国連、世界経済フォーラム、関連パートナーが、電子廃棄物の対策に向け協力

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  • 2019年1月24日     ダボス

    4次産業革命で生まれたテクノロジーは、大きな潜在性を示し、「脱物質化」のほか、製品の追跡や回収、リサイクル、サービスとして売れる製品を促進するでしょう。

    年間約5,000万トンの電子廃棄物(E-waste)が発生し、それにより625億米ドル相当の原材料が失われていますが、その量は2050年までに、3倍近くに増える恐れがあります。

    2019124日、ダボス(スイス)– 7つの国連機関は、世界経済フォーラムと持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)と連携し、電子廃棄物の課題に対処する世界的な行動を促すため、現在の電子システムの徹底的な見直し呼び掛ける報告書をまとめました。

    この報告書は、大手企業や中小・中堅企業、学界、労働組合、市民社会、各種団体との組織協力により、システムの方向性を変え、ほとんどの国の国内総生産(GDP)を上回る価値を有する資源の浪費を減らすための審議プロセスを始めるよう求めています。

    毎年、およそ5,000万トンのE-wasteが処分されていますが、この重量は、これまで生産された民間航空機の重さを上回っています。原材料の価値で言えば625億米ドルと、ほとんどの国のGDPを超える金額です。

    このうち、正規にリサイクルされるのは20%足らずです。インフォーマルセクターでは、全世界で数百万人(中国だけでも60万人以上)がE-wasteの処分業に従事しています。しかし、作業の多くは健康と環境の両方にとって有害な条件下で行われています。

    1月24日にダボス会議で発表された報告書『A New Circular Vision for Electronics – Time for a Global Reboot』は、クラウドコンピューティングやモノのインターネット(IoT)などの技術が、電子産業の段階的な「脱物質化」を支援できるとしています。

    報告書はその一方で、E-wasteに含まれる原材料のグローバルな価値に着目し、国際的な循環型バリューチェーンを創出するには、新たな技術の活用により、サービスのビジネスモデルを作り出し、製品の追跡を改善し、メーカーや小売店による回収プログラムの整備が必要であるとも論じています。

    また、材料効率の向上、リサイクルのインフラ整備、リサイクル素材の量と質の向上、そして電子機器サプライチェーンのニーズへの対応は、いずれも将来の生産に欠かせないとも述べています。

    電子部門を適切な政策と組み合わせて支援し、管理すれば、全世界で数百万人にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)が生まれる可能性もあります。

    共同報告書は電子機器につき、多国籍企業や中小企業、起業家、学界、市民社会、各種団体との協力により、廃棄物がデザイン段階で排除され、環境への影響が弱められ、数百万人にディーセント・ワークが生まれる循環経済を創出するよう求めています。

    今回の報告書は、E-waste Coalition(以下の機関)が共同でまとめました。

    • 国連大学(UNU)
    • 国際労働機関(ILO)
    • 国際電気通信連合(ITU)
    • 国連環境計画(UN Environment)
    • 国連工業開発機関(UNIDO)
    • 国連訓練調査研究所(UNITAR)
    • バーゼルおよびストックホルム条約事務局

    E-waste Coalitionは持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)と世界経済フォーラムによる支援を受けているほか、国連環境管理グループ(EMG)事務局が調整役を務めています。

    現場では多くの活動が行われています。例えば、循環経済がもたらす機会を把握するため、ナイジェリア政府、地球環境ファシリティ(GEF)、および国連環境計画は、ナイジェリアで正規のE-wasteリサイクル産業を立ち上げるため、200万米ドルを投資すると発表しました。この新たな投資では、民間企業からの1,300万米ドルを超える追加融資も活用されます。

    国際労働機関によると、ナイジェリアでは、インフォーマルセクターのE-wasteに関連する労働者が10万人にも上ります。今回の投資は、こうした労働者を正規化し、安全で人間らしい雇用環境を整備するとともに、50万トンに上るナイジェリアのE-wasteの潜在的価値を活用することに役立つと見られます。

