2012年11月13日 東京
国連大学は危険な残留性有機汚染物質(POPs)のモニタリングを行うために
アジア諸国の支援を継続します
残留性有機汚染物質(POPs)はこれまで創り出された物質のなかでも最も有害な人工的な物質の1つです。農薬、溶剤、プラスティックなどに用いるために合成されたものであれ、工業プロセスにおいて不要な副産物として生成されたものであれ、POPsは人間活動によって長い間環境中に放出されてきました。一旦放出されると、POPsは何年もあるいは何十年もの間環境に残留し、水や空気によって発生源から広範囲に拡大する恐れもあるのです。
POPsは食物連鎖を通じて体内組織に蓄積されるため、生物にとって危険です。高濃度の場合には、慢性疾患や死をもたらすPOPsもあります。低濃度の場合でも、身体の免疫系や生殖器系の損傷など、潜行性の健康被害を及ぼす可能性があります。
環境中のPOPsレベルをモニタリングする能力は、有効な救済策とリスク削減政策を実施するうえで不可欠です。しかし開発途上国の多くは、科学的な専門知識の面でも分析機器の入手可能性の面でも、こうした能力に欠けています。
「アジア沿岸水圏における環境モニタリングとガバナンス」プロジェクトは、この問題に対処するための国連大学の取組みです。東京に拠点を置く国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)は、島津製作所の支援(ガスクロマトグラフ質量分析装置などの実験装置、ならびに技術研修の提供)を受け、この能力開発のイニシアティブを実施しています。このイニシアティブを通じて、開発途上国に国内のPOPsのモニタリングを行うための科学的知識と技術を提供し、開発途上国がストックホルム条約などの多国間環境協定に適切に対応し、実施できるように支援します。
「アジア沿岸水圏における環境モニタリングとガバナンス」プロジェクトは、官民パートナーシップによる国連のパイオニアプロジェクトの1つとして1996年に開始されました。これまでに最新のPOPsのモニタリングと分析技術に関し、アジア10カ国の参加機関である政府系機関や大学の100名を超える研究者の研修を行ってきました。このプロジェクトはまた、学界、民間企業、政府を超えた地域あるいは国際ネットワークへと成長してきました。
11月12日(月)、東京の国連大学本部にてコンラッド・オスタヴァルダー国連大学学長と中本晃 島津製作所代表取締役社長は、さらに3年間(2012年~2015年)、プロジェクトのパートナーシップを延長する合意書に署名しました。
環境中のPOPsの影響は深刻であるため、国際条約である、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約が2001年に採択され、2004年に発効されました。ストックホルム条約の目的は、(現在21ある)POPsの化学物質の製造、輸出入、使用を制限し、最終的には廃絶することです。
野生生物の研究では、環境中のPOPsへの暴露により、生殖障害/個体数の減少、先天異常、オスのメス化/メスのオス化、ホルモン系の機能異常、免疫系の低下、行動異常、腫瘍を引き起こすことが明らかになっています。
しかし、問題は野生生物に限られたことではありません。世界中の人間の血液、筋肉、脂肪組織からPOPsが検出されています。POPsの人間の健康への影響に関する研究は継続されていますが、 人体にPOPsが蓄積されると、わずかでも、がんや神経行動障害(学習障害など)の一因となり、免疫系を低下させ、生殖に関する問題や伴性疾患を引き起こす可能性があることがこれまでにわかっています。
POPsに汚染された地域は、開発途上国の多くで見られます。農薬の不適切な使用、一般/産業廃棄物の不十分な管理、備蓄品の無差別な廃棄など、環境上の不適切な管理によるものです。地元住民や下流に住む人々だけではなく、汚染された地域で栽培された食物を食べる人々もリスクにさらされます。
「アジア沿岸水圏における環境モニタリングとガバナンス」プロジェクトの第5期の3年間では、これまでにプロジェクトパートナーの国々の科学者を支援し、有機塩素系農薬(OCPs)、ポリ塩化ビフェニル(PCBs:変圧器、コンデンサ、電動モータなどで広く使用)、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDEs:建築、電気、プラスティック、繊維などで使用)を主とした100種類以上のPOPs化合物を測定し、分析してきました。プロジェクトパートナーは、アジア諸国の800以上の河川、湖沼、沿岸域の(サンプリング)地点から収集された水質、底質、土壌、海洋生物(エビ、魚類、イカ)の試料のPOPs濃度を分析しました。
島津製作所の中本社長は「持続的成長と環境保全、それを支える分析技術の普及という観点で、非常に意義深い」プロジェクトと呼び、国連大学のオスターヴァルダー学長もこの点を繰り返し、「このUNU-ISPのプロジェクトは、島津製作所とのパートナーシップ下で運営されることで、開発途上国におけるプロジェクトパートナーに対する支援ならびに研修の場の提供を行い、国際社会に貢献してきた」と述べました。
11月12日の調印式で国連大学と島津製作所が承認するプロジェクトの次の3年間では、2009年5月にストックホルム条約の附属書Bに(ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)とその塩、ペルフルオロオクタンスルホン酸フルオリド(PFOS-F)として)追加されたペルフルオロ化合物(PFCs)に重点が置かれます。
「過去5期のプロジェクトにおいて、PFCsの分析は行われておりません。」とオスターヴァルダー学長は述べました。「PFCsの適切な管理の重要性を考慮すると、第6期プロジェクトでは参加国パートナーの分析能力の育成を強調するだけではなく、アジアの近隣諸国ならびにすべての途上国にこのプロジェクにおける能力育成の実績を伝えることが不可欠であると、私は考えます。 また、ストックホルム条約におけるこれらの物質に対する再調査に従い、私たちは今期プロジェクトにおいて、プロジェクト結果をもとにPFCの使用についての提案書を作成し、残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)に提出する予定です」
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国連大学広報部は、プロジェクトの詳細についてのお問合せおよびインタビュー、またはUNU-ISP 「アジア沿岸水圏における環境モニタリングとガバナンス」プロジェクトに重点を置いた記事やニュースの執筆のお手伝いをいたします。広報部の牧までご連絡ください。(maki@unu.edu、03-5467-1298)