ホセ・アルバレス博士、国際機関と「法の支配」について語る

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  • 2013年9月19日     東京

    José Enrique Alvarez

    Photo C. Christophersen/UNU

    「どうしてこんなにも多くの司法機関や国際機関が存在するのでしょうか? それは、西洋諸国がそうした状態を望んでいるからであって、それらの国々にはそうした状況を維持する力と資金があるのです」

    2013年9月10日に東京で国連大学主催により、法の支配を前進させる上での国際機関の役割について、著名な国際法学者ホセ・アルバレス教授と国連大学のデイビッド・マローン学長によるディスカッションが開催されました。

    ディスカッションではまず国際法と国際機関の関係について取り上げられ、アルバレス教授は、国際機関が現在果たしている役割について述べ、国際ルールは数多く存在するにもかかわらず概して正式な執行機関が欠落しており、同様に、法の支配を国際機関に適用するための正式な執行メカニズムもまたほとんど存在しない、と指摘しました。

    次に国際機関の慣行が法律にどのような影響を及ぼしているか、またその過程に政治がどのように関わっているかに話が移りました。アルバレス教授は、国際機関を、法の支配について「解釈し」、法の支配を「適用する」裁判官になぞらえながらも、国際機関の影響力をもってすれば、国際機関自らが発布する条約や基準を、ニーズや利害の変化に応じて進化するダイナミックな道具に変えていくことは可能だと力説していました。そうであるから、「国際機関は、人々、国家、多国籍企業に対してまた個人にとってさえ、法律という形で大きな影響を及ぼします。条約はしばしば各国に無視されており、条約よりもむしろ国際機関のソフト・ローがハード・ローになる場合が多いのです」と、アルバレス教授は述べています。

    国家間における法の支配と国家内における法の支配についてみた場合、国連を含めた多くの国際機関は国家内の「法の支配」を促進しようとしていると、アルバレス教授は指摘しています。このため、国内における法の支配向上を目的として多くの「グッドガバナンス」活動が実施されていますが、そうした国際機関自身が法の支配の厳守に関して問題に直面しています。何故なら、国際機関から各国に伝えられる法律は、国家間また国際機関間の法律とは極めて異なった機能を果たすものであるからです。

    また説明責任の問題に関して、国連は、マイナーな法律違反であれば自らの法的責任を認める傾向があるものの、様々な特権や免責が国際機関に認められていることから、加盟国側の責任が問われることになり易いのではないか、とアルバレス教授は指摘しています。

    また、国際法はもはや「国家また国家のみによって」決定され各国が独自に解釈するルールによって構成されるものではなくなっている、とアルバレス教授は強調しています。この点でもまた、従来の国家主導の国際法という考え方を改める必要があるのですが、国際法を形成する上で新たな勢力となっているNGOにとって、説明責任あるいは透明性という意味での正式なメカニズムはほとんど存在しないとアルバレス教授は指摘しています。

    ディスカッションの最後には、国際法策定における民主的妥当性の問題が取り上げられました。ほぼいかなる基準に則っても民主的であるところの国際的討論の場において法律が形成されていることは益々明らかであり、アルバレス教授は、そうした国際機関の時代にもかかわらず過去「民主主義の赤字」が深刻化してきたと受けとめられていることについて考察し、各国は、条約の交渉や批准という作業に伴う骨の折れる(またより民主的な)プロセスをまさに迂回しようとして、国連安全保障理事会や国際通貨基金などの国際機関に問題を持ち込もうとしているのではないか、と指摘していました。

    1時間の講演では140人を超える聴衆に質疑の機会が設けられ、講演後はビュッフェ形式の会食で学生や学者その他のゲストが講演者と直接交流しました。

    イベントの詳細については、こちらのPDF(英語)をダウンロードしてご覧ください。