    UNIDOはUNU、ILO、ITU、世界保健機関(WHO)のほか、Dellや国際廃棄物協議会(ISWA)など、数多くの組織とE-wasteプロジェクトで協力しています。ラテンアメリカ・カリブ地域では、GEFからの協調融資を受けたUNIDOのE-wasteプロジェクトが、13カ国で持続可能な経済・社会成長の支援を図っています。E-wasteのリサイクル施設の整備から、各国のE-waste管理戦略の確立支援に至るまで、循環経済のアプローチを採用しながら、地域協力を強化しています。

    世界経済フォーラムがアクセンチュア・ストラテジーの支援を受け、同じく発表した循環経済加速化プラットフォーム(PACE)報告書は、第4次産業革命で生まれた技術が、効率的かつ効果的に循環経済を達成するためのツールを提供し、あらゆる原材料にデジタルデータ(物質用のパスポートまたは指紋のようなもの)が添えられ、「物質のインターネット」ができ上がる未来の姿を描いています。PACEは世界経済フォーラムが主導する協業メカニズムとプロジェクトの推進機関であり、企業や政府、国際機関から50人のリーダーが参加し、循環経済に向けた連携を図っています。

    ステートメント:

    デイビッド・マローン、国連大学(UNU)学長兼国連事務次長
    「国連大学とその全世界のパートナーによる持続可能なE-waste対策の研究と呼びかけは、電子廃棄物の問題を政治的アジェンダに載せることに大きく貢献しています。しかし、現時点での取り組みは、この急速に拡大する問題に十分対処できていません。私たちは革新的な政策を策定する必要があります。また、私たちの政策が効果を上げているのかを測定するためのターゲットを確立し、状況を監視する必要もあります。さらに、新たなマルチステークホルダー型の同盟も必要です。E-wasteの削減には、民間セクターを含む多くの担い手の協力を要するからです。私たちは、E-waste Coalitionとこの報告書が、必要とされる重要なイノベーションのきっかけとなると期待します」

    ジャオ・ホーリーン、国際電気通信連合(ITU)事務総局長
    「ITUは2011年以来、E-wasteを削減、再考するための啓発活動の実施と取り組みの指導を行ってきました。よって私は、電子機器について循環経済を推進しようという運動の広がりを嬉しく思います。私たちがE-waste Coalitionをはじめ、新たに成立したパートナーシップを通じて力を合わせれば、廃棄物を富へと変容させ、開発の恩恵をすべての人に届けられます」

    ジョイス・ムスヤ、国連環境計画(UN Environment)事務局次長
    循環経済は私たち全員に、莫大な環境的、経済的利益をもたらします。UN Environmentは、ナイジェリア政府や地球環境ファシリティとの革新的なパートナーシップと、同国による循環型電子機器システムの導入を支援できたことを誇りにしています。地球の存続は、私たちが製品の寿命を延ばすことにより、その価値をどれだけ維持できるかにかかっています」

     ピーター・バッカー、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)プレジデント兼CEO
    「E-wasteは全世界で急激に増大しており、社会的、経済的なリスクにもなっています。この報告書は、私たちが今すぐ、大規模な行動を起こし、企業や国際機関、政府、NGOの協力を図らねばならない理由を明確に示しています。WBCSDは「ファクター10」と「プラスチック廃棄物をなくすためのアライアンス」を通じ、廃棄物のない世界の達成を約束しています。

     ガイ・ライダー、国際労働機関事務局長
    「最悪の条件で働く世界で最も貧しい労働者が、数千トンに上るE-wasteを取り扱い、その健康と生命を危険にさらしています。循環経済を人間と地球の双方に利するものとするためには、より良いE-waste戦略とグリーン基準のほか、政府と労使間のさらなる緊密な協力が必要になります」

