寄せて、デイビッド・マローン国連大学学長・国連事務次長のメッセージです。(英語から翻訳)

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    国連は75年の間、世界的な課題を包摂的に議論するのための主要な国際的な場であり続けてきました。

    しかし今から75年後に、もしくは25年後ですら、国連が存続している保証はありません。憂慮すべきことに、いくつかの大国がいっそう無謀な振る舞いを取るようになっています。

    日本が長期的に繁栄できるかどうかは、世界の継続的な安定にかかっています。現実として国際関係が安定していない今、私たち全員がリスクにさらされています。ナショナリズム、軍事的冒険主義、相反する地政学的戦略構想によって、安全保障と人々のウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること)が損なわれ、30年前の冷戦終結時よりも若い世代の未来が憂慮される事態となっています。

    日本の多くの人たちから支持されている国連の持続可能な開発目標(SDGs)は、未来への希望を与えてくれます。しかし、その中核となる「誰も置き去りにしない」という目的の実現と気候変動の抑制に向けた実効的な施策を十分に講じることなく、SDGsを単にブランディングの機会として活用している場合が非常に多いのが現状です。世界が必要としているのは、具体的な行動なのです。

    日本のこれまでの貴重な国際的取り組みを振り返るために、冷戦終結直後の時代を振り返ってみましょう。当時は、安全保障と繁栄を推進するための新たな方法が考案されていました。北欧諸国、英国、そして(私の母国)カナダをはじめとする国々が、国家ではなく個人に焦点を当てた「人間の安全保障」という考え方を生み出しました。

    日本は、故緒方貞子氏の国際的な提唱を通じてこの考え方を支持し、世界規模での経済発展は生存に必要な衣食住の充足にとどまらず人々の生活を向上させるものでなくてはならないと訴えました。緒方氏は、インドの経済学者アマルティア・セン氏と国連の人間の安全保障委員会の共同議長も務めました。

    今後日本は、独自の素晴らしい国民皆保険制度から得た知見を共有することで、世界の発展にいっそう貢献できます。この制度は、日本が世界でも有数の健康長寿国であり続ける上で大きな役割を果たしており、それは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下にあっても変わりません。経済的に豊かでない国の住民には、そのような制度の恩恵を受ける資格がないのでしょうか。そして私たちは個人として、そして集団として、そのような取り組みを促進するために何ができるでしょうか。

    これらの問いは難しいながらも心の奮起を促し、何十億人という人々が耐えている悲惨な生活について私たちに考えさせます。国レベルでの快適な暮らしと高水準の安全保障は、素晴らしいことです。しかしながら、安全保障や開発、環境の持続可能性に関する問題が世界的に拡大し、それに対し世界各国が十分に取り組んでいない状況においては、自国に限られたそうした快適さは否定的に写り、最終的には道徳的に許されない恐れがあります。

    近い将来であることを願いますが、このパンデミックから抜け出す中で、あらゆる政府は私たちがより安全でいられるための世界的解決策に改めて取り組むべきです。そして、国際的信用の高い日本は、その模範を示すことができます。

    各国の取り組みがなければ、国連はその中核となる目的と活動の原動力を失い、一般の人々からの支持を得られないようになってしまうでしょう。

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    英文のメッセージは、10月24日発行のThe Japan Timesに掲載ました。