デイビッド・マローン国連大学学長の退任インタビュー

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  • 2023年2月28日

    10年間にわたり国連大学の学長を務めたデイビッド・マローン学長の任期は、本日(2023年2月28日)が最終日となります。

    10年間の任期中、マローン学長は、国連大学の性質を根本的に変えるさまざまな重要改革を推進してきました。国連やその加盟国のニーズにもっと寄り添えるよう国連大学のワーク・プログラムを再編したことや、国連大学と国連システムの他の機関との連携を強化したこと、そしてグローバルな国連大学システムのガバナンスとマネジメントの効率化を進めたことなどがマローン学長の業績としてあげられます。また、国連大学の幹部職におけるジェンダー平等の実現、各国の有識者の意見を東京の人々に届ける国連大学の公開イベント「対談シリーズ」を創設したことも重要な成果です。

    今月上旬、国連大学広報部長のカイラ・ボウマンと上級編集者のウィリアム・アッカーマンがマローン学長のインタビューを行い、彼の国連大学における任期や、大学の運営や発展についての考え、今後の計画について聞きました。

    以下は、そのインタビューの抜粋です(要約し、分かりやすさのために手を加えています)。

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    国連大学第6代学長としての自身のレガシーは何だとお考えですか?

    マローン学長: 私の業績はたいしたものではありません。最初の数年間は、できるだけ緩やかに、大幅な軌道修正を行うことに時間を費やしました。一番の業績と言えるのは、国連大学を安定させ、マネジメントを強化し、国連大学理事会と同理事会の大学に対する権限を強化したことでしょう。

    学長としての任期中、最も満足したことは何ですか?

    マローン学長: 第一に10年間も日本で過ごすことができ、それは特別でとても恵まれた時間でした。実に面白い経験で、ここで過ごして多くのことを得ました。

    キャリアを積んでから国連大学に赴任したことは、幸いなことでした。国連組織についてある程度は知識を得ていましたから。自分自身を国連のエキスパートと考えたことは一度もありませんが、私は国連、より広く言えば国際組織法の研究者であり、主に国際組織について調査・研究していたニューヨークに拠点を置くシンクタンクの代表も務めていました。いささかとりとめのない、でも、常に満足を与えてくれるキャリアを通じて、私は国連のさまざまな側面について知識を得てきました。ですから、国連大学に赴任して、微力ながら国連本体にそれなりの貢献ができると思ったのです。

    また、東京に滞在中も学術研究を続け、5冊の書籍をまとめました。そのようなぜいたくな時間を持てたことや、他のプレッシャーにもかかわらず教育の仕事を続けられたことは、大きな喜びでした。いずれの活動も私にとってかけがえのないものであり、どれ一つとして手放したくありませんでした。

    でも、今はもう退任の準備はできています。私に残された年月を楽しもうと思います。

    国連大学学長に就任するまでの道のりは?

    マローン学長: 研究の道に入ったのは遅い方です。大学卒業後、すぐに大学院に進んだわけではありません。カナダの外務貿易省で最初の常勤職に就き、そこで学んだことに興味を持つようになったのです。4、5年、働いた後、大学院(修士)課程に進もうと思いました。博士課程に進んだのはさらに遅く、40代前半になってからです。ニューヨークでの本業の他に、教師の仕事もしていました。教えるのが大好きだと分かったので大学院に戻ったのです。全てが、そんな感じです。一つの計画があるのではなく、一つのことが次のことに繋がっていきました。

    私のような人間が生涯を通じて実質的に独身であるということは、極めて珍しいことです。家族ぐるみで付き合ってくれる親切な友人に恵まれない限り、多くのことを逃してしまいます。でも、一人でいることのメリットの一つは、自分の心配だけをしていれば良いということです。リスクを負う勇気を与えてくれます。

    国連大学が直面する最も大きな運営上の制約は、何でしょう?

