今日の食料政策を整えて、明日の食料安全保障を実現する

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  • 2013年6月7日     東京

    後述の議論の後に撮影されたビデオ映像の中で、国際食糧政策研究所所長のシェンジェン・ファン博士と、デイビッド・マローン国連大学学長が、「議論から行動に:2025年までに飢餓根絶」というタイトルで、「2012 Global Food Policy Report (2012年世界食料政策報告書)」をテーマに対談を行っています。

    2013年5月31日金曜日、国連大学はシェンジェン・ファン博士(国際食糧政策研究所(IFPRI)所長)とデイビッド・マローン博士(国連大学学長)による討論会を開催しました。このイベントには、いくつかの国際機関の研究者、ならびに国連大学や都内他大学の大学院生らが聴衆として参加しました。

    脆弱で不十分な世界の食料供給チェーン、世界中で栄養不良に苦しむ何億人もの人々、そして国連ミレニアム開発目標の目標1(極度の貧困と飢餓の撲滅)が達成できないであろうという現在の予測を踏まえると、世界的飢餓は依然として最も緊急性の高い課題の一つだと言えます。今回のイベントの目的は、飢餓との闘いにおいて現在使用されているアプローチが抱える欠陥、ならびに飢餓の定義と考えうる解決策の変容について明らかにすることです。

    シェンジェン・ファン博士は、IFPRIの機能と、つねに変化を続け、ますます政治問題化しつつある世界の飢餓問題に対応するためにIFPRI内で進められている分散化プロセスについて洞察を提供しました。世界的飢餓は、単なる飢えの問題にとどまらず、安全保障、健康、教育、女性の地位などの領域にまで関わる概念となっています。政策決定者は、これまでのように農業の生産性向上のみを重視するのではなく、(例えば農業生産高や食料安全保障を向上させるための)教育や市場改革と結びつけた取り組みを進める必要があるとファン博士は強調しました。

    IFPRIは大幅な分散化策を進めており、現在ではスタッフの3分の1以上が第一次産業部門への投資を拡大するべく開発途上国で活動しています。この分散化プロセスによりIFPRIは、政策が人々に最大限の影響を与えられるよう、地方レベルでの協力や知識普及の確立および強化を進めることができます。重要なのは、IFPRIの研究やノウハウを地方レベルにおいて実用的かつ効率的な方法で応用することです。

    毎年発表されるIFPRIの「Global Food Policy Report(世界食料政策報告書:GFPR)」は、食料政策の成功例や欠陥を分析することによって、食料政策 をめぐる主要な問題や進展、決定を明らかにするものです。同報告書は、さらなる前進を遂げ、より良い政策を策定し、貧困に苦しむ人々の食料事情を改善するための方法について、助言を提供しています。

    2012年版 GFPR のキーポイント

    ファン博士は、2012年版GFPRの中で示されている3つのキーポイントを強調しました。

    第一に、単なる飢餓だけでなく「隠れた飢餓」という問題の存在についても世界は認識する必要があります。「隠れた飢餓」とは、貧しい人々が食料不足に苦しんでいるばかりでなく、栄養価の低い食べ物を摂取している傾向があるということを表す言葉です。

    第二に、政府や民間企業は食料の安全保障や流通の問題について公約や議論を重ねていますが、「議論から行動に」、すなわちこうした議論の内容を実行し具体的な成果を上げる必要があります。2009年に、主要8カ国首脳会議(G8) は初めて、農業部門の能力開発を通じて開発途上国の食料問題解決を支援することを約束しましたが、2025年までに飢餓を根絶するためには、よりいっそうの積極的な関与が求められます。

    第三に、各国が適切な政策を実施できるよう、その能力構築に協力しなければなりません。開発途上国の外側からではなく内側から生まれたイニシアティブが必要なのです。

    政治問題としての食料安全保障

    食料安全保障は、先進国においても開発途上国においても政治的に慎重な対応が求められる問題であり、この問題においては自給自足が重視されがちです。食料へのアクセスは基本的人権とみなされていますが、食料安全保障を実現し、これに関連する機会費用を分析する方法は他にもあるのでしょうか?

    自給自足は農産物の価格変動や飢餓を解決する最善策ではないということが、研究によりたびたび明らかになっています。むしろオープンな貿易こそが、飢餓や栄養不良解決のカギとなり得るのです。

    貿易交渉ではつねに農業部門を考慮に入れる必要があり、アジア諸国は互いに協力しなければなりません。これはASEAN+3の交渉においてすでに実現しています。しかし歴史が物語っている通り、どの国も自国民を最優先するため、長期的な合意ですら破棄される可能性があり、実際しばしば破棄されています。

    食料政策の策定において、政治的衝動と科学的証拠を調和させることは非常に困難な課題です。食料へのアクセスを確保し、食料危機の影響を最小限に抑える方法は数多くあります。さらに、輸出禁止が食料危機との闘いにおいて十分な解決策とはなり得ないということについてコンセンサスを形成する必要があります。

    2008年以来、食料安全保障への民間企業の関わり方に大きな変化が見られました。企業の社会的責任プログラムと変わりゆくビジネス慣行が、開発途上国における食料へのアクセスと栄養摂取に良い影響を与え始めており、乳幼児、子ども、母親の生活に恩恵をもたらしています。

    生産と流通

    世界では今、地球上の全人口を養うに足る十分な食料が生産されています。問題は、食料の生産能力と流通とのバランスがいまだに見出されていないことです。

    例えばアフリカでは、生産量を増やし、余剰農産物を産出し、それによって都心に暮らす人々を養うことが可能なはずです。しかしそのためには、国内における(また国境を越えた)食料の可動性を大幅に高める必要があります。

    食料の自給自足とオープンで自由な市場メカニズムのどちらを支持するべきかという問題は、しばしば議論の的となっています。政府は危機が発生した場合、公的備蓄食料を活用して、最貧困層をターゲットとして農産物価格に影響を与えなければなりません。しかしファン博士は、農産物の市場価格を操作するために公的備蓄食料を保持するべきではないと主張しました。

    現在の研究における二大テーマは、世界的飢餓と闘うためのバイオテクノロジーの利用、ならびに食料消費と栄養摂取とのかい離です。皮肉なことに、貧困層の間で栄養価の低い食品の消費量が増えつつあります。バイオテクノロジーの問題に関しては、多くのアフリカ諸国が遺伝子組み換え作物(GMO)に対する立場を変え、現在ではその普及と消費に好意的な姿勢を示しています。IFPRIの研究は、バイオテクノロジーは安全で活用可能なものであるとしています。

    残念なことに、世界的飢餓は依然として何億人もの人々を苦しめている厳しい現実です。この現実と闘うための取り組みとそれによりもたらされる長期的結果には期待が持てるものの、十分とはいえません。

    政治的な意味合いが強く複雑なこの問題、教育へのアクセス、女性の地位、健康といった社会の他の要素と間接的なかかわりを持つこの問題に取り組むためには、よりいっそうの勢いと献身が求められます。私たちはただ話し合うだけではなく、それを行動に移さなければならないのです。