「奴隷制と人身売買に対抗する金融の構想」Q&A

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  • 2019年10月25日

    国連大学政策研究センターが事務局を務める金融セクター委員会は、最終報告書「Unlocking Potential: A Blueprint for Mobilizing Finance Against Slavery and Trafficking(潜在的可能性を解き放つ:奴隷制と人身売買に対抗する金融の構想)」を公表しました。報告書では、現代の奴隷制と人身売買に対する金融セクターの取り組みを強化するための5つの目標と、その達成に向けた行動計画が提示されています。

    しかし、現代の奴隷制と人身売買に対抗するのに、なぜ金融なのか?こうした問題の根絶に向けた金融業界の役割とはどういったものか?解説とともにお答えします。

     

    現代の奴隷制はなぜ金融業界の問題なのか?

    現代の奴隷制と人身売買の被害者は4,030万人と推定され、これは人口185人に1人の割合に当たります。こうした人々は世界のあらゆる国に存在しており、衣料品業界から農業、採取業から娯楽産業に至るまで、世界中の金融セクターが銀行取引、投資、その他の金融サービスの提供を行うさまざまな業界内に存在しています。そして人々の労働を搾取することで、年間1,500億米ドルが生み出されています。

    現代の奴隷制と人身売買は悲劇的な「市場の失敗」です。労働力の売買が止まないのは、その社会的および経済的コストが市場価格に反映されないためです。最近の研究によると、現代の奴隷制が英国の公財政にもたらすコストは1事案当たり328,720英ポンド以上*です。また、奴隷制と人身売買が、企業とコミュニティレベルの双方で生産性を低下させることを示す証拠も増えています。

    現代の奴隷制と人身売買を禁止する法律を施行できていないことは私たち全体の失敗であり、強制労働を利用する企業が不当な経済的利益を得ていることを意味します。これらの企業では、労働コストと資本コストの両方が、法的に本来あるべき水準を下回っています。これらの企業の行為は市場競争を妨げているのです。

    現代の奴隷制と人身売買の被害者が持つ経済的および社会的潜在力が解き放たれるまで、私たち全員が損をすることになります。そのためには、現代の奴隷制と人身売買が人々にもたらすリスクを金融業界が確実に認識し、対処する必要があります。

     

    現代の奴隷制を根絶するために金融業界ができることは何か?

    国連の持続可能な開発目標のターゲット8.7は、現代の奴隷制と人身売買を2030年までに根絶するための取り組みを求めています。これは被害者の数を1日当たり10,000人削減することに相当します。これまでどおりのやり方ではこれを達成することは不可能です。金融業界が単独で現代の奴隷制と人身売買を根絶することはできません。しかし同時に、金融の積極的な関与がなければ、現代の奴隷制をなくせません。金融をより持続可能なものにするため、現代の奴隷制の根絶に向けた動きは、31兆米ドル規模あるESG(環境・社会・ガバナンス)市場において中心となるべきです。

    金融は世界経済全体を動かすことのできる「てこ」です。金融セクターはグローバルビジネスに対して圧倒的な影響力を持っており、現代の奴隷制と人身売買の根絶を促すビジネス手法に投資し、そうした手法を後押しすることができます。金融セクターの企業や組織(銀行、機関投資家、保険会社、ヘッジファンド、開発金融機関、送金ビジネス、またはフィンテック)が、単独で奴隷制を根絶することはできません。しかし、私たち全員に果たすべき役割があります。現代の奴隷制の根絶には集団的アクションが必要なのです。

    *Sasha Reed, Stephen Roe, James Grimshaw and Rhys Oliver, The economic and social costs of modern slavery, Research Report 100 (London, UK Home Office, 2018).

     

    集団的アクションの構想とは?