    マローン学長: 多くの高等教育機関と比べて、国連大学が負っている制約はずっと小さなものです。でも、組織の規模は、大きな制約になり得ます。我々がハーバード大学のように振る舞うことはできません。それができると考える人は、現実を直視すべきです。国連大学の規模の小ささは、極めて現実的な制約です。

    お金は、国連大学にとって最大の障害ではありません。我々には、この職員数の組織としては相当な額の基金があります。多くの学術機関にとって、お金こそが唯一、実質的な制約になっています。開発途上国の多くの大学では、必死に学ぼうとする学生がいて、有能な教授陣がいるのに、学生たちに一流のプログラムを提供できるだけのリソースや資金などがありません。

    ここ国連大学では、活動内容を精選することができます。そして我々は、本学での経験が学生にとって本当に有意義なものとなるよう、努めています。我々のプログラムはいずれも開発途上国から学生を迎え入れており、東京(国連大学サステイナビリティ高等研究所)ではほとんどが開発途上国の出身です。しかもその圧倒的多数が、エリート階級ではなく、中流階級の出身者です。学生が他からのサポートを受けられない場合には、ほとんど全てのケースで、我々が学生をサポートできます。国連大学はとても小規模ですが、我々と積極的に連携してくれるパートナー大学があり、そのような大学に対し、多くの授業の指導を含め、さまざまな責務を委ねることができます。

    大学である我々にとって難しいのは、国連のルールブックです。職員配置や運営管理について、あまりにも細かいことまで、国連の規則で定められています。結果を重視する人たちと仕事をする上で、これは全く時間の無駄です。我々の活動に関して言えば、整備されすぎた国連のルールブックは、あまり意味がありません。しかし、それを受け入れざるを得ません。国連の目標を支持し、積極的に国連を支援したいと望んでいるのですから、なおさらです。

    国連大学が、国連やその加盟国の政策ニーズにもっと寄り添うようになったことを示す良い例はありますか?

    マローン学長:将来予測はとても重要です。我々の組織上の主要目標は政策志向のシンクタンクであることだと決めた際に、新たなユニット、国連大学政策研究センター(UNU-CPR)を、ここ東京で設立しました。このチームは、(最終的には自立しなければなりませんから)ビジネスを生み出すべく、次のような将来予測を、かなりたくさん行いました: 国連大学が最初から関わることができ、かつ今後の4、5年で、我々の主要な収入源となり得る、あるいは、我々の強みとなり得る課題は何か?

    UNU-CPRは今、ニューヨークに拠点を置いていますが、今もなお、相当な量の将来予測を行っています。国連事務局には動きが遅い傾向があり、目の前の課題で身動きが取れなくなっている中ではなおさらです。ユニセフや世界食糧計画(WFP)など一部の機関は、将来計画の立案に優れ、事象に迅速に対応できます。しかし、国連組織の多くは、そうではありません。

    将来予測をすることで、大きな問題になる前に課題に気付き、考えをまとめておくことができます。一度、良い成果を上げて評判を得れば、国連またはより広範な国際社会にとって役に立つかもしれない特定課題への追加取り組みに、資金提供者は喜んでお金を差し出すでしょう。

    研究者は個人的に、常に自らの分野で将来予測を行っています。しかし我々は、多くの学術機関と異なり、より組織的に将来予測を行っています。

    過去10-20年間で、研究から政策への接続は変化しましたか?変化していたら、国連大学は、どのように進化して対応しましたか?

    マローン学長: 外の世界で根本的な変化があったかどうかは分かりませんが、国連大学について言えば、もっぱら学術的なものから、政策に焦点を当てるようになり、大きな変化がありました。ニューヨークに拠点を移したUNU-CPRでは、もっぱら政策に取り組んでおり、かなりの成功を収めています。自分たちが何をするのか、誰と協力して仕事をするのかを自由に選択できるようになったほどです。

    このことは、マネジメントにおいて難しい課題となるかもしれません。なぜなら、政策研究では、最も優秀な人たちと協力して仕事をする必要があるからです。多くの場合、最も優秀な人たちは、まだとても若く、誰がそうなのかを特定することは容易ではありません。そのような才能を探すには、実のところ、口コミに頼るのがベストです。

    また、政策のタイムフレームは、学術研究と比べて大幅に短いものです。大学での研究の主な目的は、何らかの方法で知識を増やすことです。それに対し、シンクタンクでの研究は、政策課題に具体的影響を及ぼすことを目指しています。シンクタンクは機敏で、将来の課題に対し常にアンテナを張っておくとともに、古くなったニュースをどのタイミングで見限るかも心得ている必要があります。どちらの種類の機関も知識を扱っていますが、それぞれのアウトプットは大きく異なり、何をもって成功とするかも違っています。

    今後10年で、国連大学はどう変わるとお考えですか?

