下水に潜む大量のエネルギー、養分、水 – 回収できれば重要な利益に

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  • 2020年2月3日

    国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)は新たな調査で、世界で急増する都市下水の中から、貴重なエネルギーや農業用養分、水を大量に回収できる可能性があると発表しました。

    現在、全世界では年間約3,800億立方メートル(1m3 = 1,000リットル)の下水が排出されており、これはナイアガラの滝の年間水量の5倍に相当し、アフリカのビクトリア湖をおよそ7年、カナダのオンタリオ湖を4年、レマン湖を3カ月未満で満たせる量にあたります。

    さらに調査報告書によると、下水の量は急増しており、2030年までにおよそ24%、2050年までに51%の増加が見込まれています。

    排出される下水の主な養分を見ると、全世界の年間下水排出量に対し1,660万メートルトンの窒素のほか、300万メートルトンのリン、630万メートルトンのカリウムが含まれています。理論上、これらを下水から全部回収できれば、全世界の農業におけるこれら養分の需要の13.4%をまかなえる計算になります。

    このような養分を回収すれば、経済的な利益だけでなく、富栄養化を最小限に抑えるなど環境面でも重要な利益が生まれます。富栄養化とは、一定水域の養分が過剰になり、植物が増殖したり、酸素不足で水生動物が死滅したりする現象を指します。

    一方、下水に含まれるエネルギーで、1億5,800万戸に電力を供給できることも明らかになりました。これは米国とメキシコの世帯を合わせた数とほぼ同じです。

    これら調査報告書の推計と予測は、報告されている全世界の年間下水排出量に含まれる水、養分、エネルギーの理論量に基づいています。

    報告書の著者は、多くの国で下水の排出量、利用可能量、再利用量に関する情報が分散していたり、モニタリングや報告の頻度が不十分もしくは不明であったりすることを強調しています。また、現時点で資源回収の機会が限られていることも認めています。

    それでも、カナダ・ハミルトンにあるUNU-INWEHのアシスタントディレクターで本報告書の主執筆者を務めるマンズール・カディル氏は、次のように述べています。「この研究は水、養分、エネルギーの供給源として、下水が持つ世界的、地域的潜在性について、重要な知見を提供しています。下水資源の回収にあたっては、高い回収率を達成するためにさまざまな制約を克服する必要がありますが、それが成功すれば、持続可能な開発目標(SDGs)や気候変動への適応、『ネット・ゼロ・エネルギー』のプロセス、環境に優しい循環経済を含むその他の目標達成が、一気に近づくでしょう」

    主な調査結果:

    • 下水3,800億立方メートルに含まれるエネルギー値は、メタンに換算すると532億立方メートル。最大で1億5,800万世帯、すなわち1世帯の人数を平均で3人から4人と仮定すれば、4億7,400万人から6億3,200万人に電力を供給できる量に上ります。下水排出量の増大が予測されることから、この数は2030年に1億9,600万世帯、さらに2050年には2億3,900万世帯へと増えることになります。
    • 農業については、下水から回収できる可能性のある水により、3,100万ヘクタール、欧州連合(EU)の農地のほぼ20%にあたる面積の灌漑が可能になります(二毛作で、年間1ヘクタール当たり最大で1万2,000立法メートルの水を想定した場合)。
    • 世界の下水排出量は、SDGsの達成期限である2030年までに4,700億平方メートルとなり、現在の水準を24%上回ることになります。そして2050年までに5,740億平方メートルと、さらに51%増加する見込みです。
    • 最大の下水排出地域であるアジアでは、1,590億立方メートルの下水が作られていると推定されます。これは全世界の都市下水排出量の42%に相当し、この割合は2030年までに44%に達する見込みです。
    • それ以外に大量の下水を排出している地域としては、北米(670億立方メートル)と欧州(680億立方メートル)が挙げられ、欧州のほうが都市人口は多い(北米の2億9,500万人に対し5億4,700万人)にもかかわらず、下水排出量はほとんど同じとなっています。この違いは、1人当たりの下水排出量にあり、ヨーロッパの124立方メートルに対し、北米は231立方メートルとなっています。これとは対照的に、サハラ以南アフリカの1人当たり下水排出量は46立方メートル。限られた水供給量と、都市部での下水回収システムのずさんな管理を反映しており、全世界平均(95立方メートル)の約半分に止まっています。
    • 下水を全量回収できれば、理論上、全世界の窒素需要の4%、リン需要の6.8%、カリウム需要の18.6%を、肥料の栄養素としての利用が可能となります。調査結果によると、全世界の現時点での窒素、リン、カリの農業利用量(2017年時点で1億9,300万メートルトンと推定)に基づけば、下水からの養分全量の回収で、全世界の肥料栄養素の需要を約13.4%まかなうことができます。
    • 下水中の養分は理論上、全世界で136億米ドルの収益を生み出すことができます。その内訳は、窒素回収によるものが90億米ドル、リン回収によるものが23億米ドル、カリウム回収によるものが23億米ドルです。
    • 報告書では、人間の尿が、都市下水処理場に流れ込む窒素の80%、リンの50%を占めていることを示す先行調査を紹介しています。
    • 現状の下水養分回収技術は大幅に進歩しています。リンの場合、回収率は25%から90%に達しています。
    • 報告書は、下水に含まれる熱エネルギーの潜在的利用を経済的に最大限に生かすためには、1秒当たり最低で15リットルの流量、熱源と流し台の距離が近いこと、高性能の熱ポンプなど、いくつかの基本的要件をクリアする必要があると指摘しています。

    非従来型水源に関する研究を世界的にリードするUNU-INWEHのヴラディミール・スマッティン所長は、「都市下水はかつて、そして今もしばしば汚いものと見られています。しかし、私たちが下水から得られる水や養分、エネルギーの回収を改善する中で、経済的利益やその他環境面での利益の潜在性が極めて大きいという認識が広まり、変化が生まれています」と語っています。