2017年12月14日 東京
世界の電気電子機器廃棄物(E-waste、バッテリーまたはプラグを搭載した廃棄物)に関する最新の報告書によると、2016年のE-waste発生量は4,470万トンで、2014年から8%、330万トン増加しました。
使用済み冷蔵庫やテレビから、太陽光パネル、携帯電話、パソコンに至るまで、2016年の世界のE-waste発生量は、重量にしてギザの大ピラミッドの約9個分、もしくは、エッフェル塔4,500塔分に相当します。また、荷物を満載にした18輪40トントラック123万台分に相当し、それらを並べた距離は28,160 km、ニューヨークとバンコクの往復距離に匹敵します。
専門家は、2021年までにE-waste発生量は、さらに17%増え5,220万トンに達し、世界の一般廃棄物の中で最も急拡大していくと予測しています。
『Global E-waste Monitor 2017(世界のE-wasteモニター2017)』は、国連大学副学長欧州事務所が実施しているサステイナブル・サイクル・プログラム(SCYCLE)により、国連大学(UNU)、国際電気通信連合(ITU)、国際廃棄物協会(ISWA)が共同作成した報告書です。
E-wasteには金、銀、銅、プラチナ、パラジウムなどの高価値で回収可能な物質が多く内蔵されているにも関わらず、2016年に発生したE-wasteのうち回収・再利用されたのは、わずか20%でした。控えめに推定しても、昨年1年間に発生したE-wasteに含まれていた回収可能な資源の価値は550億ユーロで、世界のほとんどの国の2016年国内総生産を上回る数字となっています。
2016年のE-wasteのうち、ゴミ廃棄場で処分されたのは約4%で、76%にあたる3,410万トンは焼却、埋め立て、非公式な(個人リサイクル業による)リサイクルによって処分されたか、家庭に放置されたままの状態であると推定されます。
このほか、報告書では、一人当たりのE-wasteについても同様に増加傾向が示されています。
価格の低下により、世界中の多くの人々にとって電気電子機器が手に入りやすくなり、さらに、より経済的に豊かな国では、新しい機種への変換や新たな製品の購入が加速する流れとなっています。
その結果、全世界の人口一人当たりの平均E-waste発生量は、2014年の5.8kgから5%増の6.1kgとなりました。
一人当たりのE-waste発生量が最も大きかったのが、オーストラリア、ニュージーランドなどを含むオセアニア諸国の17.37kgで、そのうち、正規に回収・再利用されたのは、わずか6%でした。
次に一人当たりのE-waste発生量の多かったのが、ロシアを含む欧州諸国の16.6kgでした。ただ、欧州は回収率が最も高く、35%となっています。
南北アメリカ諸国では、一人当たりの発生量が11.6kgで、回収率はわずか17%でした。これは、アジアの回収率の15%とほぼ同等の低い割合となっています。ただし、アジアでの一人当たりの発生量は4.2kgで、アメリカのほぼ3分の1です。
また、アフリカでは、一人当たりの発生量は1.9kgとなっています。回収率については情報が得られないため不明です。
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E-waste急増の主要因となっている3種類の電気電子機器(EEE)
EEEのうち、次の3種類のE-waste発生量は3,360万トンで、世界の発生総量4,470万トンの75%を占めています。これらの種類のE-wasteは、今後最も増加するものと予測されています。
小型家電 / Small equipment(掃除機、電子レンジ、換気機器、トースター、電気ケトル、電気髭剃り、電子スケール、計算機、ラジオ、ビデオカメラ、電気・電子玩具、小型電気・電子道具、小型医療機器、小型監視制御機器など)2016年の発生量は1,680万トンで、2020年までの年間増加率 は4%と予想されています。
大型家電 / Large equipment(洗濯機、乾燥機、食器洗い機、電気ストーブ、大型印刷機, コピー機、 太陽光パネルなど) 2016年の発生量は920万トンで、2020年までの年間増加率 は4%と予想されています。
温度交換機器 / Temperature Exchange Equipment(冷蔵庫、冷凍庫、エアコン、ヒートポンプなど)2016年の発生量は 760万トンで、2020年までの年間増加率は6%と予想されています。
一方で、小型化が進むため、量的に急激な増加はないと予測されているものは、次のとおりです。
小型の IT および通信機器 / Small IT and telecommunication equipment(携帯電話、位置情報計測システム(GPS)、小型計算機、ルーター、パソコン、プリンター、電話機)2016年の発生量は390万トンで、 2020年までの年間増加率は2%と予想されています。
増加が予想されていないのは、次のとおりです。
照明機器 / Lamps(蛍光灯、 高輝度放電ランプ、 LED 照明)2016年の発生量は70万トンで、2020年までの年間増加率は1%と予想されています。
今後、量的に減少していくと予測されるものは次の通りです。
スクリーン/ Screens(テレビ、モニター、ラップトップパソコン、ノート型パソコン、タブレットなど)重量のあるCRTスクリーンからフラットパネルディスプレイに取り換えられているため、2016年の発生量は660万トンですが、2020年までの年間減少率は3%と見込まれています。
E-wasteとなる製品は上記の6種類に分類されていますが、同じ種類に属している製品でも、それぞれ耐用年数が異なるため、各種類の発生廃棄量や経済的価、また適切にリサイクルされなかった場合の環境および健康への影響は異なります。このため、回収・流通プロセスおよびリサイクル技術は、種類によって異なるほか、欧州の研究では、種類によって電気電子機器を処分する時の消費者の意識も違うという結果が示されています。
