2019年10月24日 東京
Photo: UN Photo / Manuel Elias
10月24日の国連デーに寄せてデイビッド・マローン国連大学学長・国連事務次長のメッセージです。(英語から翻訳)
国連デー(10月24日)は、国連が全人類共通の重要課題に取り組むことで、私たちのためにどのように役立っているのかを振り返る日です。
国連憲章は、「We the peoples of the United Nations(われら連合国の人民)」の名のもとに制定されていますが、国連は本来、その加盟国によって構成されている組織です。しかし同時に、国連が一般市民の支援の力に大きく頼っていることは、気候変動への取り組みからも明らかです。今年行われた国連のハイレベル会合において最も力強い演説者は、はっきりとものを言い、大きな影響力を持つ若き市民社会の一員、グレタ・トゥンベリ氏でした。
対照的に、指導者たちの演説は時間を費やす価値があるものばかりとは言えませんでした。ドイツによる気候変動対策への大規模な予算配分の表明は歓迎すべきものでしたが、多くの国が表明した気候変動への対応策は、実のところ期待を裏切るものでした。
気候変動への対応は、持続可能な開発のための2030アジェンダの17の持続可能な開発目標(SDGs)の1つに過ぎませんが、最も喫緊の課題です。なぜなら気候変動の影響はさらに加速しながら拡大しており、その負担が最貧層と最も社会的に弱い立場にある人々に過度に及んでいるからです。また気候変動の問題は、他のほとんどの持続可能な開発目標の達成を阻む障害でもあるのです。
アントニオ・グテーレス国連事務総長は、気候変動の「現在の(悪化)傾向を逆転させるために、向こう数年間が極めて重要となる」と警告しています。そして、国連加盟各国が直ちに対策をとることこそが、この課題の最も大切な点です。
地球全体の気候を脅かす温室効果ガスの自国での排出量を削減させるために、市民社会も具体的な対策を強く求めなければなりません。活気ある日本の市民社会もその声をさらに高める必要があります。私の出身国であるカナダも例外ではなく、これまで心に響く演説を数々行ってきましたが、そのすばらしい内容に見合うだけの行動はまだとれていません。
日本政府は、気候変動の影響に対する自国の脆弱性を認識しています。2015年には「気候変動の影響への適応計画」を閣議決定しています。国際的にも、日本は 国連気候変動枠組条約の京都議定書およびパリ協定を批准しており、さらに今年に入って、環境省が「アジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)」を立ち上げました。
しかし重要なのは、これに行動が伴うかどうかです。活力に満ちた新環境大臣が任命されたことによって、その期待は高まっています。なぜなら、このやりがいのある重職を果たすことが政治家としてのキャリアに大きく影響することは間違いないからです。
グテーレス国連事務総長は今年、6月に大阪で開催されたG20サミット と8月に東京で開催された第7回アフリカ開発会議(TICAD7)に出席するため、二度日本を訪れています。その両方の機会で安倍晋三首相と会談し、さまざまなテーマの中でもとくに、日本の再生可能なエネルギーへの投資 、緑の気候基金への拠出、 そしてアフリカおよび東南アジア諸国の気候変動レジリエンス強化を促進させる日本の役割といった気候変動に関する課題について話し合いました。
2018年に安倍首相は、「我々の目標は最新の科学的知見に基づかなければならない」と指摘しています。従って、国連大学を含む学術界も、関連する研究を新たに展開し、進行中の研究を監視するという重要な役割を担っています。そうした取り組みはこれまでも行われていますが、偏りのない研究とより果敢な行動のためには、政府の強力なサポートが必要です。科学は現在極めて明確に、そしてより深刻に、警告を発しています。
個人の行動で、本当に変化をもたらすことができるのでしょうか。端的に言えば、できます。
1カ月前、ニューヨークで国連が初めて開催したユース気候サミットでは、トゥンベリ氏を始めとする700名以上の若い活動家たちが、政策決定者たちと意義ある対話を行いました。そしてその前日には、数百万人もの若者が「グローバル気候スマーチ」に参加し、全世界に抗議しました。東京では若者たちが国連大学前に集まって声を上げました。
グテーレス国連事務総長が先月ニューヨークで若者気候行動サミットを開催した目的でもありましたが、グレタ・トゥンベリさんのように、各国政府に対して一貫性のある具体的な行動を取るよう求めていくことは、私たち「連合国の人民」の責務なのです。
英文のメッセージは、10月24日発行のThe Japan Timesに掲載されています。