国連大学の最新報告書:世界中で起きている災害の相互関連性について

News
  • 2021年9月15日     ボン

    国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)は、9月8日に新たな報告書『相互に関連する災害リスク2020/2021年(Interconnected Disaster Risks 2020/2021)』を公表しました。本報告書では、2020年から2021年に世界中で発生した災害10件を分析し、その発生地はさまざまであり、一見共通点は少ないように見えるものの、相互に関連していることが明らかになりました。

    先月公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による第6次評価報告書の主な調査結果で示されているように、干ばつ、火災、洪水などの「極端現象」はますます相互に深刻化させており、人間活動による影響の可能性が高いです。本報告書では、気候災害のみならず、人災全般が過去の影響を受け、将来の災害につながる仕組みを相互関連性という観点から詳細に説明しています。

    異常気象、疫病や人災の頻度は世界的に増加しており、それに伴う変化と影響に対応することはこれまで以上に困難になっています。2020年から2021年の間に、世界では多くの記録的な災害が発生しました。例えば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界的に広がり、寒波によりテキサス州は麻痺状態に陥りました。また、森林火災によりアマゾンの熱帯雨林500万エーカーが焼失し、ベトナムではわずか7週間で9回も暴風雨に襲われました。相互関連性の視点から過去の事象を分析することで、今まさに発生している災害と将来発生する災害の両方について理解を深めることが可能です。

    UNU-EHSの副所長であり、本報告書の主執筆者であるジータ・セベスバリ氏は次のように述べています。「人々がニュースで災害について知るとき、しばしば遠く離れた出来事であるように思われますが、数千キロメートル離れた場所で発生する災害でさえ相互に関連していることが多く、遠く離れた場所に暮らす人々に影響を及ぼすおそれがあります」

    例えば、最近の北極圏における熱波とテキサス州の寒波が例として挙げられます。2020年、北極圏では気温が史上2番目に高くなり、海氷面積は史上2番目の小ささとなりました。北極圏の気温上昇により極渦と呼ばれる北極上空で渦巻く寒気団が不安定化し、通常よりも冷たい空気が北米へと南下しました。このように、北極圏の気温変化は、北極圏から遠く離れた場所にも影響を及ぼすとともに、一年を通じて温暖な気候であることが多いテキサス州で氷点下を観測したことにも影響した可能性が高いです。テキサス州の寒波により送電線網が凍結し、約400万人が電気を使えず、210人が亡くなりました。

    COVID-19のパンデミック(世界的流行)とサイクロン「アンファン」がインドとバングラデシュの国境地域で発生したように、災害はしばしば同時に発生し、相互に深刻化させています。この地域では、人口の約50パーセントが貧困ライン未満で暮らしており、COVID-19のパンデミックとその後のロックダウン(都市封鎖)により、多くの人々は収入の選択肢を失いました。その中には、帰国を余儀なくされ隔離中にサイクロンシェルターに収容されていた出稼ぎ労働者を含まれています。同地域がその後サイクロン「アンファン」に襲われたとき、多くの人々は、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)、衛生面やプライバシーを懸念してシェルターへの避難を避け、安全ではない場所でサイクロンを乗り切りました。医療センターが破壊され、COVID-19の感染者数が一部地域で急増したため、この「スーパー」サイクロンによりその後のパンデミックへの対応状況が悪化しました。「アンファン」は100人以上の死者を出し、被害額は130億米ドルを超え、490万人が家を失いました。

    多くの場合、災害は同じ根本原因から発生します。すなわち、一見無関係な災害を発生させる状況を生み出している同一の根本的な原因により、これらの災害は相互に関連しているのです。本報告書の分析において、事象の大半に影響を与えた3つの根本的な原因を特定しています。その3つの原因とは、人為的な温室効果ガスの排出、不十分な災害リスク管理と意志決定における環境面のコストと利点の軽視です。人為的な温室効果ガスの排出は、テキサス州で氷点下の気温に見舞われた一因である一方で、世界の全く異なる地域で発生した全く異なる災害であるスーパーサイクロン「アンファン」の発生にも影響しました。テキサス州の寒波でこれほど多くの死者が発生し、インフラに甚大な被害をもたらした一因は、不十分な災害リスク管理ですが、ベトナム中部の洪水における深刻な被害の発生にも影響しました。

    しかし、災害は相互に関連しているのみならず、私たち個人にも関連しています。アマゾンにおける記録的な森林破壊と森林火災の一因は、世界的に食肉需要が高いことにあります。養鶏飼料には大豆が用いられ、その大豆を栽培するためには農地が必要です。つまり、災害の根本的な原因の一部は、実は事象そのものが発生している場所から遠く離れた人々の行動による影響を受けているということです。

    共同主執筆者であるジャック・オコナー氏は次のように述べています。「本報告書により、世界中で発生している災害は、私たちが考えているよりもはるかに相互に関連しており、災害は個人の行動にも関連しているということが分かります。自分の行動が、世界中の人々に影響を及ぼしているのです。しかし、朗報なのは、問題が関連しているのであれば、解決策も関連しているということです」

    本報告書は、社会・個人の両方のレベルにおける解決策を紹介し、ある一つの行動が多くのさまざまな種類の災害に影響し得る仕組みを説明しています。例えば、温室効果ガスの排出を削減すれば、災害の頻度や深刻度がさらに高まることを防ぎ、生物多様性と生態系を守ることができます。

    本報告書で取り上げた10件の災害は以下の通りです。

    1. アマゾンの森林火災―世界の人々の食欲が拍車をかけた森林火災
    2. 北極圏の熱波―気候災害への悪化
    3. ベイルートの爆発事故―国際社会が船舶を放棄したとき
    4. ベトナム中部の洪水―備えだけでは不十分なとき
    5. 中国のハシナガチョウザメの絶滅―恐竜の時代を生き延びたが、人類からは生き延びられなかった魚
    6. COVID-19のパンデミック―パンデミックが示す生物多様性の価値
    7. サイクロン「アンファン」―サイクロンとパンデミックが重なるとき
    8. 砂漠バッタの大発生―管理可能なリスクが制御不能になった経緯
    9. グレートバリアリーフの白化現象―失われるのは自然の素晴らしさだけではない
    10. テキサス州の寒波―回避可能な大惨事だったのか

     報告書はこちらからご覧ください。

    本件に関するお問い合わせ

    英語:国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS) 広報担当
    ジャニーン・キャンデル
    kandel@vie.unu.edu, +49 151 2672 1390

    日本語:国連大学 広報部
    mediarelations@unu.edu