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開発途上国におけるEEE売上の急激な伸び
多くの開発途上国で可処分所得が増加し、電気電子機器の売上にもその影響が表れています。EEE全体の売上は、2000年から2016年にかけて急拡大しており、購買力平価(PPP)の低い新興国では過去最大の伸びを記録しています。
購買力平価(PPP)の最も高い国のEEE売上の年間平均伸び率は1.6%
PPPの高い国のEEE売上の年間平均伸び率は5.2%
PPPの中程度の国のEEE売上の年間平均伸び率は13%
PPPの低い国のEEE売上の年間平均伸び率は23%
PPPの最も低い国のEEE売上の年間平均伸び率は15%
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世界の人口を上回る携帯電話契約者数
報告書では、携帯電話やパソコンなどコンピューター関連の電気電子機器が世界的に拡大している傾向と要因について指摘しています。中でも顕著な要因として健康、教育、行政、エンターテインメント、商取引などの分野で、電子電気機器を介するアプリケーションやサービスの増加が挙げられています。こうしたアプリケーションやサービスへのアクセスはより高速に、また規模も拡大していることから、利用者は今後も増加するとみられています。
報告書のその他の主な内容は次のとおりです。
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報告書の提言:リサイクルの拡大と、E-wasteに関する世界で統一された測定方法と基準が必要
報告書では、再使用や再利用を容易にするための電気電子機器の部品設計の改良、使用済みEEEの回収・リサイクル率の向上、E-waste追跡システムと資源回収プロセスの改良について、世界的な取り組みを強化する必要性があると指摘しています。
電気電子機器廃棄物法を制定する国は増加しています。現在、世界人口の66%が住む、67カ国においてE-waste管理法が制定されています。この数字は、2014年の44%、61カ国から増加していますが、昨年のインドの法制定が増加の主要因です。
しかし、自国のE-waste発生量とリサイクルの流れを正式に測定できているのはわずか41カ国にとどまっており、このためE-wasteの大部分(4,470万トンのうち3,410万トン)の末路は不明となっています。報告書では、「国がE-waste管理制度を制定していても、必ずしもそれに呼応して、制度の施行や、回収・リサイクルの数値目標など、効果的な政策に欠かせない事項の設定が進んでいるわけではない」と指摘しています。
E-waste管理制度を制定していない国では、E-wasteはその他の廃棄物と同様に扱われ、E-wasteに含まれる有害物質が不適切に管理されている恐れがあります。非公式な業者が、適切な労働者保護策を講じないまま、銅や金などを廃棄物の中から採取しようとするケースも懸念されています。
また、法律の対象となっているE-wasteの種類も国によって大きく異なっているため、世界で統一する必要があります。
報告書では、「E-wasteに関する統計の改善、現在の主要データのギャップの解消なしには、現行および新しい法律の有効性を測定し、今後の改善点を明確にしていくことは不可能だ」と指摘しています。
E-wasteが豊かな国から貧しい国へと不法に持ち込まれている動向を追跡するためにも、正確なデータの収集・集計が求められています。
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アジア地域のE-wasteの現状
アジア地域(49カ国)では、2016年、総量として1,820万トンのE-wasteが排出されました。これは、全世界の排出量4,470万トンのうちの40.7%にあたります。また、中国は、世界で最も多い量のE-waste (720万トン)を排出しています。日本の排出量は210万トン、インドは200万トンでした。
アジア地域で、人口一人当たりのE-waste排出量が最も多かったのは、キプロス(一人当たり19.1キログラム)、香港(一人当たり19キログラム)、ブルネイとシンガポール(一人当たり約18キログラム)でした。
中国やインドなど、人口の多い国がE-wasteに関するルールを設けているため、アジアでは平均で人口の72%に当たる人々が、国のE-wasteに関する管理規制を受けています。
東アジア地域のE-wasteの公式な回収率はおよそ25%ですが、中央アジア・南アジアでは未だに0%であり、大部分のE-wasteが非公式の処分業者に渡っているとみられています。アジア全体での回収率は15%となっています。
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日本のE-wasteの現状
日本は、今回の調査が対象とした種類のE-wasteのうち、そのほとんどを使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律の元で回収・リサイクルしています。E-wasteに関し、日本は拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility)をベースとしたシステムを世界で初めて実施した国の一つで、強固な法的枠組みと、先進的な回収システム、回収・リサイクルに関する進んだインフラが整っています。日本は、こうしたシステムを通じて、2016年に54万6400トンのE-wasteを回収しました。
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報告書についてのコメント
