持続可能な成長の測定:専門家による包括的富指標の検討

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  • 2013年1月24日     東京

    Prof. Partha Dasguputa, University of Cambridge. Photo: Stephan Schmidt/UNU

    ケンブリッジ大学経済学名誉教授パーサ・ダスグプタ氏。 Photo: Stephan Schmidt/UNU

    2013年1月7日(月)、国連大学本部(渋谷区)において、「持続可能な社会の構築に向けて~『包括的富指標』とは~」と題したイベントが開催されました。包括的富指標(IWI)は、昨年初めて発表された「Inclusive Wealth Report 2012( IWR: 包括的豊かさに関する報告書)」の土台となる指標で、各国の長期的な持続可能性を測定する新たなアプローチとして世界的に注目されています。

    コンラッド・オスターヴァルダー国連大学学長は開会の挨拶のなかで、IWIは国富の真の状態と成長の持続可能性に新たな視点を与えるものであると述べました。さらに、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けて、生態系サービスの価値を国富と関連付けて考慮する自然資本会計の枠組みが必要であるとし、国家機関や国際機関は経済発展を測定するためにIWIの使用を進めるべきであると提言しました。

    環境省総合環境政策局環境計画課課長の岡谷重雄氏は、同報告書の発表に向けて国連大学が大きく貢献したことを評価しました。岡谷氏は、IWIによって経済成長の測定に定性的な要素が加わるとともにストックベース評価への移行が進んだことの重要性を強調しました。また、気候変動や生物多様性損失を軽減するための次世代への配慮として、商業的に取引できないさまざまな環境資本を含む自然資本を測定することが重要であると主張しました。

    ケンブリッジ大学経済学名誉教授のパーサ・ダスグプタ氏は、「サステイナビリティと国富の概念」と題したプレゼンテーションのなかで、持続可能性と国富がIWIの基本要素であると述べました。ダスグプタ氏は、IWIは人類の富を評価し、その富が将来世代によって維持されることを目指した指標であり、国民総生産(GDP)をはじめとする従来の指標の欠点を補うものであるということを強調しました。

    ダスグプタ氏は、経済評価を政策上の結果だけでなく、持続可能性分析やトレードオフ、潜在価格とも関連付けて考えるべきだと主張しました。また、生活の質の決定要因である国の生産的基盤は、人工資本(道路や建築物など)、人的資本(人口、教育、健康など)、自然資本(資源ストック)という3つの資本資産と、イネーブリング資産(enabling assets:制度や知識など)により構成されると説明しました。

    国連大学地球環境変動の人間・社会的側面に関する国際研究計画(UNU-IHDP)事務局長のアナンサ・ドゥライアパ氏は、「2012年包括的豊かさに関する報告書:研究結果と政策への影響」として、20カ国の調査結果に基づいた同報告書の意義について語りました。ドゥライアパ氏は、この報告書の決定要因が生活の質に着目したものであり、これによって人口1人当たりの人工資本、人的資本、自然資本をもとに社会の生産的基盤の変化を評価していると説明しました。さらに、初回の報告書ではとくに自然資本に重点が置かれているが、次回は人的資本についてより掘り下げた調査を行う予定であると述べました。

    最後に、京都大学大学院経済学研究科教授の植田和弘氏が「包括的富指標の意義と課題」と題したプレゼンテーションを行いました。植田教授は、IWRが生産的基盤の観点から各国の経済成長の持続可能性を評価した世界初の報告であるとしたうえで、劣化する生産的基盤のもとでは国富の維持が不可能であるならば、経済成長が社会の生産的基盤を豊かにしているのか否かを問うべきであると主張しました。

    さらに、GDPや人間開発指数(HDI)のような所得に着目した従来の指標とは異なり、IWIは一国の生産的基盤を表すストックベースの手法を用いている点で革新的であると述べました。その一方で植田教授は、計測方法や国際的相互依存性といったIWIの課題についても触れました。

    最後に武内和彦国連大学副学長の司会による質疑応答が行われ、汚染や人的資本のような国境を越える問題の評価にIWIを活用する際の課題、政治的変化の影響、および適正価格取引データベースなどのリソースを利用してIWIの資本トレードオフと国際標準化を実現する方法について質問がありました。

    講演者からは、IWIの継続的発展と各国専門家との協力、IWIのさらなる改善を目指すインドの取り組み、ならびに次回以降の「包括的豊かさに関する報告書」の調査対象国を増やすためのIWIデータ拡大に向けた努力について説明がなされました。

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    このイベントは、国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)、地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)、東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)、サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアムおよび環境省の主催で開催されました。

    「Inclusive Wealth Report 2012( IWR: 包括的豊かさに関する報告書)」は、2012年6月17日に開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」において、国連大学地球環境変化の人間・社会的側面に関する国際研究計画(UNU-IHDP)、国連環境計画(UNEP)、およびその他のパートナー機関により発表されました。