生物多様性がもたらす恵みに着目

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  • 2017年3月23日     東京

    国連大学サステイナビリティ高等研究(UNU-IAS)と東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)は3月12日、「生物多様性とサステイナビリティ:人と自然をつなぐ」と題した国際シンポジウムを開催しました。参加者は、どのように自然共生社会を構築し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献するか、また、どのようにサステイナビリティ学を発展させていくべきかついて、議論しました。

    開会のあいさつで、デイビッド・マローンUNU学長は、日本における伝統的な文化と生物多様性のつながりについて話すとともに、2016年までUNU上級副学長を務めていた武内和彦UNU-IAS上級客員教授の、これまでの功績を紹介しました。

    本シンポジウムでは、3つの基調講演とパネルディスカッションがありました。

    最初の基調講演を行った武内教授は、人と自然のつながりをより強くすることの必要性を訴えました。加えて、これまでのUNU-IASとIR3Sの取り組みとして、SATOYAMAイニシアティブ、世界農業遺産(GIAHS)、アジア、アフリカにおけるレジリエンス向上に関するいくつかの研究プロジェクトなど、具体的な事例を交えて解説しました。

    続いて基調講演した、グレッチェン・デイリースタンフォード大学教授は、人が自然の価値を感じたり、理解したりする方法に改革が必要だと呼び掛け、こうした考えは、武内教授とのやり取りの中で生まれたと明かしました。また、世界各地で行う「自然資本プロジェクト」についても説明しました。同プロジェクトにより、現在主流のGDPよりも優れた生態系の価値評価が可能で、意思決定者による、しなやかな社会の形成に向けた方策の検討、影響評価、そして効果的な投資等に対する解決策を見出すのに役立つと述べました。

    マイ・チョン・ニュアンベトナム国家大学前総長は、ベトナムの持続可能性の課題と可能性をテーマに基調講演しました。武内教授の大きな功績である里山のコンセプトに基づくさまざまな取り組みを紹介しながら、サステイナビリティ学の成果、および将来への展望を語りました。

    パネルディスカッションでは、まず、パネリストが順番にプレゼンテーションを行いました。

    中静透総合地球環境学研究所プログラムディレクター・特任教授/東北大学大学院生命科学研究科教授が、持続可能性や生物多様性保全に貢献する政策策定を支えるには、より精度の高い科学研究が求められていると強調し、その具体例として「社会・生態システムの統合化による自然資本・生態系サービスの予測評価(PANCES)」を紹介しました。ファブリス・ルノー国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)セクション長は、気候変動や減災に関する政策でも、生態系への注目が高まっており、政策決定者が活用できる規格やガイドラインを作成する必要があると述べました。

    沖大幹UNU上級副学長は、ミレニアム開発目標(MDGs)およびSDGsの概要を説明するとともに、過去数十年にわたる国際的な発展プロセスを振り返り、さらなる「持続可能性の開発」が必要と話しました。春日文子国立環境研究所特任フェロー/IR3S客員教授/フューチャー・アース国際事務局日本ハブ事務局長は、持続可能な世界に向けた取り組みを支援する国際的なプラットフォーム「フューチャー・アース」を紹介した上で、SDGsプロセスへの貢献や、日本国内での取り組みについても述べました。トーマス・エルムクヴィストストックホルム大学ストックホルム・レジリエンス・ センター教授/IR3S客員教授は、サステイナビリティとレジリエンスの両概念についての考察を共有し、特に、都市部における回復力のあるシステムに対する理解や、その構築のために実践する取り組みについて話しました。

    続く議論では、持続可能性や生物多様性保全など、複雑な問題に対処するためには、専門分野や国を超えた包括的なアプローチが必要であり、政策決定に有用な信頼性の高いデータを提供する必要性が高まっている、といった点が指摘されました。また、生態系の価値評価に関連し、特に、文化的・社会的価値を考慮しない、経済的な評価の欠点や政策形成への影響も議論されました。

    武内教授はシンポジウム閉会に際し、自然資本の保全や持続可能な社会の実現、そして本当の意味での福利の向上には、自然に対する価値観や行動を再考する必要があると語りました。