気候リスク保険を強化し災害の影響を受けやすい地域を支援

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  • 2019年12月24日     ボン

    Photo by UNU-EHS/Andrea Milan

    2019年は、気候変動の最前線で暮らす全世界の人々にとって、またも困難の多い年になりました。特に海抜の低い島嶼国は、ハリケーンや熱帯低気圧、津波、豪雨、干ばつ、高潮、波浪を含む異常気象に多く見舞われ、異常気象への適応に向けた解決策が急務であることが明らかになりました。

    そうした中、気候変動の影響を受けやすい地域の人々を支援するため、地域横断的な南南学習・研究を促進する取り組みとして、Climate Risk Insurance Research Collaboration(CRIRC、気候リスク保険共同研究)が設立されました。この連携には国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)、ミュンヘン気候保険イニシアティブ(MCII)、南太平洋大学、西インド諸島大学および国連太平洋金融包摂プログラム(PFIP)がパートナー機関として参加しています。

    パートナー機関はCRIRCにより、災害リスクファイナンス、保険およびソーシャルペイメント(社会的支払い)に関する研究と開発、学術研究書や政策文書の刊行を行うための協力体制を確立しました。

    MCIIのゾンケ・クレフト事務局長は、「私たちは排出量を削減するだけでなく、異常気象の多発化と激化の影響から身を守るための選択肢を提供し、最も影響を受けやすい人々を支援する必要があります」と述べています。「気候リスク保険は、その他の防災戦略と組み合わせて適用すれば、そのような選択肢の一つとなりえます。この10年で大きな前進を遂げた分野ですが、気候変動との関連ではまだ革新的なものとして捉えられているため、より組織的なアプローチ、知識共有の強化、地域間や異なる組織間でのネットワークづくりによって、より前進できる余地があります」

    CRIRCの最初の優先研究課題の一つは、太平洋地域島嶼国のインフォーマル経済です。ここでは活力に満ちた人々が、自分自身とその家族のための生計手段を作り出していますが、生鮮食品の販売人や手工芸品の製作者、養蜂家、魚やカニの販売人として、正式な法的保護の枠外で活動しているため、正規の金融・事業支援制度を簡単に利用できません。業務形態としては個人事業や小規模または家族企業のかたちを取っていて、この種の収入活動では女性が圧倒的に大きな役割を果たしています。

    多くの島嶼国政府は、サイクロンをはじめとする異常気象による被害の大きさと影響により、気候変動と自然災害から立ち直る上で深刻な財政的課題を抱えています。復興と再建に向けた資金を、長期的な財政バランスを損なうことなく確保するための選択肢が限られていることが多いのです。

    これに対しCRIRCのパートナー機関は協力関係を築くことで、小島嶼国における災害リスクファイナンスの社会経済的および規制上のニーズと需要を分析し、革新的なリスクファイナンスの仕組みを開発・評価し、そして災害リスクファイナンスの手段を各国のリスク管理・災害対策にいかに統合できるかを明らかにすることを目指しています。

    気候リスク保険は、最近発生した災害関連の損失と被害を受けて、カリブ海全域でも急激に関心が高まっています。西インド諸島大学(UWI)副総長であるヒラリー・ベクルズ教授は、「UWIには、このイニシアティブに参加する義務と特権があります」と述べています。「UWIは気候に対するレジリエンス構築に努め、かつ、気候変動が生存上の脅威となっている地域に位置する大学です。気候変動への適応、災害リスクの削減、持続可能な開発に関する専門知識で貢献すること、そして、気候変動関連の多くの課題に直面している太平洋島嶼国の研究者や政府、地方自治体との連携を強化することは、私たちの義務であると考えています」

    借り入れや、手ごろで信頼できる保険契約がなかなか利用できない中で、気候変動関連の事象に起因する経済的損失の多くは、政府や地域社会、各世帯が、開発援助機関の支援を受けながら負担しているのが現状です。その影響が長年にわたって続いた結果、気候変動が原因で貧困に陥る人々が出てきています。CRIRCは、気候保険研究に関する協力と調整を通じ、小島嶼国でのこうした気候による貧困の発生を防ぐための方法を明らかにすることを目指します。

     

    南太平洋大学(USP)について

    USPは、太平洋地域最大の高等教育機関であり、太平洋地域の文化と環境のあらゆる側面に関する教育、研究、コンサルティングおよび研修の国際的な中核拠点となっています。南太平洋全域にキャンパスを有するUSPは、太平洋島嶼12カ国の政府が共同で所有しています。https://www.usp.ac.fj/

    西インド諸島大学(UWI)について

    UWIはカリブ海地域を拠点とする世界的に評価の高い大学です。その活動は、ジャマイカのモナ、トリニダード・トバゴのセントオーガスティン、バルバドスのケイブヒル、アンティグア・バーブーダのファイブアイランズ、そしてオープンキャンパスという、英語圏カリブ海諸島5カ所のキャンパスのほか、北米、ラテンアメリカ、アジア、アフリカの国際センターでも行われています。www.uwi.edu

    国連太平洋金融包摂プログラム(PFIP)について

    PFIPは太平洋全域を対象とするプログラムとして、太平洋諸島に暮らす200万人以上が金融サービスや金融教育を受けられるよう支援を行っています。このプログラムは国連資本開発基金(UNCDF)と国連開発計画(UNDP)が共同で運営しています。http://www.pfip.org/

    国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)について

    国連大学の一部としてドイツのボンを拠点とするUNU-EHSは、環境災害と地球規模の変化に関連するリスクと適応の研究を行っています。UNU-EHSによる研究は、環境的要因と社会的要因の相互作用に配慮しつつ、こうしたリスクを削減するための政策とプログラムを促進しています。研究分野には、保険関連のアプローチを取り入れた気候変動への適応、環境の影響による移住と社会的脆弱性、生態系に基づく適応と防災問題の解決策、また都市空間や都市と農村の接点に着目した、自然災害に関連する脆弱性とリスクを分析するための手法などがあります。UNU-EHSは、ボン大学と共同で修士課程プログラム「環境リスクと人間の安全保障の地理学」を開講するとともに、環境リスクと持続可能な開発というグローバルな問題に関する博士課程プログラムも実施しています。https://ehs.unu.edu/

    ミュンヘン気候保険イニシアティブ(MCII)について

    MCIIは2005年4月、気候変動枠組条約と京都議定書で示唆されているように保険ベースの解決策が気候変動への適応に寄与できるという認識の高まりに応じるかたちで、保険会社や研究機関、NGOが共同で立ち上げた非営利組織です。www.climate-insurance.org