2014年11月13日 東京
このビデオでは、デイビッド・マローン国連大学学長が、シンガポール国立大学法学部長であるサイモン・チェスターマン教授を迎え、アジア諸国の国際法への関わり方の過去・現在・将来について論じています。
米国と欧州諸国が国際法の構築に対して強い影響力を保ってきた一方で、アジア諸国がこれまでに国際機関で果たしてきた役割は非常に小さなものです。サイモン・チェスターマン教授は、これは米国と欧州諸国が、アジアとは異なり、意見を一つにまとめることができるためだと説明します。米国は自国の法体制と照らし合わせることで、欧州諸国は、最近ではその拡大する力と人権への働きかけなどの共同イニシアティブによって、1つのまとまった意見を表明することができます。一方アジアには東南アジア諸国連合(ASEAN)という確立された組織はあるものの、欧州連合(EU)に相当する「本格的な地域的機関」はなく、また「アジア全体の代表として発言する」ことを「望む国もありません」。
そのため、興味深いパラドックスが生じているとチェスターマン教授は指摘します。アジアは、世界人口の過半数を占め、現在世界で最も活力のある経済を持つ地域であるにもかかわらず、国際舞台での国際法の策定・構築に関しては最低限の役割しか果たしていないのです。この状況は変わるべきだろうと、同教授はみています。アジア諸国は国際的な法の支配によりもたらされる安全保障と安定から大きな恩恵を受けていますが、安全保障に関する場面(国連安全保障理事会など)にアジアの代表者が少ないという状況は、すぐには変わりそうにありません。
しかし、有望な分野が1つあります。それは世界の金融構造です。金融部門ではアジア諸国に対する国際的な評価が高まりつつあり、その結果として、米国主導の世界銀行と欧州主導の国際通貨基金(IMF)が現在管理している国際的な金融システムは、アジア新興経済大国の台頭によって変化するとみられています。
人権に関しては、アジアの人権イニシアティブは国際的な水準に比べ権限が弱いと考えられているため「批判される傾向」にあります。アジアにおける人権の発展は、国際経済における発展よりも時間がかかると思われます。しかし、それでも必ず発展していくという点を同教授は強調しています。
国際法全体と個々の国際法へのアジア諸国の今後の関わり方について、同教授は3つのシナリオをあげています。一つ目は「現状維持」。つまり、国際安全保障分野などではアジアの役割は引き続き限定されますが、経済法や人権の分野での役割は変化していくと考えられます。第2、第3のシナリオは、「現状維持」を超えた「分化」と「収束」です。「分化」の場合、ウェストファリア体制とは別の「イーストファリア」体制が起こり、人権よりも経済活動が優先されるようになります。「収束」の場合、アジア諸国が、法に関する国際的な議論に参加する機会が増えると考えられます。また、国際裁判の場でも活躍するようになり、紛争に対する非暴力的な解決策が実現されるでしょう。「収束」の方が「分化」よりも実現の可能性が高いと考えられます。