    報告書「潜在的可能性を解き放つ:現代の奴隷制と人身売買に対抗する金融の構想」では、集団的アクションの枠組みを提供しています。金融セクターの異なる当事者が、それぞれの方法、そして、それぞれのスピードでこれを実施することができます。これらの集団的アクションによって、企業行動と企業の資本コストの関連性が徐々に強まるでしょう。本報告書では以下の5つの目標を設定しています。

    1. 現代の奴隷制と人身売買に対抗するための法律の遵守
    2. 現代の奴隷制と人身売買のリスクに関する知識の獲得および当該リスクの明示
    3. 現代の奴隷制と人身売買のリスクを軽減し対処するための、レバレッジの創造的活用
    4. 現代の奴隷制と人身売買がもたらす損害の効果的な是正措置の提供および実施
    5. 防止のためのイノベーションに対する投資

     

    奴隷制と人身売買を防止するための行動とは?

    5つの目標には30の行動計画が付随しています。その半分が目標達成のために今すぐ行うべき行動で、残り半分がこれから着手すべき行動です。これらの行動には以下が含まれます。

    • マネー・ローンダリング防止制度の利用を強化する(ビッグデータの分析を含む)
    • 効果的なデューデリジェンス(適正評価手続き)の取決めについて集団的に学習する
    • 世界経済の価値の45%を占める公共資産が現代の奴隷制の維持に利用されないようにするため、公的な多国間報告制度および除外データベースを構築する
    • 現代の奴隷制に関する共通のリスク情報開示の枠組みの策定に取り組む
    • 資本コストと現代の奴隷制および人身売買のリスクを整合させるため、現代の奴隷制リスクを企業のESG格付けに組み込む
    • 建設業など高リスクの業界において、金融セクターの企業や組織が協調してレバレッジに取り組む
    • 金融決済および情報プラットフォーム、ならびに証券および商品取引所の役割について検討する
    • 貨物海上保険や取締役・雇用主の賠償責任保険等の分野において保険補償範囲からの除外を策定する
    • 現代の奴隷制がもたらす損害を是正するため、金融調査との協力を強化する
    • 対象を絞った制裁の破壊力を強めるため、制裁の実施に協力する
    • レバレッジを利用して、他のさまざまなビジネスが効果的な是正の取り決めを事前に設けるよう促す
    • ESGに基づく業績契約またはSDGsに、現代の奴隷制の防止を組み込む
    • 社会的立場の弱い集団のための社会的金融およびデジタル金融へのアクセスを促進する。17億の人々および2億の零細・中小企業が、金融サービスへの十分なアクセスを有していないと推定される

     

    実施ツールキットとはどういったものか?

    本報告書に含まれている実施ツールキットは、以下で構成されています。

     

    リスクマッピング

    金融セクターの企業や組織が、自社の業務または取引関係において現代の奴隷制と人身売買のリスクを識別するのに役立ちます。

     

    関連性診断ツール

    現代の奴隷制と人身売買への関連性およびどのような対応が望まれるかを理解するための対話型自己診断ツールです。

     

    金融調査ツール

    金融セクター委員会との協力の下欧州安全保障協力機構(OSCE)により作成された、現代の奴隷制と人身売買に関する金融調査を実施するにあたっての効率的な実践方法に関する指針です。

     

    レバレッジ類型マトリクス

    金融セクターにおける6種類のレバレッジについての説明です。

     

    被害者包摂イニシアチブ

    現代の奴隷制と人身売買の被害者が、基本的な金融商品およびサービスへの安全かつ信頼できるアクセスを得られるよう支援するイニシアチブです。2019年9月にオーストリア、カナダ、英国および米国で展開され、さらなる拡大が予想されています。

     

    社会的弱者集団イニシアチブ

    極めて社会的立場の弱い集団による金融商品およびサービスへのアクセスを強化することにより、現代の奴隷制と人身売買を防止します。2019年後半に本格的に始動します。

     

    本報告書の活用方法

    1. 「潜在的可能性を解き放つ:奴隷制と人身売買に対抗する金融の構想」をfastinitiative.orgからダウンロードし閲覧する。
    2. 実施ツールキットを利用して、貴組織が現代の奴隷制と人身売買の根絶をどのように支援できるのか確かめる。私たち全員に果たすべき役割があります。
    3. 被害者と連携し、共に学ぶ。

    さらに詳しく知りたい場合は、info@fastinitiative.org宛に連絡、またはTwitterをフォロー(@FinComSlavery)してください。