野口英世アフリカ賞受賞者がグローバルヘルスの課題について語る

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  • 2013年6月14日     東京

    後述の記念講演会の後に撮影されたビデオ映像の中で、第2回野口英世アフリカ賞受賞者のピーター・ピオット博士とアレックス・ゴドウィン・コウティーノ博士が、野口英世博士の業績、それぞれの博士の研究経験、グローバルヘルスの将来の展望について、デイビッド・マローン国連大学学長と対談を行っています。

    2013年6月4日、第2回野口英世アフリカ賞受賞者――ロンドン大学衛生・熱帯医学大学院(イギリス)学長で教授のピーター・ピオット博士と、マケレレ大学感染症研究所(ウガンダ)所長のアレックス・ゴドウィン・コウティーノ博士――が、東京の国連大学で記念講演を行いました。

    黒川清博士が開会の辞として、2人の受賞者に対し、アフリカでの疾病との闘いにおいて野口博士の自己犠牲的な精神をもっともよく体現している科学者に選ばれたことに、お祝いの言葉を述べました。

    ピオット博士の講演

    ピオット博士はまず、高速の移動手段、電気通信、インターネットという利器が登場する前の時代に、最初の真の世界的科学者の1人であった野口博士への称賛の言葉を述べました。今日の科学者が直面している課題と恩恵は、グローバルで学際的な環境での研究がもたらしているものであり、そうした環境は過去数十年間に保健医療に大きな進展をもたらし、多くの国でかつてないほど人々の寿命が延びました。しかし、ピオット博士は、アフリカを含む多くの地域で進展が遅れており、そうした地域では、HIV/エイズなどの伝染病を効果的に抑制するまでの道のりがまだ長いことを強調しています。

    同博士は講演で、グローバルヘルスという包括的なテーマを通じて、伝染病だけでなく、国際社会が直面している脳卒中や糖尿病、肥満といった非伝染性の疾病の問題についても、注意を向けました。

    別の例の中で、ピオット博士は喫煙が健康にもたらす憂慮すべき影響と、それに対して政策当局が十分な関心を寄せていない点を指摘しました。博士はアジア――とくに中国――などの地域での男性喫煙者の多さを示した世界地図を用いて、説明を行いました。タバコ会社がインドなど転換期にある国のほか、アフリカの数カ国を開拓の余地のある市場とみなしているため、ヨーロッパと北アメリカからそうした地域に積極的なマーケティングキャンペーンをシフトしていることを明らかにしました。

    ピオット博士は話をアフリカに戻し、経済成長に寄与しうる若年労働力について考えた場合、人口増加を肯定的にとらえることができると強調しています。しかし、公衆衛生サービスなどの社会インフラの改善が、人口増加に追いついていないため、都市の過密によって生じる問題に適切に対処できないことも指摘しています。

    博士は講演の締めくくりに、科学者にとって「変わるのは研究だけではありません。研究方法も変わるでしょう」と述べました。民間部門と公共部門の間の、さらには社会科学と自然科学の間の革新的で新しいパートナーシップが、ミレニアム開発目標を達成し、グローバルヘルスへの新たな課題に取り組むために不可欠です。

    コウティーノ博士の講演

    アレックス・ゴドウィン・コウティーノ博士は講演の冒頭で、日本の人々に感謝の言葉を述べ、アフリカ諸国で、そしてHIV陽性の人々に対して行っているように、日本でも発言して働きかけを行うことを約束しました。博士の講演の中心は、どのようにして「研究室で行われている研究を実世界で応用する」のかを、聴衆に理解してもらうことでした。サハラ以南のアフリカはほとんどが農村であるため、重要な科学的・技術的進歩を利用して農村地域で暮らす人々に健康をもたらすことがぜひとも必要です。

    コウティーノ博士はHIV/エイズの流行に焦点を当て、2000年代になるまで、アフリカでは検査と治療を受けられる人がほとんどいなかったことを指摘しました。HIV/エイズの現実は悲惨です。家庭が崩壊し、子どもが親の看病をし、子ども夫婦がすでに死亡しているため、HIV陽性の祖母が孫の世話をし、子どもは孤児になります。こうした状況を受けて、とくに国連の後押しで、多くの基金やイニシアティブがHIV/エイズの問題と闘うために設立されました。

    コウティーノ博士はエイズ支援機構(TASO)の事務局長を務めた際、コミュニティベースの一連のプログラムを開始して、農村社会ですでに実施されているプログラムを結集しました。博士が提唱しているのは、理想的な保健医療制度が確立されるのを待つのではなく、手をこまねいて今以上に人命を喪失するよりも、継続的に支援を拡大し、可能な限り最高の質のサービスを提供することです。

    この方法が成功しているのは、多くの人命が救われていることと、HIV/エイズの検査と治療に対する態度の変化を見れば明らかです。コウティーノ博士は技術と知識を都市にも村にも確実に行き渡らせるために、この勢いを持続させる必要性があると力説しています。

    科学によって人は力を得られるという信念が、コウティーノ博士の研究を支える原動力になっています。自己のHIVの状況について知ったり、正確で効果的な診断を受けたりすることで、人は自らの命について十分な情報を得たうえで決断を下す力を得るのです。

    コメントと閉会の辞

    デイビッド・マローン国連大学学長は、示唆に富む講演について両博士に謝意を述べました。そうした講演で痛感させられたのは、新たにハイテクのソリューションを開発するのではなく、弱者にローコストのソリューションを提供することに焦点を当てる必要性でした。その点について詳しく説明するために、コウティーノ博士は、新しいアイデアとグローバルヘルスのイノベーションを推し進めるためのマイクロファイナンス制度の潜在的な実行可能性を強調しました。

    聴衆からは、包皮切除による健康への効果をめぐる賛否両論の議論から、ポストミレニアム開発目標の策定においてグローバルヘルスから重点が移る可能性まで、幅広いトピックに関して質疑がなされました。

    2人の受賞者とパネリストは、一部の議論がこの分野では手の届かないものであり、科学者にできるのは、利用可能なツールを用いて、できるだけ多くの人命を救うために規模を拡大することだけです、と答えました。ミレニアム開発目標の今後という点では、保健医療は引き続き懸案事項でなければなりませんが、保健医療の最大の改善は、ワクチンや薬によってではなく、住居、安全な水、普遍的教育の改善といった、より広範な開発課題を通じてもたらされます。

    春日文子日本学術会議副会長は閉会の辞の中で、2人の受賞者に講演について感謝の言葉を述べ、さらなる行動の必要性について言及しました。春日副会長は、グローバルな課題が、従来からあるものも新しいものも、いっそうの進展と適切な援助により克服できるという希望とインスピレーションを、ピオット博士とコウティーノ博士が与えてくれたことを称えました。