2011年4月26日 東京
国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)は、東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム(HSP)と共同で、自然災害の人間に与える影響に対する準備、対策、理解に対して、人間の安全保障の枠組みがどのような関連性と重要性を持つかを考察する専門家会議を開催しました。東北地方太平洋沖地震後まもなくに開催された当ワークショップでは、学界、NGO、政府、そして国連諸機関から多くの専門家たちを迎え、政策提言や更なる研究にどのように人間の安全保障のアプローチを適応できるかについて論じられました。
日本で起きた地震と津波、2004年のスマトラ島沖地震と津波、2005年のハリケーン・カトリナ、そして2010年のハイチで起きた地震やパキスタンでの洪水など、自然災害は人々やコミュニティーの安全と生活を広範囲で脅かすものです。しかし、これまでの人間の安全保障をめぐる議論は、自然災害が人間にもたらす計り知れない被害ではなく、武力紛争や人権侵害などの人的災害に焦点が当てられてきました。また「兵庫行動枠組」などの災害リスク低減対策でも、一般的に人間の安全保障には触れられてきませんでした。
今回のワークショップでは、自然災害直後の緊急援助や長期的な復興と再生過程の文脈における、人間の安全保障アプローチの理論的・実践的価値について議論が進められました。国際機関や自衛隊、そして地元コミュニティーやビジネス界などの様々な立場の人々の役割を取り上げ、特に社会的に最も脆弱である女性や子供、高齢者の人間の安全保障をどのように保護することができるかも考察されました。
人間の安全保障概念を自然災害に適用することで、当ワークショップはこれまでのアプローチの弱点に着目すると同時に、この概念の持つ可能性も探りました。そこでは自然災害の脅威、関わる人々の立場、そして必要な対応は、武力紛争のような人的災害のものと類似することが指摘されました。実際に災害救助に携わっている機関のほとんどが、そうと銘打たずして、人間の安全保障の保護にあたっています。当ワークショップに参加した専門家たちからは、人間の安全保障はこれまで主に途上国の問題だと認識されていたが、ハリケーン・カトリナや東北地方太平洋沖地震などの自然災害を通して、この概念は最も豊かな先進国にもあてはまることが示された、との指摘がありました。