国際政策の整合性に関する5つの問い

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  • 2020年5月18日     ボン

    Photo: UN Photo/Mark Garten

    近年の国際政策プロセスを見ると、政府が異なるアジェンダに同時に取り組んでいることに気づくかもしれません。これらは全て、世界をよりよい場所にするという同じ目的のためにつくられ、例えば、17の持続可能な開発目標(SDGs)は、飢餓ゼロからジェンダー平等、さらには海の豊かさを守ることまで、幅広くさまざまな課題を取り扱っています。パリ協定の目標には、地球温暖化に歯止めをかけ、気候変動の影響を受ける開発途上国に資金援助を行うことが含まれています。また、仙台防災枠組では、環境災害によるリスクを削減するための7つのターゲットが合意され、ニュー・アーバン・アジェンダでは、都市のレジリエンス(回復力)と持続可能な開発を向上するための一連の公約が盛り込まれています。これらの目標はいずれも、容易には達成できません。では、政府が全てを同時に達成しようとした場合、どうなるのでしょうか。国連大学の専門家マール・モウレシモーネ・サンドホルツ教授が解説します。

    1. 「ポスト2015アジェンダ」とは何か、なぜ複数のアジェンダがあるのか
    2015年は国際協力の歴史上、特筆すべき年となりました。地球と国際社会にとって喫緊の課題に対し協力して取り組もうとする機運が、各国首脳間で比較的高まっていたことを、さまざまな学識者と実務者のコミュニティがうまく活用したからです。その結果、いくつかの重要な国際協定や宣言が成立しました。こうした取り組みから生まれた文書として、仙台防災枠組、持続可能な開発のための2030アジェンダ、パリ協定、そしてニュー・アーバン・アジェンダの4つが挙げられます。これらはいずれも、公正で包摂的、かつ人間と地球にとって安全な、世界規模の持続可能な開発という共有のビジョンで結びついています。さらに、現在のメガトレンド(都市化や気候変動など)によって加速する、予測可能な今後の変化及び予測不可能な変化も考慮に入れています。しかし、それぞれの文書は独自のテーマ別アプローチを採用しています。

    2. 政策の整合性について考える必要があるのはなぜか
    これらのアジェンダはいずれも、持続可能な未来を目指すものではあるものの、目標や指標、報告メカニズム、達成期限がそれぞれ異なるため、各国はこれらを並行して実施することになり、重複や非効率につながり、見落としやトレードオフの関係(例えばあるアジェンダを支援する活動が別のアジェンダの目標達成を妨げるなど)を生むおそれがあります。ポスト2015アジェンダ関連の政策を整合させれば、並行的な実施という弱点を減らすことになり、公正で包摂的、かつ人間と地球にとって安全な条件を確保できる可能性が高まります。また、整合性のある行動は相乗効果を生み、目標で掲げられている行動にさらなる効果が生まれると示すエビデンスもあります。

    防災を例に取ると、仙台防災枠組で重要な主題とされている一方、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」でも、災害のリスクと影響の削減は目標の一つとされています。防災に関して、SDGsの目標11では貧困・弱者層の災害からの保護を求めていますが、これは同時に、環境面において持続可能でレジリエンスのある都市開発を目指すニュー・アーバン・アジェンダの重要要素にもなっています。そのため、防災プロジェクトの綿密な計画を練れば、3つのアジェンダの達成に寄与すると同時に、パリ協定に沿うかたちで気候変動の影響に取り組むことにもなります。

    3. ポスト2015アジェンダを実施するのは誰か
    アジェンダに合意したのは各国の政府であり、合意を履行する責任も政府にあります。パリ協定のように、各国がその資源と能力に基づき、独自の公約を掲げているケースもあります。またSDGsのように、各国が文書で策定された目標全体の達成に取り組む場合もあります。
    中には、グローバルな取り組みの調整を手助けし、必要に応じて技術援助を促進するとともに、報告書を収集し、情報を管理するための記録係の役割を担う国際機関も存在します。例えば国連防災機関(UNDRR)は、仙台防災枠組に関してグローバルな責任(管理者として)を担っているほか、パリ協定については、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)がその役割を果たしています。すべての国において、グローバル・プラットフォームと連携する国内の窓口となる担当者が指定され、国内におけるアジェンダの実施を担っています。そして、国内の異なる行政レベル(例えば都道府県や市町村)で政策やプログラム、プロジェクトの実施を調整する必要がある一方で、アジェンダの重点事項の違いから、それぞれ異なる実施機関が異なるアジェンダに対して取り組んでいることが多く、機関同士の連携の仕組みがあるとは限りません。

    4. アジェンダの実施にどのような影響があるか
    これらアジェンダに関する指揮命令系統は国際的にも、国内の各行政レベルでも、縦割り的な性質が強く、他部門との意思疎通がしにくくなっています。それに加え各国独自の条件が重なって、各アジェンダの担当機関の間でも、異なる行政レベルの間でも、整合性を確保することが困難となりかねず、これによって非効率が生じるばかりか、アジェンダの全体的目標の達成が損なわれるおそれもあります。
    例えば、ある市が恵まれない人々を対象に、医療機関へのアクセスを改善できる住宅開発事業を立ち上げる場合、この取り組みはSDGsとニュー・アーバン・アジェンダのいくつかの目標の達成に同時に資することとなります。しかし、これらの目標を担当する実施機関はそれぞれ異なるため、一方の機関は他方の機関に活用可能な具体的資金があることに気づかず、その活用機会が失われてしまう可能性があります。さらに、新規住宅開発が恵まれない人々にとって助けとなる一方で、住宅建設によって市内の他区域の洪水リスクが高まるなど、ある分野での改善が他の分野でのリスクを生み出す結果にもなりかねません。

    5. アジェンダの実施をいかに促進できるか
    長期的には、政策の整合性を確保べきです。そのためには、政府機関の効率的な作業や他部門との連携を困難にしている障害を取り除くことなどが実際問題として挙げられます。フィリピンでは、ポスト2015アジェンダの各文書に関する進捗状況のモニタリングと報告を行う作業が複雑で膨大だったため、地方自治体はこの作業に忙殺され、アジェンダの実施にほとんど労力をかけられないという状況に陥りました。これを認識した政府は、施策に明確な優先順位を付けたうえで、地方自治体が用いる各省庁の異なるリスク評価手法と計画策定ガイドラインを統一しました。このような縦割り的プロセスを調整することにより、地方自治体はすべてのアジェンダに共通する部門横断的プログラムをより効果的に実施することができました。
    メキシコでは、関係機関間で建築手順を調整したことにより、都市開発プロセスの管理と透明性が改善されました。それと同時に、建築基準法のより厳格な執行によって、例えば地震や洪水の際に住民に被害が及ぶリスクも削減されました。この2つの事例は、政策の整合に向けて数多く行われている有望な取り組みの、ごく一部にすぎません。整合性を構築するのは、短期的には相応の努力と障害の克服が必要になるとしても、長期的には大きな利益が生まれます。どこから整合性の確立に着手するかは国によって異なるかもしれませんが、変革に向けた出発点として簡単に取り組める課題は存在します。
    政策の整合性と矛盾、および、それぞれの費用と便益に関する研究プロジェクトの結果は、こちらからご覧いただけます。本研究は、メキシコとフィリピンをケーススタディとして、ポスト2015アジェンダの実施に関連する政策の整合性に対する理解をさらに深めるため、国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)、ドイツ国際協力公社およびルートヴィヒ・マクシミリアン大学によって実施されました。