プラタープ・バーヌ・メータ博士、国際舞台の一員としてのインドの役割について語る

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  • 2014年1月21日     東京

    このビデオは以下に報告するイベントに先だって撮影されたものですが、インド外交の原点と初期の原動力、いくつかの問題の国際議論におけるインドの重要性の高まり、外交政策の立案におけるインド政府にとっての制約、今後の国際関係という意味で考えられる将来のインドの方向性について、デイビッド・マローン国連大学学長との対談というかたちでプラタープ・バーヌ・メータ博士にお話しいただきました。

    国際舞台におけるインドの役割

    12億超の人口を抱えるインドは、世界で最も人口の多い民主国家であり、国際的影響力という意味において極めて大きなポテンシャルを有しています。しかし、今日の世界問題に関わるインドの重要な役割を理解するためには、同国の対内的また対外的な意図、またそれらの意図がハイレベルな国際政治の場における決定をどのように促しているかについて、率直な考察が必要です。

    こうした問題について考察するため、国連大学は、財団法人国際文化会館からの支援を得て、ニューデリーの政策研究センターの所長を務めるプラタープ・バーヌ・メータ博士をお招きし、1月15日に東京においてデイビッド・マローン学長との公開対談を開催しました。

    他に類のない政治的アイデンティティ

    公開対談はマローン学長を進行役として、独立インドの誕生に関する話から始まりました。メータ博士によると、インド独立運動の思想は植民地主義 を背景に誕生したものですが、当初から「自由主義と民主主義」を掲げていたという点で他に類がなく、民族主義運動ではあるが「その展望するところは極めて国際主義的」であり、その思想は今なお「インドの政治的アイデンティティの礎」となっています。

    独立運動はまた、国際対立の原因となることを懸命に回避し、「対立を引き起こすのではなく、勢力間の意義ある合意の場となるべき」という考え方が一貫して重視されてきた思想文化につながっています。

    インド政府が国内においては「人権のための途方もない取り組み」を展開する一方で、そうした取り組み姿勢を自国の国際的アイデンティティに明確に反映しようとはしていないミスマッチと思える状況について、マローン学長から出された質問に対する答えとしてメータ博士は、インドが上述の原則をかたくなに守っている状況について解説しました。メータ博士は、インドにおける民主主義と人権がまだ発展途上であることを認める一方で、「たとえ脆弱な進展であるとしても人権と民主主義の文化の構築のためには何が必要かについて非常に深遠な歴史認識を有しているが故に、[インド政府は]、民主主義を実際に促進させる手段について少なからず懐疑的なのだ」と指摘しました。

    「国際フロントにおける[インド政府の] 慎重な姿勢は、人権と民主主義の文化の構築は、一部の西側諸国が時として頼る圧力や外的介入によっては容易に達成しうるものではないという考えに根ざしているのです」とメータ博士は述べました。

    外交政策の制約と国内政策

    どのような国でも外交政策に制約はつきものです。とくに、歴史や経済また地理的要因によって国際関係戦略は左右されることになります。インドの外交政策に影響を及ぼしている地域的要因は決して社会的慣習に由来するものではなく、メータ博士は、一人当たりの所得という意味ではまだまだ「19世紀経済」であるという経済的制約を指摘する一方で、「周辺国」に対する配慮と歴史に根ざした地域対立についてインド側による「妥協」の必要性を訴えました。

    「自国の地域紛争問題にリーダーシップを発揮することができなければ、国際社会においてモラル・リーダーシップを発揮することは容易ではないでしょう」とメータ博士は述べています。

    政権が交代すれば政策も変わってきます。近く予定されているインドの総選挙は、政策転換の可能性という意味で非常に注目されることになるでしょう。しかし、メータ博士としては選挙に対する期待は根本的な事柄に留めており、「インドにとって最重要な外交政策」は、成長の回復と活気に満ちた民主主義の維持を軸とする「国内政策であるべきだ」と強調しました。また、これまでまったく顧みられてこなかったインドの国家能力に対する投資の必要性、そして同国を取り巻く地域問題に対する創造的解決策を見出す責任はインド側にあるのだとの認識の強化の必要性についても強調しました。

    会場からの質問

    聴衆は135人を超え、多くの有意義な質問が寄せられました。

    インドのモラル・リーダーシップとしての役割に関して、インド自身が核兵器保有国であるという事実とモラル・リーダーを目指すことについて、どのように折り合いを付けるのかという質問が聴衆からメータ博士に出されました。

