2018年11月12日 東京
国連大学と国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(OUIK)は11月11日(日)、Farmer’s Market @UNUと共に、トークイベント「Tea and Garden for Peace〜都市と自然、人と人をつなぐ日本庭園とお茶の可能性〜」を開催しました。
国連大学の研究を通じて、食や農漁業について学びを深めるファーマーズマーケットとの共催イベント。第1回目の「里山」、第2回目の「里海」に続き、第3回目は「日本庭園とお茶」をテーマに、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(OUIK)の永井三岐子事務局長がモデレーターを、フアン・パストール・イヴァールス研究員がスピーカーを務めました。
まず、自身も金沢市出身という永井事務局長が、OUIKの設立背景や活動について説明しました。
「石川県は、日本において国連大学が東京(本部)以外に唯一設けている研究拠点です。国内で初めて世界農業遺産に認定された『能登の里山里海』をはじめ、ユネスコエコパークや、ラムサール条約登録湿地などがあり、野生絶滅した朱鷺が佐渡から訪れることもあります」と、今でも自然や文化資源が豊富に残っている地元の様子を紹介しました。また、OUIKが地域に根ざした研究を柱とし、コミュニティと一体となって生物文化多様性の保全に取り組んでいると説明し、これまでの研究事例をまとめた『生物文化多様性シリーズ』(「出版物のご紹介」からご覧いただけます)についても紹介しました。
続いて、スペイン郊外の自然豊かなデニア市出身のフアン研究員が、金沢の生物文化多様性を保全・継承するために取り組んでいる庭園管理の研究について説明しました。もともと建築を専門としていたフアン研究員は、京都に留学した際、自然との調和を重んじる日本庭園に出会い、ヨーロッパとは異なる景観美や自然美に魅了されて研究を始めました。金沢の日本庭園について、フアン研究員は「伝統的な造園技術を使った美しい芸術作品であると共に、たくさんの生き物の住み家となっている生態系にとって欠かせない環境です」と説明しました。その上で、所有者の高齢化などで庭園の維持が難しくなっている現状に触れ、「こうした問題を解決するために、アーバンエコツーリズムに着目して研究しています」と述べて、自身が取り組む庭園清掃ワークショップについて説明しました。
庭園の所有者や行政と協力して企画・実施しているワークショップでは、清掃活動後にお茶会を開催し、参加者同士が交流を深めながら金沢市の生物多様性や庭園保全の意義について学ぶ場を設けています。フアン研究員は「日本庭園が提供する生物多様性や、伝統的・文化的価値などを保全するには、研究者だけで研究するのではなく、地元の学生、市民、行政を巻き込んでいく仕組みが必要です」と述べ、地域コミュニティが楽しみながら日本庭園の機能について学び、保全に取り組む事例としてワークショップを紹介しました。また、ワークショップの参加者などを対象にしたアンケートからは、生物多様性に対する市民の意識向上や、幅広い世代と多様なセクターが参画した課題解決といったプラスの効果が認められ、「ワークショップは持続可能な開発目標(SDGs)の目標17『パートナーシップで目標を達成しよう』にも貢献できる活動です」と強調しました。
その後、スペイン産ハーブティ(レモンバーベナ)とメンブリージョ(セイヨウカリンのジャムのような餡)が入ったもなかを楽しみながら質疑応答が行われ、最後に永井事務局長が「この研究活動は、観光客が観光地を巡るだけでなく、日本庭園でお茶を楽しみながら自然環境や生物多様性の保全に、能動的に関わる新たなエコツーリズムのモデルになると考えています」と述べ、機会があればぜひ金沢を訪れ参加してほしいと呼びかけました。
参加者からは「幅広い世代、とくに若年層を課題解決に巻き込むモデルとして参考になりました」、「地域課題の解決に取り組むことが、生物多様性など地球規模の課題解決にもつながると学びました」などの声が寄せられました。