危機的状況に置かれた世界の食料確保:農業生態学から解決策は出せるのか?

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  • 2013年7月17日     横浜市

    2013年5月27日、国連大学高等研究所(UNU-IAS)で行われたプレゼンテーションのなかで、カリフォルニア大学バークレー校(米国)のミゲル・A・アルティエリ教授とクララ・I・ニコルス教授は、農業生態学が食料安全保障と農業の持続可能性という現在の世界的課題の解決にどう役立つのか、考えを発表しました。

    アルティエリ教授は、世界の人々の生活と福祉に影響を及ぼしている3つの重大な危機――経済、エネルギー、生態系の危機――を明らかにしました。そのなかでも、気候変動に加えて広範囲にわたる土壌浸食と海洋の酸性化と相関関係にあるのは、世界的にピークを迎えている総消費量、大気中の二酸化炭素濃度、種の絶滅であり、それらはすでに生態系レベルで多角的な林業と漁業の崩壊をもたらしています。さらに、そうした崩壊は、環境難民、貧困、飢餓、不公平性などの深刻な社会経済的問題の原因になっています。危機的状況にある私たちの経済システムと生態系が、石油の調達と環境安全保障の実現といういっそうの難題に取って代わられており、世界の食料安全保障への影響が懸念されています。

    人口増加に対応するため、今と同じだけの耕作地でこれまでより少ない石油、水、人工窒素を使いながら農業生産を拡大する――しかも、そのすべてを気候変動や他の形態の世界的混乱(金融不安など)が目立つ状況のなかで行う――必要性は、「危機的状況に置かれた世界において、どう食料を確保するのか?」という命にかかわる問題を投げかけています。

    こうした状況に従来型農業でうまく対処できると考えている人もいますが、アルティエリ教授は、そうした考え方の基礎にあるのは根拠の不確かな一連の基本前提であることを指摘しています。従来型農業を続けてきた結果、化石燃料資源は枯渇しかけており、水は権益をめぐって争いの起こる希少資源になりつつあり、気候変動はいっそう破壊的な影響をもたらしつつあり、私たちは農薬、除草剤、合成肥料の広範囲に及ぶ使用が人間と環境にもたらす既知の悪影響に加えて、バイオテクノロジーがもたらしうる潜在的影響を目にし始めているのです。

    しかし今回、アルティエリ教授が主張したのは、農業生態学が危機的状況にある世界に食料を確保するための答えであるということです。これまでより少ないエネルギーや資源を用いて生産を増大させるという無理難題ではあるものの、より理にかなった生態学的成果を利用すれば、それは可能であり、しかも過去に明白な成功例があると教授は断言しています。小規模自作農が今日の世界の70%に食料を供給し続けており、3億8,000万の小規模農場で働く15億人が、世界の食料の50%を生産していることを指摘しています。そうしたことから、私たちはこれらの小規模農家が実はどれほど生産的で効率的なのかをよく考えるべきなのです。

    将来に目を向けて、アルティエリ教授は十分な食料を生産することだけでなく、食料主権、つまり自らの食料生産システムを定義し運営する権利についても、議論しなければならないと述べています。食料主権に関して、地方政府などの組織が重要な役割を担うことができます。たとえば、地場市場で販売される地元の農産物に補助金を支給したり、学校や病院などの公益機関市場との契約を利用して、地元の小規模農産業を奨励したりする方法などがあります。

    講演の終わりにニコルス教授は内容を手短にまとめ、現場で実証できる直線的でない解決策の必要性を強調しました。「実現可能であることを証明すれば、議論は現場で終わります」とニコルス教授は締めくくりました。

    報告書の詳細とこのセミナーのビデオリンクについては、UNU-IAS ウェブサイト(英語)をご覧ください。