「世界が抱えているE-waste問題は拡大し続けています。E-wasteの測定方法を改善することが、数値目標の設定と確認、そして政策策定のために非常に重要です。国のデータは国際的に比較可能なものでなければなりませんし、そのデータを絶えず更新し、公表し、説明する必要があります。世界、地域レベルともに製造と商取引を基にした現行のデータは、これらに関係した資源の価値と重要性、および危険な処理や焼却または埋め立て処理が行われている可能性から考えて、まったく満足いくものではありません」
ヤコブ・リーナー(Jakob Rhyner) 副所長、国連大学欧州事務所
「環境保護は、持続可能な開発の3つの柱の一つであり、ITUは情報とコミュニケーション技術が生み出す廃棄物の安全な処理を、先頭に立って推進しています。その取り組みの中で、ITUはE-wasteの取り扱いに有用な提案を行っています。『Global E-waste Monitor 2017』は、政府の新たな情報供給源として、健康と環境におけるE-wasteの有害な影響を減らす管理戦略、基準、政策の策定に役立つでしょう」
ホーリン・ジャオ(Houlin Zhao)ITU事務総局長
「私たちはさらなるデジタル化社会へと変貌する過渡期の時代を生きており、自動操作、センサー、人工知能によって、全ての産業、日常生活、社会が変わり始めています。E-wasteは、この過渡期が生み出す最も象徴的な副産物であり、これからかつてない速さで増大していくことは明らかです。E-waste管理の適切な解決方法を見つけるということは、技術的進歩を利用して、廃棄物のない未来を構築することであり、貴重な資源を含んだ複雑な廃棄物の流れを、循環型経済の実現に活かせるかどうかが試されているのです。しかしまず初めに、E-wasteに関する世界的、地域的な統計データを統一した方法で測定し、収集する必要があります。『Global E-Waste Monitor 2017』は正しい方向へ歩み出すための非常に重要な報告書です。SWAは、E-waste問題における世界的な対応を構築する非常に重要な第一歩として、引き続きこのプロジェクトに協力していきます」
アントニス・マブロプロス(Antonis Mavropoulos)委員長、国際廃棄物協会(ISWA)
「世界の多くの地域での所得の増加に伴ってE-wasteの排出量も増加しており、持続可能な開発目標(SDGs)達成に対するいくつもの課題が生まれています。E-wasteに関するさらに有用なデータがあれば、特にSDGs目標12『持続可能な消費と生産のパターンを確保する』達成の一助となるでしょう」
ルーディガー・キュール (Ruediger Kuehr)代表、国連大学副学長欧州事務所 SCYCLE
「この報告書は、E-wasteの解決策を特定するための重要な第一歩です。E-wasteに関するさらに有用なデータがあれば、事態の推移や、目標の設定と確認、開発途上国の政策作成に役立ちます。また、E-waste発生量を最小限に抑えることや、E-wasteの違法廃棄や不適切な処理の防止、再利用の促進、リサイクル部門での雇用の創出にも資するでしょう」
ブラヒマ・サヌウ(Brahima Sanou)電気通信開発局長、国際電気通信連合(ITU)
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本件に関するお問い合わせ先:
(英語)
ルーディガー・キュール (Ruediger Kuehr) : +49-228-815-0213/4 kuehr@vie.unu.edu
ヒラリー・マクブライド (Hillary McBride) : +81-3-5467-1212, mcbride@unu.edu
テリー・コリンズ (Terry Collins) : +1-416-878-8712, tc@tca.tc
(日本語)
横川 : +81-3-5467-1275, yokokawa@unu.edu
国別のE-wasteデータなどが記載されている報告書の全文は、解禁後に以下のURLよりご覧いただけます。
www.ewastemonitor.info
報告書の著者への事前インタビューをお受けします。また、12月13日午前10時(米国東部標準時)から、報告書についてメディアを対象とした電話会見を行います。参加の申し込みは、+1-408-740-7256へ電話でお問い合わせいただくか(会議ID 4168788712)、以下をご覧ください。https://bluejeans.com/4168788712/browser
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国連大学 (www.unu.edu)
国連大学は、人間の安全保障、開発、福祉に関する世界的な問題に関連した知識の拡充と普及、およびそれらの問題への対応能力の強化を目的として設置された国連総会の自立機関です。国連大学は、東京に本部を置き、世界各地に設置された研究・研修センターおよびプログラムのネットワークを通じて活動しています。
ドイツ・ボンを拠点とするサステイナブル・サイクル・プログラム(SCYCLE)は、国連大学副学長欧州事務所の下、E-wasteに関する世界レベルの研究を実施し、対策提案を行っています。SCYCLEは、一般的な製品の製造・消費・処分によって発生する環境負荷を削減し、持続可能な社会を構築することを目的としています。
国際電気通信連合、電気通信開発局 (www.itu.int)
国際電気通信連合(設立当初は万国電信連合)は、情報通信に関する問題を扱う国際連合の専門機関です。
国際廃棄物協会(ISWA)(www.iswa.org)
ISWAは廃棄物管理全般に関する経験、情報の交換を促進しています。廃棄物管理において、基準を満たしたシステムの導入、健康と環境の保護を働きかけているほか、物的資源とエネルギー資源の保全を目的とした技術開発と活動の改善も推進しています。