    これに対する答えとして博士は、1) 世界の核秩序は正当かつ公平で公正であるべきであり、少数の大国だけに排他的特権が認められるべきではなく、また2) インドは(中国とパキスタンという)2つの核保有国に近接する「過酷な環境に依然として置かれている」ために、最低限の信頼できる抑止力が必要であり、したがって「自国は例外とする」姿勢には今後も変化はない、というインドにおいて一般的な2つの政治的コンセンサスを指摘しました。

    グローバルステージにおいて非難を受けることがあるとしても、核兵器開発プログラムを持つ権利に関しては、インドはおそらく強硬姿勢を維持するであろうし、そうした姿勢の変化には、中国と米国による段階的核軍縮の公約が前提条件となるだろうと、メータ博士は示唆しています。とは言うものの、国内政策としては、インドは今後も自国の核兵開発拡大のペースを緩めることになるだろうと、メータ博士は述べています。

    インドが抱える喫緊の社会問題、とくに男女共同参画と女性に対する暴力に関して複数の聴衆から質問が寄せられました。

    「世界政治で影響力を強めたいと望むのであれば、自国でどのような取り組みを行っているかが極めて重要になるはずです」とメータ博士は述べ、インドが抱えるいくつかの深刻な社会問題、とくにジェンダー問題は、国際社会にとって必ずしも耳新しいものではなく、むしろ、世界におけるインドの地位を決めることになるのは、そうした問題の存在そのものではなく、インドがどのような対策を講じるかなのだとメータ博士は述べました。

    インド国内におけるメディアの強い非難と市民社会からの圧力は、民主的対策を促す強い力となっていますが、ジェンダー問題に関しては「率直で開かれた対話を世界と持つべきであり」なぜなら私たちは「私たちが得ることができるあらゆる支援を必要としている」からだとメータ博士は述べました。しかしながら、この問題に対するフォローアップの質問に答えてメータ博士は、女性に高等教育への門戸を開き男性の教育水準に追いつこうとしているインド政府による社会改革について言及し、こうした流れが労働力に反映されるにつれて女性に対する暴力問題を克服するための重要な力となる可能性があると、メータ博士は慎重ながらも楽観的な見方を示しました。

    次に環境問題に関して、気候変動対応に関するインド政府の政策についてメータ博士の意見が求められました。これに対して博士はまず、インド政府の気候変動問題に対する姿勢がいかに「対立的」なものであるかを指摘しました。インドの国際社会に対する公式な姿勢はかなり保守的かつ強硬であり、とりわけ中国や米国などの先進国の責任を強調するとともに、インドに国際的公約を求める以前にまず先進国が対策を講じる必要があると主張しています。

    しかし、インド政府の国内向け気候対策は国際社会に対する姿勢と比べてはるかに建設的だと、メータ博士は強調しています。しかしながらこの問題のまとめとして博士は、「国際的な[気候変動]交渉に関してインドは従来ほど自己防衛的な姿勢をとる必要はないと思われ、米国と中国の今後の出方を見守っている」と述べました。

    「残念なのは、インドが米国や中国に対応を促すのではなく、強硬姿勢というある意味後ろ向きの外交を行っていることです」と述べ、国際協定の締結はインドにとって有利になる可能性が高いと指摘しています。とはいえ、インドの排出量は先進国に比べて少なく、インドが不利になるような国際協定は思いつかないとも、博士は述べました。

    日印関係

    公開対談の締めくくりとしてマローン学長は、インドと日本の関係またその将来の見通しについてメータ博士の意見を求めました。

    これに対してメータ博士は、インドは日本を「非常に信頼」しており、とくにインフラという点でインドの開発に対する日本の多大な貢献を高く評価しており、インドの成長に伴いこうした協力関係は今後も重要になると述べました。しかし、海上交通の自由や航空の自由また地政学的対立の回避といったインドと日本双方にとって基本的な問題に関する「中国の脅威に対する警戒心の共有」に促された現在の新たな関係の展開について指摘しました。

    「こうした問題が共通の基盤となり…日本は気前の良い経済パートナーと見なされるだけではなくなりはじめています。安全保障と経済に関してアジアのあるべき姿を考えるうえで、日印間の対話は極めて重要になるでしょう。」

    イベントの最後には簡単なレセプションパーティーが開かれ、飲食をともにしながらマローン学長とメータ博士とさらに話をする機会が設けられました。