国連大学の最新報告書:災害被害の軽減策を提示

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  • 2022年8月31日     ボン

    この夏、世界中で数々の異常気象が見られましたが、災害の相互関連性に着目した国連大学の最新報告書では、適切なソリューションの導入で自然現象が大規模災害になるリスクを軽減し、場合によっては完全に防げることを示しています。

    気候変動が加速し、その影響がますます強く感じられる中、自然や生物多様性の喪失の影響で災害リスク軽減の課題は、将来ますます増え、より困難になる一方です。リスク対応のためのソリューションは既に世界中で導入されていますが、異なる災害同士に共通する根本原因や対応策などの相互関連性は、いまだソリューションの設計や実施の中核に位置付けられていません。

    国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)による報告書『相互に関連する災害リスク2021/2022年』では、世界中で起きた10件の災害を分析しています。災害は、知名度が高く、大規模なグローバル課題を代表するものが選ばれ、そこから災害同士に共通する根本原因や要因を特定し、複数の災害リスクを予防または軽減し得る以下8つのソリューションを提示しています。

    1. 自然を活かす(自然の作用と共生する)
    2. イノベーションを起こす(新しいアイデアを活かす)
    3. 力を合わせる(協力を強化する)
    4. 生計を守る(人々を守るためのセーフティーネットを確立する)
    5. 持続可能な消費(消費パターンを修正する)
    6. ガバナンスを強化する(組織・団体の能力を強化する)
    7. リスク対策をとる(リスクに配慮したインフラを設計・建設する)
    8. 早期警報システムを強化する(リスクの予測・伝達能力を強化する)

    過去1年間だけでも、災害は世界中で1万人の命を奪い、2800億ドル以上に上る損害をもたらしました。

    UNU-EHSの上級科学者で本報告書の筆頭著者であるジャック・オコナー博士は次のように述べます。

    「朗報は、災害が相互に関連しているのと同様に、ソリューションも相互につながっていることです。一つのソリューションで異なる複数の災害リスクを予防または軽減できます。私たちは本研究を通じて、災害の影響を防ぐ、もしくは大幅に緩和するためのソリューションを複数特定しました。それらは、人々の命を救い、大きな損害を回避するために役立ちます。」

    エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されるCOP27の2カ月前に発表された本報告書が示すのは、問題の表層から一歩踏み込んで深部を探り、森林伐採や都市化など災害を引き起こす要因を特定すれば、災害が起こる前に発生リスクを減らすことができるということです。例えば、森林伐採で風雨から守ってくれる木々や根が不足すると、土壌は簡単に流れたり飛ばされたりするため、土壌侵食が起きます。これが、複数の自然災害にとって好条件を作り出してしまい、例えばハイチ地震の際には破壊的な地滑りが起こり、マダガスカル南部では砂嵐が発生し、そして台湾の貯水施設では土砂が堆積して干ばつを悪化させました。その結果、人命、住居、生計を立てる手段などが失われました。この場合、「自然を活かす」ソリューションを採用すれば、自然の作用を活用して災害を減らすことができます。例えば、森林の再生により、土壌を安定させ、土地の劣化を防げます。

    本報告書で特定されたソリューションは、「パッケージ」として実施されると最も効果を発揮します。すなわち、複数のソリューションが一体となって働き、相互に関連する個々の災害の異なる要素に対応するのです。例えば、迫り来るコガシラネズミイルカの絶滅に対応するためのソリューションのパッケージには、保護区域の共同管理のために地元の漁業コミュニティーと協力すること、より持続可能な漁法を開発・導入すること、持続可能な消費に関し啓発活動を行うこと、そして有害な乱獲や違法取引を防ぐための規制を強化することが含まれます。こうしたパッケージでの実施は、いずれかのソリューションを独立して実施した場合に比べ、問題に対応できる可能性が高くなります。

    UNU-EHS副所長で本報告書の共同筆頭著者であるジータ・セベスバリ博士は次のように述べます。

    「本研究が示す結論は明確です。スマートなソリューションに投資し、そうしたソリューションの規模を拡大して実施していかなければ、2021-2022年に起きた災害は一つの『ニューノーマル(新たな日常)』の幕開けとなるでしょう。変化を起こす責任は、社会のあらゆる層に所在します:民間セクター、各国政府、地域や地元の意思決定者のみならず、私たち個人にも。私たちのあらゆる行動が、私たち全員に影響をもたらすのです。相互につながった世界では、私たち全員がソリューションに参加しなければなりません。」

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    メディアの皆様へ

    詳細情報やインタビュー等のご要望は、以下までお問い合わせください。

    国連大学広報部 中張有紀子
    y.nakahari@unu.edu
    03-5467-1275/080-7078-4193

     

    報告書『相互に関連する災害リスク』について

    UNU-EHSが年一回発行する科学的知見に基づいたオープンソースの調査報告書であり、 2021年に創刊されました。災害の発生頻度が上がっていることが認識され、災害への備えと対応には改善が見られるものの、私たちは今なお、新たな異常気象や新たに生まれる脅威によって窮地に立たされ続けています。報告書では、毎年10件の災害を調査し、それらがどのように相互に、そして人間の行動に関連しているかを分析しています。見逃しがちな相互関連性を解説し、どのように相互関連性を利用してソリューションを開発すべきかを説明します。同時に、報告書は徹底した科学的分析に基づいており、10件の災害の全てについてその背景を明らかにするテクニカルレポートを付しています。報告書本文、テクニカルレポート、そしてエグゼクティブサマリー(概要)をinterconnectedrisks.orgで公表しています。

    国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)について

    UNU-EHSはドイツのボンに拠点を置き、環境災害や地球規模の変化に関連したリスクや適応について研究しています。研究により、環境的要因と社会的要因の相互作用を考慮しつつ、こうしたリスクを軽減するための政策やプログラムを推進しています。研究分野として、保険関連アプローチを組み込んだ気候変動適応、環境に起因する人々の移住や社会的脆弱性、そして適応や防災への生態系に基づいたソリューション、自然災害関連の脆弱性やリスクを分析するためのモデルやツールの開発などがあげられ、特に都市空間や都市・地方間の接点に焦点を当てた研究を行っています。UNU-EHSではボン大学と共同理学修士課程(MSc)プログラム「環境リスクと人間の安全保障の地理学」を提供するとともにし、環境リスクや持続可能な開発という地球規模課題に関する国際的な博士課程プロジェクトやコースを提供しています。

  • 『相互に関連する災害リスク2021/2022年』概要

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