     シュテファン・シカルス国連工業開発機関(UNIDO)環境部長
    「E-wasteの問題は、全世界の環境と健康に深刻な脅威を及ぼすグローバルな課題として、ますます深刻化しています。UNIDOはこの脅威を最小限に抑えるため、さまざまな国連機関やその他のパートナーと協力し、幅広いE-waste対策プロジェクトを実施していますが、いずれも循環経済のアプローチを基にしています。E-waste Coalitionは、よりクリーンかつ持続可能で安全な未来に向け、段階的措置を通じて、このような協力が、1+1が3にも4にもなるような変革をもたらす成果につながると実証しています」

     ニキル・セス、国連訓練調査研究所(UNITAR)事務局長
    「E-waste Coalitionとの協力は、新たなパラダイムシフトを示すものであり、こうしてでき上がった制度は、E-wasteのよりクリーンで持続可能な管理方法に向けた各国の前進を支援できる機会を極めて多く提供できます。UNITARには、各国の訓練ニーズ評価に基づき、E-waste管理バリューチェーンに関する訓練を行い、能力の構築が急務となっているという認識があります。私たちのプログラムを通じ、このパートナーシップや各国を支援できることを嬉しく思います」

     ロルフ・パイエ、バーゼル、ロッテルダムおよびストックホルム条約事務局長
    「世界におけるE-waste問題は、私たちが抱える緊急性の高い環境課題のひとつであり、特に女性、子どものほか、適切な保護具もなく、確立された規範にも従わずに開発途上国のインフォーマルなリサイクルセクターで働いている貧困層をはじめとした弱者にとっても、大きな健康上の脅威となっています。バーゼル条約締約187カ国が協力し、携帯電話やコンピュータの原材料のリサイクルと回収、および、廃棄物の越境移動とその適切な処分を含め、環境におけるE-wasteの適正な管理を確保するための技術的ガイドラインを策定した理由も、ここにあります」

     ドミニク・ウォーレイ、世界経済フォーラム専務理事兼グローバル公共財センター所長
    「循環経済は莫大な恩恵をもたらしますが、そのためには資源を単なる取引の対象として捉えることを控えるとともに、資源を使い捨てにするのではなく、経済を通じて丁寧に管理することが必要となります。第4次産業革命は私たちに、資源の流れについて考え直しながら、消費者によりよいサービスを提供する能力を与えてくれます。今こそ、このイノベーションの可能性を発揮する時です。電子部門が持つイノベーション能力と、電子機器の原材料に含まれる価値は、絶好の出発点となります」

    報告書『A New Circular Vision for Electronics – Time for a Global Reboot』は以下のURLよりダウンロードできます。http://www3.weforum.org/docs/WEF_A_New_Circular_Vision_for_Electronics.pdf

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    本件に関するお問い合わせ先:

    国連大学(UNU

    英語:
    テリー・コリンズ (Terry Collins) : +1-416-878-8712、tc@tca.tc
    ルーディガー・キュール (Ruediger Kuehr) : +49-228-815-0213/4、kuehr@vie.unu.edu

    日本語:
    中山 : +81-3-5467-1331、a.nakayama @unu.edu

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    国連大学 (www.unu.edu)

    国連大学は、人間の安全保障、開発、福祉に関する世界的な問題に関連した知識の拡充と普及、およびそれらの問題への対応能力の強化を目的として設置された国連総会の自立機関です。国連大学は、東京に本部を置き、世界各地に設置された研究・研修センターおよびプログラムのネットワークを通じて活動しています。

    ドイツ・ボンを拠点とするサステイナブル・サイクル・プログラム(SCYCLE)は、国連大学副学長欧州事務所の下、E-wasteに関する世界レベルの研究を実施し、対策提案を行っています。SCYCLEは、一般的な製品の製造・消費・処分によって発生する環境負荷を削減し、持続可能な社会を構築することを目的としています。