    マローン学長: 国連大学内部では、おそらく、ほぼ全員が国連大学は規模を拡大すべきだと考えているのでしょう。私は、これについては少数派です。問題は、拡大にはリスクが伴うということです。なぜなら、財政的に拡大しすぎて、それに見合う成果を提供できなければ、結果はかなりゾッとするものになるからです。その一方、現状のままでは、もっと多くの資金を集めることは極めて困難です。

    総合的な業務を提供している大学の規模と比べると、国連大学は極めて小規模な機関です。相当な額の基金があることは幸運なことですが、その基金が徐々に減っていくとしたら、その影響は直ちに表れ、国連大学ができることは、さらに制限されるでしょう。

    しかし、国連大学にとって、さらなるイノベーションの機は熟していると思います。私の後継者は、より野心的なことをするため、もうちょっと多くの資金を集められるか、試してみたいと思うかもしれません。マルワラ学長は、理事会とも対話し、学内の同僚とも相談して、どこで賭けを仕掛けるか、また、どうやってその資金を得るかを知るのに、最適な立場にあると思います。

    後継者にはどのようなアドバイスを?

    マローン学長: まずは後継者が私と同じくらい仕事を楽しめることを望みます。マルワラ教授は学者であり、極めて今日的な分野、すなわち、人工知能を専門分野としています。ですから、全く違った観点から物事を見ることになるでしょう。アフリカで最も優れた高等教育機関の一つ、ヨハネスブルグ大学を率いてきた彼は、とても面白い人物だと思います。また、私より20歳も若く、まだエネルギーに溢れている彼を、羨ましく思います。近年、私のエネルギーは、徐々に失われつつありますから。

    ですから、私からのアドバイスは、どうかこの仕事を楽しんで、日本を楽しんでほしいということです。そして、科学者として、アフリカ人として、生まれながらのリーダーとして、国連のために何ができるかを考えてください。国連に対する貢献にはさまざまな形がありますが、自分が貢献できる一つの分野、あるいは、一連の地球規模の課題を見つけたら、とても大きな満足が得られるかもしれません。

    国連大学を離れた後の計画は?

    マローン学長: 楽しもうと思います。多くの男性は - 極めて「男性」的なことですが - 退職に不安を抱いています。彼らの自尊心の多くの部分が、仕事に結びついているためです。私は特にそのように感じたことはありません。ですから、そのような不安も全くありません。私はただ、残りの年月を、健康で楽しく過ごしたいと思います。70歳に近づくと、あと10年、健康でいられたら、とても幸運です。だとしたら、それを一大プロジェクトとして楽しんでみたらどうでしょうか?

    これが私の基本的な考え方です。私は読書が大好きです。私はあらゆる音楽が大好きですが、中でもクラシック音楽が大好きです。優れた映画や優れた演劇、舞台芸術全般が大好きです。ですから、一瞬たりとも退屈なんかしないでしょう。また世界中あちこちに、大好きな友人が大勢います。

    幸いなことに、引退後に過ごすどちらの場所にも、古くからの友人がいます。国際的な生活を送る我々のような者にとって、これは稀なことです。けれども、私は独身でしたから、これらの友情を大切に思い、育んできました。長年の知人と一緒に過ごす時間を、私はとても楽しみにしています。

    恵まれたことに、これほど長い時間、日本で生活することができ、国連の仕事とマネジメントに貢献する機会が得られました。他の機関を率いる同僚たちと一緒に仕事ができたのも、本当に楽しいことでした。国連大学の同僚たちと一緒に仕事ができたことを、とでも幸運に感じています。何もかもが、私にとって素晴らしい体験でした。

    でもこれからは、私の体調が良ければ、純粋な楽しみの時間にしたいと思います。古くからの友人たちと旧交を温め、新しい友人にも会えるでしょう。この上ない喜びが待っていると期待します!